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「副反応疑いは全例が偏りなく報告されているか?」

TONOZUKAです。



副反応疑いは全例が偏りなく報告されているか?

以下引用

昨年春より、世界、そしてわが国で、新しく開発された新型コロナワクチン(国内では主にmRNAワクチン)の広範な接種が行われ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化抑制に大きく貢献したことは誰しもが認める事実である。しかしその一方で低率とはいえさまざまな副反応や有害事象が発生しており、中には重篤あるいは致死的なものもあるようだ。COVID-19による致死率が大きく低下した今、これら副反応にもしっかり目を向ける時が来ていると考えるが、それら負の側面についての議論は医療界でも乏しい。

 私は医師として日常、様々な慢性呼吸器疾患を診療しているが、この数カ月間でmRNAワクチン接種後短時日のうちに原疾患の急性増悪を来し、入院加療が必要であった患者を4例経験した。この経験を出発点に、ワクチンの副反応は実は公表されている以上に広範囲に起こっているのではないかと考え、今回各種の資料、そして議論に当たってみた。

 一般にワクチン接種は、免疫反応を誘導し、感染症に対する免疫を付与すること目的とするため、接種後、局所あるいは全身の免疫反応が誘発され、様々な副反応が生じ得る。日本感染症学会の学会誌に掲載されている中山哲夫氏の総説は全体像を理解するのに好適である。

 新型コロナに対するmRNAワクチンもその例外ではないようで、接種後局所に生ずる疼痛、腫脹など、全身に生じる発熱や倦怠感、加えて頭痛などが少なからぬ頻度で発生することが知られる。

 このようにmRNAワクチンは免疫の強い反応を惹起し得るので、その接種後、慢性疾患(その多くは宿主免疫の微妙なバランスの上になり立っている)に急性悪化が起こっても何ら不思議ではないし、さらに拡大して考えると、一見正常に営まれている健常人の生命活動(そこにも免疫の微妙な働きがその安定を支えていることは、最近の免疫学が明らかにしつつある)においても、何らかの急激な異常が起こることは十分に予想される。

 自分の経験を出発点に、現在、新型コロナワクチン接種後の副反応について、およそどれくらいのことが分かっているのか、どう議論されているのかを、最近の厚生労働省などの公的資料、学会ガイドラインなどを主な材料として考えたので、以下私見を述べる。

副反応疑いを「報告したいが断念」の実例

 まず、副反応を検討する際、その元データとなる副反応疑い報告に、「全ての疑い事例が偏りなく含まれているか」を考えたい。本来、新規開発のワクチンであることも考慮すると、接種後3~4週間以内に起こった事象の、全例、それが無理としても大部分が報告されるべきであろう。実際、厚労省は医師向けに、ワクチン接種後の副反応疑い例を報告するよう呼びかけている(厚労省の関連サイト)。

 しかし、いざ重篤な副反応疑いを経験した医師が、所定の手続きに従って報告しようとすると幾つかの壁に突き当たる。

 まず困惑するのが、報告書の項目にある「ワクチンのロット番号」である。これは記載が必ずしも必須とされている訳ではないが、報告者にとって心理的な圧迫にはなる。このロット番号は、もちろんワクチン接種票を見れば分かる。
しかし急な身体の異変を感じて病院を訪れ、緊急入院となるような患者が、これはワクチンの副反応かもしれないから、医師の参考のために接種票も持参しようと冷静に考えられるだろうか? そもそもワクチンでそのような症状が生じ得ることは全く説明されていないから、普通は持参しないだろう。実際、私たちの経験した4例もそうであった。
 
 また治療に当たる医療チームも、患者の病状に対処するのに懸命で、ほっと一息つくのは患者が改善してあるいは時に不幸な転帰となり退院してからである。その時、患者は既に目の前におらず、報告のためには、再度患者に連絡して、接種票を持ってくるよう依頼するしかない。しかしやっとの思いで退院したばかりの人には依頼しづらいことである。我々も4例中2人に依頼はしたが、独居の高齢者と遠方に住んでいる患者で、再持参は無理だった。

 次に戸惑うのは、「報告の基準」とされる疾患の少なさである。mRNAワクチンの副反応疑い報告の対象疾患として挙げられているのは、アナフィラキシー、血栓症(血小板減少症を伴うものに限る)、心筋炎、心膜炎の僅かに4つで、「それ以外」としては、ギラン・バレー症候群、急性散在性脳脊髄炎、血小板減少性紫斑病、血管炎、脳炎・脳症など、11疾患のみだ。我々が経験したような呼吸器疾患や、今、学会や研究会などで問題となっている腎疾患などは含まれていない。ちなみに、インフルエンザワクチンでは、報告の対象として15疾患が挙げられており、新型コロナワクチンとは対照的だ。

 この疾患リストは恐らく欧米の副反応報告を参考にしたものと推察される。最近、米国から大規模なリアルワールドのデータの結果が報告されたが、確かに血栓症や心筋炎が多いようである(DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00054-8)。この中に肺傷害は入っていない。しかし日本人が、欧米では安全性が高いとされる薬剤の投与で重い肺傷害を起こし得ることは、ゲフィチニブ(商品名イレッサ)などで経験済みだ。欧米のリストを参考にしつつ日本独自のリストが用意されてよいはずである。

 実際、医療現場では新型コロナワクチン接種後の副反応・有害事象として、様々な疾患が挙がられている。例えば、日本内科学会地方会(全国各支部)の抄録などでは、Fisher症候群、神経サルコイドーシス、視神経脊髄炎スペクトラム障害、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、免疫性血小板減少性紫斑病、無痛性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、急速進行性糸球体腎炎などがワクチン接種後に発症していると報告されている。
短期間で開発された新型コロナワクチンでは予期せぬ副反応に慎重に対応する必要があると思うが、この報告システムにはその配慮を感じることができない。加えて、このような対象疾患の狭さは、報告しようとする医師の意欲を削ぐ負の効果も考えられる。「疾患名が挙げられていないのであれば、たまたま接種後に生じただけであり、副反応として生じたわけではない」と思い込ませてしまう。

 実際、冒頭に述べた自験4例について、担当医、主治医、そして私は、接種票を入手できず、この呼びかけ文や書式に戸惑い、結局報告しなかった。もちろんこれは私たちの怠慢以外の何物でもないが、他施設の呼吸器科医若干名に尋ねても、同様の事態を経験しているが、やはり報告していなかったとの声が複数聞かれた。この経験から、入院を要するような重い副反応疑いの全てが報告されているかについては大いなる疑問を抱かざるを得ない。

 1年近く前の2021年6月28日に開催された第4回医薬品等行政評価・監視委員会において、新型コロナワクチンの副反応報告について委員長代理の佐藤嗣道氏(薬学専門家)は、「医療機関から報告されなかった死亡例というのも恐らくたくさんあって、それらのうちには実際に因果関係があるものも恐らく含まれているだろうということを考えると、実際はこの頻度よりも高い、もしかすると10倍ぐらい高い可能性も視野に入れておかなければいけないのではないか」と発言している。私のささやかな経験および知友からの情報からも、呼吸器領域では10倍とまではいわなくても、報告されずに実は因果関係がある事例がそれなりに多いのではないかと考える。

 このような現状が続けば、ワクチン接種によるベネフィットとリスクの科学的な検討が進まず、ワクチン推進派と忌避派の感情的な溝は深まるばかりであろう。新型コロナワクチンに関する冷静な議論を展開するためにも、そのよりどころとなる副反応疑い報告を見直し、広い視野に立ち、医療現場からの報告を随時吸い上げつつ、慎重に副反応疑いを拾い上げ、ワクチンとの因果関係を検討する基礎データとすることが早急の課題ではないかと考える。

 まず現状の新型コロナワクチンの副反応疑い報告には課題がある点を指摘した。次に基礎疾患がある被接種者でワクチン接種のリスクをどう考えるかなどを考えたい。

 副反応疑い報告の課題と、ワクチン接種時に被接種者に説明すべき上記リストの中に、様々な慢性疾患の急性増悪は入っていない。しかし呼吸器領域の慢性疾患、特に間質性肺炎のワクチン接種後の急性増悪については、私の知る範囲でも幾つかの施設が経験しており、わが国からの論文も幾つか出ている( DOI:10.1016/j.ijid.2022.01.031、DOI: 10.1183/13993003.02806-2021)。

 実際、厚労省の有害事象例一覧「医療機関からの副反応疑い報告状況について」でも、間質性肺炎が54例挙がっており、より詳しくは、これらの情報をデータベース化した「コロナワクチン 副反応サイトデータベース検索」というサイトで検索できるが、その約半数が死亡している(間質性肺炎でフィルターした結果)。
これらが新規の間質性肺炎なのか、既存の間質性肺炎の急性増悪なのかの記載がないが、呼吸器科医の常識から考えると恐らく後者であろう。いずれにせよ、これほど重大な事態が、国、あるいは関連学会で議論されていないのが現状だ。

 慢性呼吸器疾患の合併患者は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時の重症化が懸念され、そのゆえに新型コロナワクチンの接種が勧奨されているが、だからといってワクチン接種により増悪する可能性を無視してよいというのはバランスを失した議論だろう。

 呼吸器疾患以外で、免疫の関わる慢性疾患として代表的なリウマチ・膠原病については、日本リウマチ学会のホームページには、欧米の大規模な検討では、リウマチ、膠原病において、ワクチン接種後4.4%~11%に治療を要する再燃が見られたものの、「リスクとベネフィットを勘案してワクチン接種を積極的に勧める」との欧米諸学会の意見が紹介されている(日本リウマチ学会からのお知らせ)。

 ただし、日本リウマチ学会としては、「リウマチ性疾患患者さんへのワクチン接種は検討するに値する」としつつも、「ワクチンを接種するかどうかは、接種のリスクと感染のリスクを比較して決めることになります」との見解を示している。

 リウマチ領域では実際に症例報告も集積されつつある。2022年4月下旬開催予定の第66回日本リウマチ学会学術講演会の抄録集を通覧すると、コロナワクチン接種を機に発症・増悪を来したリウマチ・膠原病の症例報告は21演題、29症例あり、その一方、COVID-19に罹患した後の原病悪化は2演題、2例にとどまる。

 冒頭に述べたように、私は急性増悪で入院し、生命の危機に直面した患者さんを診療した呼吸器科臨床医として、ワクチン接種については、大きなメリットだけでなく、小さいにせよ起こり得るリスクについてもきちんと説明すべきと考えており、全ての通院患者に、リスクも含めたかたちで説明している。



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