バリスタとして刺激的なエスプレッソに出会うという事
バリスタラジオです。
今日は、コーヒーやエスプレッソの味の話をするときに必ず言われる”苦味”について、ちょっとお話ししたいなと思っているんですけれども。
まず、そもそもなんですけれど、「苦いって美味しいんですか?」、「苦いってうまいんですか?」っていう。だって苦いって言ってるんですよ。
じゃあ、逆に「うまいって何?」って話をすると、例えば、野菜でも魚でも肉でも果物でも甘い…”甘み”ですよね。これに尽きると思うんです。
じゃあ、「なんでエスプレッソを飲んでるの?」
もうこれはわからないですよね。
僕もほとんどの方と同じで、苦いコーヒーも苦いエスプレッソも好きではないんで、僕にもこれはわからないです。なんでそんな苦いの飲んでるのかっていうのは。
で、話を続けますね。
エスプレッソって甘いんですよね、実は。
コーヒーって甘みを感じるんです。
だから、僕はバリスタをやっているんです。
甘いエスプレッソに出会ったんで、「バリスタいいな」って思ったんです。こういうエスプレッソが飲めるお店って他にはないよな…こういう味を出せるバリスタって他にいないよなって。
当時、約10年前になりますけど、なんの経験も無いにも関わらず、何故かそのエスプレッソを僕ができる自信がものすごくあったので。手先が器用だったり、合理的で、論理的に考えるタイプでもあったし、あと精神論…例えば哲学とか情熱とか。そっちのタイプでもあるので。
バリスタいいなって、その時僕の道は決まったわけです。
話をちょっと戻しますね。
当然、甘いって砂糖を入れているわけじゃないですし、僕らバリスタは、砂糖の味は砂糖の味であって甘みとは言わないんですね、実は。
砂糖にも自分のお店のラテとの相性があったりもするので、僕の店ではそこにもこだわってて、アイスラテ用のガムシロップを作って用意してたりします。
僕が出会ったエスプレッソっていうのは、甘かったんですよね。飲むとまずスパイシーで、濃厚で甘かったんです。
スパイシーというのは、舌がピリッとする感覚があるという事です。エスプレッソを飲んだときに。
すごいですよね。なんか次元が違う感じがしませんか。
皆さんが、例えばエスプレッソって苦くて苦味の塊だよって…だからミルクを入れたりして飲むんだよって、思っているんだとしたら、エスプレッソを飲んだときにスパイシーで、濃厚で、甘みを感じるってすごいですよね。本当に次元が違う感じがしますよね。
で、しっかりと食感があるくらい濃厚で、舌をコーティングするようにまとわりつく。
本当にすごいエスプレッソに出会っちゃったんですね、僕は。運良く。
そして飲んで…でも最後は傾けても流れてこないので、ズズズってすったり、指を突っ込んでそれをとって舐めたりするしかないんです。それくらい濃厚という事です。
飲み終わったあと5分とか多分10分くらいは、甘くて香ばしい余韻が続くんです。まるで上質なガトーショコラです。
じゃあお客さんは、飲んだときにそれがわかる味覚の持ち主だった時に、びっくりするわけですよね。エスプレッソを飲んで。
僕と同じですよね。
「スパイシーで濃厚で甘い」って。
「エスプレッソってこんな感じになるんですか」って。
うちでもエスプレッソを飲んだお客様には言われます。
そもそも、コーヒーに人間が知覚できるほどの糖分は含まれてないんです。コーヒーから感じる甘さっていうのは実は香り由来なんです。
人は香りから記憶を呼び覚まして、あのとき舐めた飴の甘さとか、りんごの皮を剥いてる時の香りのとか、ミントのとか、朝パンを焼いた時のバターのとか…コーヒーを飲んだ時に感じる香りから、いろんな種類の甘い記憶が蘇って、味覚と結びついたときにコーヒーの甘みを感じるんです。
それをさらに相乗効果を生むのが食感です。舌触りがしっかりとある。
例えば、水のようなサラサラとした舌触りと蜂蜜のような濃厚な舌触り。この2種類のエスプレッソと飲み比べたとき。
サラサラとした甘いものっていうのにあんまり出会う機会がないですが、濃厚で甘いものに出会うことの方が多いですよね。
じゃあ、濃厚で甘みを感じて香ばしい香りがする…一番近いものはチョコレートですよね。エスプレッソなんでチョコレートソースでもいいですけれども。
そしてスパイシーさを感じる。舌がピリッとするんです。
苦味ってそれだけだとネガティブでしかないんです。ただ、香りと食感からくる甘みとの完璧なバランスで苦味が存在したときに、特別な化学反応みたいなことが起きるんです。
そうなると苦味じゃないんですね。スパイシーです。苦過ぎてピリピリするじゃなくて、その香りの濃厚さからくる甘み。
この2種類の由来からくる甘みのところに、絶妙なバランスでエスプレッソの苦味が乗ってくると、スパイシーさを感じてしまうんです。飲んだ後に舌がピリピリする。
バリスタはこのエスプレッソを目指して、抽出のトレーニングをするといいと思います。
お店で出す味はもちろんそれぞれの店の個性がありますから、その個性を大切にすればいいと思います。
ただ、このエスプレッソを抽出するのが一番難しい。だからトレーニングになるんです。
エスプレッソマシーン、グラインダーの精密な調整で、味の大きな方向性をまず見つけますよね。
そして、これも同時進行ではありますが、ドーシング、レベリング、タンピングのテクニックでさらにストライクゾーンを絞り込んでいくんです。
抽出したらショットのバランスを見る。
ドーシングとレベリングとタンピング次第では、バランスの悪いショットになる。で、バランスが悪いといくつかの味が混ざるわけです。
わかりますか?
バランスが良いのも出るし悪いのも出る。その2種類が混ざった時にやっぱり完璧じゃないんですよね。
目指した状態でイメージした味にならなければ、全ての調整作業の意味がないですからね。
毎日集中して10杯から20杯やれば、いつか必ず出来るようになります。だってやりとげるまでチャレンジし続けられる時点で才能ですよね。
だから逆にいうと、無理だと思ったら早めにやめた方がいいかもしれないです。挫折から得るものもあります。
誰にでもできるわけじゃないから特別ということもあります。
僕は7年目でそれが自分の技術になりました。
先生は、僕のそのエスプレッソの出会った時の舌の記憶です。
あと、前にもお話ししましたが、今でも通って音聞いて香りをかいで味わって話して、そこから真似するんじゃなくて自分の技を磨いて。で、自分のデータを蓄積して、自分だけの道を切り開いてやってます。
本当に人生みたいなものですよね、エスプレッソっていうのは。
僕はそう思います。
だから、”人生が苦いのか、人生が甘いのか”っていう風に思っても、面白いかもしれないですね。
では、今日も短い時間ではありましたが、聞いていただいてありがとうございます。
皆さんも明日からまた頑張ってください。
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BARISTA RADIO #5
2020/01/26 公開 YouTubeより
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