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人生初、文学コンテストに応募した話

夏の甲子園決勝戦で球児たちが白球を追い、夏休みの残り日数が悲しくも数えられるような頃になると、いつも思い出す景色がある。

東京から遠く離れた地方、そこにある港町。
その港から少し離れた住宅街、間口が狭く奥行きがある昔ながらの区割りの土地に建つ細長い二階建ての家。
その家の中で一番涼しい二間続きの和室に置かれた古く重い座卓。その上には本と、数本の鉛筆、裏が白いチラシの束。そして白紙の原稿用紙をにらみつけ、ふてくされているおかっぱ頭の女の子の姿。

幼少期の筆者である。


なぁ~んて格好つけて書いてはいるが、要するに、夏休みの宿題である読書感想文が書けずに苦しんでいただけです。はい。

とにかく「文章を書く」ということが苦手な子供でした。
本が好きで、毎年新学期に教科書が配布されると、その日のうちに国語の教科書を読破してしまうタイプの子。国語は大好きで、テストで「この時の主人公の気持ちを答えろ」系の自由記述問題なんて大・大・大得意だった。
しかし「作文」となった途端、授業中に完成させられず宿題として持ち帰るあんばい。
そんな子供が、夏休みの小学生のビッグイベント「読書感想文」をスラスラと書ける訳がないんですよ。
「今日こそ本を決めなさい」「ハラを決めて書くの」「ちょっとでいいから書けばやる気になるから」などと母に尻を叩かれ、甲子園の開会式が行われる頃、やっと本選びを始めるのが毎年の恒例行事だった。

この子にはその後、入学試験、単位がかかったレポート課題、卒業論文、入社試験、仕事での報告書……人生で接する全ての「作文」に手こずる運命が待ち構えている。
がんばれ、小学生の私。それでも人生は続くのだから。

そんな私が、大人になったある日、こんな風に突然noteで文章を書きはじめてしまうのだから、人間というのは不思議なものである。しかもけっこう楽しんで書いていたりする。
まさに、人生というのは鬼が出るか蛇が出るか分からないというやつだ。




1.○○は走りたがる

唐突な告白を先にしておかねばいけないのですが、私は乗馬が下手な馬術部員でした。
学生時代、一緒に入部した同期より上達が遅かったため、学生選手権や国体といった大きな大会に出場した事がありません。

当時、あまりに下手すぎて練習で行き詰まり、学校の馬術部だけではこれ以上の上達は難しいと気がついてしまったんですよね。
何とかしなければと焦っていた頃、学外の厩舎で指導してくれるコーチと出会い、その人の元へ練習に通った事で、まぁ何とか人並みに馬にまたがっていられる程度には上達した、という感じです。
この時、私の面倒をみてくれたコーチが、以前noteで記事にしたこともある「先生」なんですよ。

柵で囲われた練習場で真面目に乗るより、学内を愛馬に乗って散歩したり、厩舎裏の林を馬で駆け抜ける遊びが好きだった私のことを、先生は呆れ顔で眺めていました。

「俺は林を馬で駆け回るなんて命知らずな事はやんねーわ。馬に乗って死にたくないだろぉ?」
「お前は度胸があるんだか、馬鹿なんだか……」

あ、私の素性がバレた。

そうなんです!
わたくし、馬と鹿の間に産まれました♡

当時、そんな自由奔放な私の最高に叶えたい夢の1つが「モンゴルで遊牧民と一緒に草原を駆ける事」
馬鹿と煙はなんとやらと言うが、馬鹿は遠くへ走りたがるものらしい。


2.モンゴルへ

そんな長年の夢を実現すべく、7月中旬、モンゴルへ行ってきた。

小学生の頃、椎名誠のモンゴル旅行記を読んで以来、ずっと憧れていた草原の国。

広い草原で、遊牧民と馬を並べて駆けてみたい!

いつ叶うとも分からない漠然とした夢であったが、心のどこかで引っかかっていた憧れをついに叶える事ができた。

初めてのモンゴルは、主催者と同行者、宿のスタッフやガイドさんに恵まれたお陰で、モンゴルの良さを沢山感じられる旅でした。
特に、子供から大人まで、25頭ほどの群れで一緒に草原を駆ける体験は日本ではなかなかできない。まるで競馬騎手の心地で馬を走らせる経験は本当に貴重な時間。
今ならレース中の武豊さんの気持ちも分かる気がするので、今度の週末は馬券を買った方が良いかもしれない。もし大当たりしたら、来年のモンゴル旅行の資金にしたい。

草原滞在中は毎日馬に乗るチャンスがあったのだが、その最終日、参加者+ガイドさん+遊牧民の大将&少年達で駆けている時、ちょっとしたアクシデントが発生した。

私はその日、初めて割り当てられた馬だったのだが、他の馬に比べて少し背が高い馬だった。乗ってみると、なんだか足が速く、馬のやる気が余っていたようで、元気いっぱいに走り出してしまったのだ。

馬に勢いがついてトップスピードになると、人間が止めるのは本当に難しい。

「びっくりアクシデント100連発!」のようなテレビ番組で、競馬中にコントロールを失って騎手を乗せたまま爆走する競走馬の映像をご覧になった事、ありませんか?
馬が人間のコントロールを超えて走り出すと、プロである騎手でさえ手に負えないんですよね。
いわんや、素人をや。

日本では、乗馬や競馬は柵に囲われたエリアで行われるため、万が一、馬が暴走しても柵の前で止まる事ができる。一応、理論上は。

しかしモンゴルの草原では、物理的にブレーキをかけられる場所が無い。マジで!なーんにも無い!
周囲数キロに渡り、何もないだだっ広い草原で馬のコントロールを失うというのは、想像するだに恐ろしい。
かろうじて、遥か遠くに山というか、山頂まで草原が続く丘があるので、できるとすればその山に向かって馬を走らせる事くらい。馬は上り坂ではエネルギーを使うので自然と足が遅くなる。
ただし、その山だって少なく見積もっても数キロ先。数キロの距離をコントロール不能の馬につかまって爆走する恐怖を想像すると、正直チビりそうだ。誰か大人用のパンパースをください。

実際には、制御不能だけは回避し、何とか皆と一緒に楽しく駆ける事ができたが、コントロール不能になる予感がした瞬間は本当にゾワリとした。
私は今、あの瞬間を思い出して冷や汗をかいている。

3.書きたい

モンゴルから帰国後の数日は、荷解きと洗濯に追われる日々。

「アッツゥゥ。とけるぅぅ……」

ぼやきながら、草原の思い出と土ぼこりにまみれた服を洗っては干し、洗っては干すの繰り返し。汚れた乗馬服を予洗いした際、バケツの水が茶色く濁ったのを見た時には、野球部やラグビー部の子を持つ親の気持ちがよーく分かった。
運動部の子供を持つ親御さん、夏休みも残り数日ですが生きてますか?

帰国して4日目くらいの夜、ベランダで洗濯物を取り込みながらモンゴルの楽しかった思い出に浸っている時、ふと思ってしまった。

「これ、書いておかないと忘れちゃうな」

なんと言っても、こちらは容量が小さい脳の持ち主である。
この前なんて、以前職場が一緒だった後輩に街なかで偶然声をかけられたが、「あー! 久しぶり! 元気?」と口をついて出たものの、その後輩の名前が全く思い出せなくて焦ってしまった。
あちらは「徳田さぁぁぁ~ん!」なんて、手を振りながら明るく私の名を呼んでくれたというのに。
記憶力に限界があることは自分が一番良く知っている。

職場で顔を合わせなくなった途端、相手の名前をを忘れる現象に名前をつけて欲しい。
はて、もしやこれは認知症の始まりだろうか。

話が横道にそれてしまった。
そう、とにかく日記でも、エッセイでも、どんな形式でも良いから草原での楽しかった日々を残しておきたかった。幸い、私にはnoteがある。
形式自由、文字制限無し、写真や動画もアップロードし放題。こんなにも表現者に優しい活動ベースがあるだろうか。

日記形式が書きやすいかな? などと考えながら沢木耕太郎の著書を手に取ったり、ネット上の旅行記を読んでいた所、ある「エッセイコンテスト」の募集要項にたどり着いた。

募集テーマ「馬に関すること」
文字数「20×20原稿用紙、8~10枚」
締切「8月某日必着」(ネット提出や持込不可)

馬に関することなんて、初めてモンゴルで乗馬をした私が今こそ書きたいテーマ。

これ応募したい!

思わず壁のカレンダーを確認する。
締切まで約2週間ある。郵送する事を考えると、文章を練ることができるのは10日ほど。当然、仕事もあるので、集中して取り組むことができる休日は実質2~3日しかない。

大脳の中で私と私の話し合いが始まる。

「書けそう? やれると思う? コンテストなんて応募したことないでしょ?」

「いや、note書いてるんだから大丈夫。4000字なんて楽勝! やれるよ。いけっ!」

大脳からGOサインが出た。
小学生の時、夏休みの読書感想文を書けず、原稿用紙をにらみつけていた私が。
高校受験の時、国語の作文試験で、試験終了の3秒前まで四苦八苦していた私が。
高校3年生の時、日本語より英語が得意な帰国子女の友達から「この文章じゃだめ。点数もらえないよ!」と国語の課題を手直しされていた私が。
大人になった今、ついに公募コンテストに文章を出そうという気になった!

お母さぁぁぁ~ん!
あの作文を書けなかった娘が!文章を書きますよぉぉぉ!
この子、まだ伸びしろがありますよぉぉぉ!


とにかく、普段はライブへ行った時のレポートのようなものや、生活の中で感じたことを自由闊達に5000字クラスでだらだらと書いている身である。

20×20字の原稿用紙10枚=4000字

5000字 > > > 4000字 

大変 ← ← → → 楽勝

A級妖怪 > > > B級妖怪

突然話は変わりますが、かつて週刊少年ジャンプに連載された「幽☆遊☆白書」というマンガがありましてね。冨樫義博先生という孤高の天才が、睡眠時間を削り、腰痛と戦いながら作品を描きあげ、その名を世に知らしめた1990年代の大人気作品であります。
私は小学生の頃、児童館の本棚でそのマンガを知ったのですが、まぁ分かりやすく言うと「ザ・少年ジャンプ的バトルマンガ」。
主人公の少年が敵である妖怪と戦って強くなり、倒す度に前回より強い敵があらわれる……。という、わかりやすいストーリーでした。

その作品の中で、敵である妖怪の強さを表す単位が「A級、B級、C級……」というもの。当然、C級よりはB級が強く、B級よりはA級が強い。という設定。
幽☆遊☆白書での敵の強さのランク分け設定を拝借するならば、普段の私は、A級妖怪クラスであるところの5000字と戦っている。とすると、B級妖怪クラスの4000字も書けるだろうという理論である。

……なぜ浦飯幽助(主人公)基準でモノを考える。

ちなみに、いや、ここまで話を脱線させておいてちなみにもへったくれも無いのですが、幽☆遊☆白書を大人になって読み返すと、敵役のキャラクターが立っていてとても味わい深い。
主人公の味方の女性陣の事はさらりと描くのに対し、主人公の仲間の過去の傷や、敵の残忍性、敵キャラクターの設定の深さは味方側の比ではない。
冨樫義博先生という人は、ダークなものを描くと筆がのるタイプだと思うのだが、一体どのようなお考えで、小学生男子がみんな大好きな○○○を背景に溶け込ませようとするのか。その辺りをいつか解説して頂きたいものである。


4.書き始めてみた


書き始める前に、テーマと構成を考えてみた。
今回のモンゴル旅行は、乗馬中に印象に残ったシーンが2つあった。その2つはどうしても忘れたくない。そのシーンを描写し、その時の私の感情の動きを盛り込んだ上で4000字のエッセイに仕立てるのは、難しくないような気がした。
根拠のない自信だったけれど、新しいことを始めるのに「できる」と自分を信じる事ができた私は幸せ者だ。たぶん、あまり何も考えていないからだと思う。もう、なんの不安も迷いもなく、モンゴルでの経験をエッセイに書き始めてしまった。

エッセイを書く時間は、休みの日か、仕事から帰ってきてから寝るまで。帰宅が遅くなった日は、書きあがった部分を読み直し、おかしな日本語を訂正するだけにした。夢中になって書くと寝るのが遅くなってしまう。深夜に寝て、翌日普通に起きて出社できる自信がなかった。

普段noteの記事を書く際は、note内で直接書くのだが、今回は応募用なのでとりあえずwordの横書きで書き始めてみる。
そして思った。

あれ?文字数足りなくね?

書き出し→エピソードA→まとめ

エピソード1つだけをさらりと書いたはずなのに、気が付くと文字数カウントが4000字を超えていた。
あの…… まだ「エピソードB」書いてないんですけど。

書き出しとまとめを削り、さらにエピソードBを投入した上で4000字に収める技術など持ち合わせていない。この時点で、提出するまでの休日は残り2日しかなかった。
計画変更、エピソードAだけでエッセイを完成させることにした。

今振り返ってみると、このエッセイに取り組むと決めた時「難しくない」などど甘く考えていた私を殴りに行きたい。

♪~今から一緒に これから一緒に 殴りに行こうか~
YAH YAH YAH~♪

ちょっと、CHAGEとASKA誘ってくるわ!

5,応募要項と戦う

計画を変更し、エピソードAだけで4000字におさめることにしたが、これがなかなか大変だった。
ここまでお読みになった方は薄々感じているとは思うのですが、私の文章は何かと脱線しがち、おふざけに走りがちである。なぜなら、私が馬と鹿の間に産まれたから。
私の中に流れる馬と鹿の血が、私をふざけたおしゃべりマンにさせるのだ。

そして、夜に強い生活スタイルの方ならばお分かりいただける感覚だと思うのですが、夜も深い時間に文章を書いていると、少しハイになってしまう。そのせいで、ついおかしなことを書き連ねてしまう。
夜はちゃんと寝よう。みんな達。

クタクタになって仕事から帰り、前日ハイになってふざけて書いたものを、手直しする日が続いた。あぁ指と指の間をすり抜けるバラ色 ……無駄骨の日々よ。

それでも、おふざけ部分は削除し、粘り強く読みなおす夜を続け、最後の休日前には3900字におさめることができた。ここまでくれば完成間近。幽遊白書でいえば、暗黒武術会の決勝戦の最終戦。浦飯幽助VS戸愚呂(弟)の戦いである。

ついに最終決戦!というところまで来て、初めて原稿用紙に変換をしてみた。応募要項では「20文字×20文字の原稿用紙、8~10枚」となっている。枚数不足や枚数超過は失格。
紙での郵送が条件なので、原稿用紙に直し、締切の数日前には郵便で投函しなければいけなかった。

Wordの横書きで書いたものを原稿用紙設定に変換するには多少時間がかかる。変換を待つ間、キッチンで冷たいお茶を汲み、パソコンの前に戻ってきたら原稿ができていた。

原稿用紙 12ページ

まじか……。
3900字まで減らしたというのに、規定枚数を楽々と越えてしまっていた。
「浦飯……お前は無力だ」
私の頭の中の戸愚呂(弟)がつぶやいている。

そうか。4000字を目指して書き始めたのがいけなかったのか。
原稿用紙10枚は確かに4000字だが、4000字で書いたのでは原稿用紙10枚など簡単に越えてしまう。小学生でも分かることが、私は分かっていなかった。

あぁぁぁぁーー! 私バカぁぁぁぁーー!

人生でこれほど、己と馬と鹿を罵倒した日はなかった。
もう何もかもが嫌になり、この日はここでパソコンを閉じて寝た。
カッカした頭の熱を取るため、クーラーを強めにかけ、目覚ましもかけず、ふてくされて寝た。
人間、行き詰まった時は寝るに限る。私の逃げ道はいつも睡眠だ。


次に起きた時には休日の朝10時だった。
窓を開けると、夏の強い日差しと、都会の蒸し暑い空気が部屋に流れ、ぼんやりしていた意識が一気に覚醒した。

オレはやるぜ!オレはやるぜ!

私の脳内に、緊急「自信」速報が流れる。
己の意識がシーザー(漫画「動物のお医者さん」に登場するハスキー犬。やる気にあふれたイヌぞり犬のリーダー)くらい前向きになっているのが分かる。寝る前のふてくされた気分はどこへやら。
そうかやるのか。やるならやらねば。

ここまで来て、棄権はできない。とにかく絶対に戸愚呂(弟)を倒し 仕上げて応募するのだ。

削除しても構わない部分はないか、表現が重なった部分はないか、代名詞に差し替えて文字数を減らせる部分はないか、繰り返し読み直して、どんどん削っていった。とにかく棄権だけはしない。必ず提出するのだという気力だけで画面にかじりつくばかり。

やっと10枚におさまったのは2時間後。
約3700字、規定の最大枚数である10枚目の19行目に達していた。残り1行しか空きがなくても、とにかく規定枚数にはおさまった。


6,紙にする


とりあえずエッセイは完成した。けれどもまだ応募はできない。今回のコンテストは紙に印刷し、郵送での応募だ。
紙に印刷するため、セブンイレブンのネットプリントサイトにデータをドロップする。私はプリンターを持っていない。しかし、家の隣にセブンイレブンの店舗がある。隣のセブンイレブンのコピー機は実質私のプリンターだ。

1枚20円×10枚=200円 を支払い、紙になった自分の文章を読む。普段、パソコンやスマホの画面でしかnoteを読まないので、自分の書いたものが紙になっているという感覚がこそばゆい。

帰宅してベッドに寝転がって読んているうちに、表現や句読点がおかしい部分、改行誤りを見つけてしった。慌てて飛び起き、自分の原稿に朱を入れる。自分の文章を読んで照れている場合じゃなーい!
しっかりしろ!と自分に鞭を入れ、原稿をひたすら音読する。

原稿を読むうち、ふと、応募要項が気になって、改めて募集のページに目を通してみた。

「原稿に表紙をつけ……」

表紙?表紙ってなにぃ!?

慌てて調べる。文学系のコンテストでは「表紙」をつけるよう指定される場合があるらしい。
タイトル、氏名、ペンネーム。応募する賞によっては、連絡先やコンテストの受賞歴、作品のあらすじを記入する場合もある、と。
今回応募するコンテストは、指定の応募票を記入し、それを表紙に貼付けして応募することになっている。表紙の形式までは指定がないので、タイトルと氏名だけを書いておいた。
あいにく、私には文学賞の受賞歴など書けるものが無い。だってこれが人生で初めての応募だから。

一度直した原稿データと表紙データ、これらネットプリントのサイトにドロップ。今度は220円を支払い、2度目の印刷だ。

表紙に応募票を貼付け、机のわきに寄せておく。改めて、音読しながら校正に取り掛かる。
完璧だろうと思い印刷したはずの原稿にも朱が入った。音読をすると、どうしても違和感がある部分が出てくるのだ。粘り強く直す、直す、直す。
今回試してみて気が付いたのだが、音読が手直しに大変役立った。誤字の発見はもちろん、より良い表現を見つけやすくなる。Wordの読み上げ機能も便利だが、自分で読む方が違和感に敏感になれる気がする。

よし完成!これで出すぞ!と思った時にはもう夕方だった。急いで応募用封筒の表書きを作成し、表紙を入れて隣のセブンイレブンに駆け込む。印刷も3度目、第3稿だ。
ついに出すぞ、これをもって郵便局へ行くぞ!と鼻息荒くプリンターのパネルを操作した。

出てきた用紙を手に取り、手放す前ににさらりと目を通す。

あれ?なんか今、違和感が……。

なんだろう、何かが変だった。プリンターの上に原稿用紙を広げ、目を皿のようにして読む。

ここ、漢字が違う!

今まで何十回も、本当に大げさではなく何十回も見直したのに、もうこれで提出するというタイミングで誤字を発見してしまった。コンビニの片隅で膝から崩れ落ちそうになるのをグッとこらえ、私の勘違いであることを祈りながら確認のためスマホで検索するが…… 間違いなく誤字だった。

あ~ぁ、またやり直しか。
誤字に気が付いた以上、このまま提出することはできない。急いで帰宅し、原稿を手直しする。ついでに、気になった句読点の位置も直し、まさかの第4稿を仕上げる。
さすがに4度目の印刷となると、ちょっと嫌気がさした。自分でやりたくて挑戦するのに嫌になるというのも変な話だけれど、セブンイレブン1日4往復はさすがにうんざりする。応募するまであと少しなのに、こんな所で急に私の飽き性が顔を出す。

今日中に投函しないと締切に間に合わない!と自分に鞭を打ち、まだまだ暑さの残る夕方の街に踏み出した。
これ以上は支払わないぞと誓い、コインをコピー機に投入する。出てきた原稿が間違いないことだけを確認し、自分の手元に置く用にもう1部コピーを取る。応募用原稿に表紙を添え、臭い物でも扱うかのように急いで封筒に入れた。
じっくり読み直し、またそこで誤字を見つけたりしたら、いい加減心がめげてしまいそうだ。


7,郵送する


その足で郵便局へ向かい、追跡付き郵便で提出した。締切日まであと3日しかない状態では、普通郵便は間に合わない。

郵便局のカウンターで応対してくれた男性が、受付をしながらちらりと封筒の表書きを見た。
「〇〇編集部 コンテスト応募係 御中」「応募原稿在中」「8月某日必着」と書かれた部分を指さし、私の顔を見ながらニコリとする。

「追跡付きで正解ですよ。こういう大切な物は追跡ある方が安心ですから」

封筒の表書きから、締切直前の気迫が伝わったのだろうか。もしかしたら、必死さが顔に出ていたかもしれない。
なんといっても、こちらは人生初の応募である。そういった類のものに慣れている人ならサラリとこなせるのかもしれないが、応募原稿を紙で用意するのも、表紙を作るのも、応募条件に合わせて諸々を準備するのも、なにもかもが初めて。とにかく全力投球、郵便局にたどり着く頃には疲労MAX、歩くのもしんどいほどフラフラだった。

「何卒、よろしくお願いいたします!」
応対してくれた郵便局の男性に声をかけ、思わず頭を下げた。この10日間、時間がない中で精いっぱい努力して作った成果だ。とにかく締切日までに届かなければ、この原稿が無に帰す。
お兄さんもちょっと驚いた顔をしつつ、笑顔を返してくれた。

「最優先で仕分けの方に出しますから」


やった。やってやった!

郵便局を出た時の私の気持ちは達成感にあふれていた。恥も外聞も無く、文字通り「汗みずく」になりながらこの10日間を駆け抜けた。仕事に穴をあける事無く、社会人として勤労の義務を果たしながら、精一杯努力した成果があの10枚の原稿だ。
10日もかけてたったの10枚なんて、文才がある方から見れば鼻で笑うような仕事量かもしれない。しかし、これまでの人生ずっと「作文が書けない」ことが悩みであった私が、誰に頼まれたわけでもなく、第三者の、しかも文章のプロの目にさらすために短いエッセイを書いた。もうこれだけで人生が大きく進んだ気がする。
大人になって、こんなに分かりやすく達成感を感じたのはいつぶりだろう。私はこの10日間できっと成長した。

モンゴルで乗馬をしなければ、この文学コンテストを偶然見つけなければ、応募しようとは思わなかったはずだ。何より、この数年、noteで文章を書くという習慣を身につけていなければ、モンゴルでの感動を文字に残そうなんて考えもしなかっただろう。
とにかく、面白そうなことは何でも恐れずやってみる習慣を身につけておいて良かった。こういう性格に育ててくれた我が生産牧場である両親には感謝したい。

では、また何か文学コンテストに応募するかと問われれば「うーん、ちょっと考えさせて。まじで体力がもたないから」と言いたくなる程度には私は体が弱い体質で、今年も既に夏疲れしているのだが、これからもnoteは細く長く続けたいと考えている。



ところで、こんな長い文章をここまでお読みくださった方にだけ、なぜ私が忙しい合間を縫ってコンテスト用の文章をつづることができたのかという秘密をこっそりお教えしたいなと思います。

実はこの文学コンテスト、一席には賞金が出るのだ。

金額、50万円也

ね?金額に目がくらむでしょ?

まぁ、お金なんぞに目がくらんだ時点で、私は道を踏み外しているんだと思うんですけどね!

いやぁ、目標があるって本当にいいもんですね~。


【11月4日追記】この話には延長戦がありました。私のビギナーズラックぶりに笑ってください。


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