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本日も医療関係のサイトから。 「コロナがとにかく心配な患者が発熱外来に」

2021/02/22



TONOZUKAです。


本日も医療関係のサイトからです。
1ヶ月程前の記事ですが、まだまだ未知の事が多いコロナウイルスだとこういう事も起こるのですね。
本当に医療現場は大変だと思います。
頭の下がる思いです。


コロナがとにかく心配な患者が発熱外来に



以下引用

 今回の症例は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を心配して発熱外来を受診した22歳男性です。診察に当たる研修医もCOVID-19疑い患者の診療に慣れてきたころで、意気込んで診療を開始しましたが……。


診療セッティング
 とある発熱外来。連日COVID-19疑いの発熱患者が、保健所からの相談、他院からの紹介、他科からの相談などで多数押し寄せている。患者の初期診療は研修医と上級医が分担して行っている。

【症例】 22歳男性
【現病歴】
 来院5日前から頭痛、咽頭痛、38℃台の発熱が出現した。来院4日前、他院で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査が実施され陰性であった。その後も症状は持続し、水様便も出現したため、来院前日も他院でSARS-CoV-2 PCR検査を受けたが陰性であった。しかし、患者はそれでもCOVID-19が心配で当院の発熱外来を受診した。

 外来ではまず、陰圧室においてPPE(Personal Protective Equipment)を着用した状態で研修医が単独で診療を行った。海外渡航歴やsick contactはなく、動物との曝露歴や性交渉歴などについては「COVID-19と関係ないことは話したくない」とんことで聴取できなかった。

 患者は「COVID-19の検査の感度が足りないため、自分は診断がついていないだけである」と考えていて、COVID-19と直接関係しないような問診や検査については協力的ではなかった。診察は省略して行われ胸部聴診のみで終了した。

 COVID-19については接触歴やリスク行動なく、既に2回のSARS-CoV-2 PCR検査で陰性であり、重症化リスクもなかった。そのため、胸部レントゲンで問題がなければ帰宅させ経過観察する方針であることを上級医にコンサルテーションしたが、上級医はCOVID-19のリスクのみをフォーカスしたプレゼンテーションと身体診察が不十分であり、鑑別疾患に対しても検討がなされていないことに懸念を持ち、研修医を同席させて診察所見を取り直した。

 身体診察では口蓋扁桃の腫大や発赤は認めなかったものの、両側頸部(前頸部、後頸部)に10mm大、鼠径部に20mm大の有痛性のリンパ節腫大が観察された。伝染性単核球症とその鑑別疾患を念頭に置き、上級医がCOVID-19以外にも性感染症の可能性を挙げなければならない点を丁寧に説明しながら問診を取り直すと、患者はMSM*1であり、1カ月以内の同性間性交渉歴が判明した。精査でHIV抗原・抗体(第4世代)は陽性、Western blot法は陰性、HIV-1 PCRは1000万copy/mLであり、急性HIV感染症の診断となった。自立支援医療制度の申請の後、早期のART療法を開始することができた。


 いかがでしたでしょうか。この症例では患者も研修医もCOVID-19であるかどうかという点に焦点を当てすぎてしまったため、診断を見逃してしまいかねないケースでした。

 現在のウィズコロナの診療では、感染対策という観点から問診や特に身体診察が十分に実施できない症例も多いかと思います。また、発熱外来などのシチュエーションではPPE着用など準備にも時間がかかってしまい、コロナ疑いの患者を多数診察する中で、一人ひとりの患者に費やせる時間は限られてしまうのが実情であると思います。このような背景も踏まえながら、本症例で見逃しにつながった要因をMedicalな部分とNonmedicalな部分のそれぞれから分析していきたいと思います。


Medicalな側面から診断エラーを考える~急性HIVの診断について~

 急性HIV感染症では7~21日間の潜伏期1)を経て3分の2程度の患者が有症状を呈します2)。

 症状としては、発熱や倦怠感など非特異的な症状のほかに、頭痛(18~57%、感度:0.18、特異度:0.91)、皮疹(4~75%、感度:0.06、特異度:0.96)、咽頭炎(2~95%、感度:0.15、特異度:0.95)、リンパ節腫脹(7~75%、感度:0.39、特異度:0.88)、関節痛(14~92%、感度:0.29。特異度:0.90)、下痢(14~48%、感度:0.08、特異度:0.98)などが出現しますが、これらの頻度も文献によりばらつきがあり、いずれも診断の決め手には欠けます3)25)。

 一見すると風邪症候群のように見えても、上述のような多彩な症状を呈する患者に性交渉歴(MSM、不特定多数との性交渉)や過去の性感染症(STI)の既往や治療歴があるケースでは、急性HIV感染を鑑別に挙げることが必要です。急性HIV感染症は、初診時に4分の3は見逃されているという報告もあります4)。急性HIV感染症の患者は、初診時に救急医(52%)やプライマリ・ケア医(25%)を受診するため、救急医療を行う全ての医師がHIVを疑う必要があります17)。また、急性HIV感染時の症状の有無や数、期間などがその後の臨床経過と相関するという報告もあります5)6)。

 現在、HIVはAIDS発症や合併症、死亡率などの治療予後の観点からCD4の値によらず、診断された時点で経済的な環境などが整えば治療を開始することが推奨されています9)。また、血中のHIVウイルス量を抑えることができれば、他者への伝播リスクもコントロールすることが可能です10)。このような観点から、HIV感染症を早期診断する臨床意義は非常に高いと考えられます。

 急性HIV感染症は、伝染性単核球症との鑑別が重要です。伝染性単核球症様症候群の中でHIVは3~10.1%を占めたという報告もあります18)。ここで伝染性単核球症様の症状を呈する疾患を表1に示します。これらの疾患では、咽頭所見や咽頭痛が乏しい一方で、頸部リンパ節腫脹や肝障害、発熱倦怠感など全身性の症状が特徴になります。



a)環境要因について

 今回の症例について、診断エラーにつながる環境要因を以下に挙げてみました。

1. COVID-19対策や発熱外来で医師が疲弊している。
2. PPEを着用しながらの長時間の診療は体力的な負担が大きく、十分な診断時間が確保できていない可能性がある。
3. COVID-19曝露リスクを減らすため身体診察は最小限になってしまう。

 このように本症例に限らずウィズコロナ診療においては様々な制限は避けられない部分もあるでしょう。このような状況下で最も重要なことは、診断エラーを生み出す環境的な問題があることをしっかりと認知しながら診療を進め、結論を出す前に環境要因に影響されているところがないか振り返ってみる時間を作ることでしょう。

b)バイアスについて

 本症例では、どのようなバイアスが影響しているでしょうか。認知バイアスとしてはCOVID-19かどうかという二元論に早期から陥ってしまっており、探索満足(Search satisficing)、早期診断閉鎖(Premature diagnostic closure)、枠組み効果(Framing effect)が挙げられます。また、診察所見を十分に取らなかったことは「全てを分析する原則(Unpacking Principle)」を怠ったといえるでしょう12)。

 COVID-19診療においては、SARS-CoV-2 PCRの検査結果だけで患者満足がある程度担保されてしまうかもしれません(患者はコロナが陽性か陰性かだけに興味を持っていることも多いからです)。しかしPCR検査をやるかどうか、結果がどうかだけではなく、常にCOVID-19以外の診断ではないかという意識を持ちながら疾患を絞るSystem 2 の思考がより重要と考えます。



問診に非協力的な患者への対応とは?

 ここでは、本症例の患者への対応について、さらなる考察をしていきたいと思います。

 本症例は医師と対立するような患者ではありませんでしたが、自身の主張が強く、医療者の意見にあまり耳を傾けていないという問題点がありました。また患者が自身の解釈モデルに固執していることが問診の質を下げてしまい、鑑別を想起する上ではpremature closure(早期閉鎖)の誘因となってしまう可能性もありました。そして本症例では、患者はMSMという重要な情報を最初の問診で明かしませんでした。


Withコロナ診療で診断エラーを減らしていくには?

 前述の通り、限られた診療のシチュエーションになってしまう中で、他の疾患を拾い上げるきっかけは何でしょうか? COVID-19で頻度の多い症状は、発熱(42~85%)、咳嗽(50~71%)22-24)と非特異的ですから、いわゆる上気道炎やインフルエンザなどとの鑑別や診断の足掛かりにするのは難しいです。一方で本症例のような頭痛(10~17%)、咽頭痛(8~15%)の頻度は、COVID-19ではあまり高くありません22-24)。これらが症状の前面に出るようであれば、代替診断を十分に検討したほうがよいでしょう。

 また、リンパ節腫脹などはCOVID-19においてまれな症候14,15)であり、これらは細菌性咽頭炎、伝染性単核球症やそのmimic(ミミック、類縁疾患)を疑う1つのきっかけにできると考えます。皮疹はCOVID-19症例の20%程度で出現し、紅斑、水痘様皮疹など様々な報告があり、これらを直接、診断に結び付けるのは難しいかもしれません。しかし、頻度は少ないですが四肢末端の霜焼け様の特徴的な皮疹も知られており、この存在は診断の糸口とすることができるでしょう16,20,21)。


 このように感度の高い検査が確立していないCOVID-19において、確定診断が得られていない症例ではCOVID-19以外の疾患を積極的に診断する診療を心掛けることが、診断に至る最短ルートであると考えます。

 コロナ禍において、日常診療は大きく様変わりしてしまいました。一般診療においても、先生方は不安を抱えながら常に気を張り詰めるような日々を送っていることかと思います。しかし、このような情勢においても診断の原則は変わりません。ウィズコロナ診療でも、いかにぶれずに日常診療のストラテジーを貫けるかが重要であると考えます。



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