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〈新連載〉 小説 『恋しくばたずね来てみよ』 壱

思い切って告白した意中の相手に、あっさりと振られた。



相手は、当時所属していたサークルの紅一点で、

いわゆる、今で言う「オタサーの姫」だった。




当時、僕は本気で彼女に恋をしていたし、


同様に、彼女も僕に好意を持ってくれている…と、

まるっきり信じて疑わなかったのだけれど、


蓋を開けてみれば。



「……ごめんなさい……。


その、…私、カドノ君のことは、

今はそういう…『恋愛対象』って呼べる存在って、

まだどうしても思えなくて…」



何時にも増して、たどたどしい口調ともじもじした態度で、

如何にも言いにくそうにそう言うと、


彼女は大層しおらしげに、こっちに頭を下げてきた。


(その様子が、僕の目には何故か、
何やら妙に「科を作っている」ようにも見えた)



「…いや、そんな、
別に…そんな、謝らなくていいよ。

とりあえず、自分の気持ち伝えられただけで、充分だから…」



…正直なところ、半分以上は強がりで、

残りの全部は完全に嘘だった。


本当は滅茶苦茶ショックだった。




ぶっちゃけ、こういう場合に


「自分の何処が駄目なのか教えて欲しい」

なんぞという

血迷った挙句の愚問を相手に突き付けても、


恐らく、まともな答えなんか絶対に返ってこないだろう、…ということは、


自分がこれまで見てきた、

友人・知り合い連中の類似例を思い返せば、疑念の余地すらなかった。


けれども、

自分が同じ状況に陥った時に、
相手にこの質問をぶつけたくて堪らない衝動に駆られる、

というのは、また別の話である。



……それでも、

特にこんな、うちの大学の界隈…どころか、
環状線の圏内でも指折りの「名店」、


どこかのクラシックホテルのラウンジみたいな、

重厚な雰囲気の、高級感のある調度が並び、


クラシック音楽、

…恐らくバッハかヘンデル辺りの、バロック音楽の、チェンバロの音色が、
至極心地の良い音量で流れる、…という、



つまりは、

カラスかムクドリの群れみたいな学生の団体なんか、

間違っても足を踏み入れそうにない、


如何にも「大人のための純喫茶」というような、

落ち着いた雰囲気の漂う、静かな昼下りの店内で、そんな言動を執るのは、

さすがにみっともないし、まずお店に迷惑だろう。



それに何より、きっと、当の彼女を余計に困らせてしまう…。



と、当時の僕はそう思い、必死に取り繕った、


……というのが正直なところだった。



《ここまでご覧くださいまして、誠に有難う存じます。
m(_ _)m

物語は、第二話に続きます。

『恋ひしくばたずね来てみよ』弐|木ノ下朝陽(kinosita_asahi) #note #眠れない夜に

https://note.com/kinosita_asahi/n/ndc8e3535b5db

よろしければ、引き続きご覧くださいませ。 》


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