見出し画像

「聖なるもの」をめぐって——読書会のお知らせ【近代体操】

前置き

2022年の11月、私たちは批評誌『近代体操』を創刊しました。創刊号のテーマは「空間/場所」。資本によって意味を奪われ平板になった空間に対してどのように抵抗してゆくべきか。私たちは1年間の読書会を経た上で創刊号を世に問い、新しい批評の地平を拓くことに挑戦しました。

第2号のテーマは、「聖なるもの」

「聖なるもの」は、宗教学(宗教社会学/宗教哲学)でも、神学でも、人類学でも、文学でも扱われるような複雑な概念です。この概念のより厳密な内容については、読書会で触れることになるでしょう。

しかし、たとえば日本において多くの人が「聖なるもの」と聞いて思い浮かべるのは、天皇(制)の存在ではないでしょうか。普段は「象徴」として、ただ存在することによって日本の歴史の継続性を担保している天皇は、たとえば災害のようなカタストロフに際してある種の「聖性」を発揮し、ひとびとをケアする存在として再度その尊厳と存在理由を提示するのです。

同時にまた、天皇制の「聖性」は特殊なものです。天皇個人は定期的に交代し元号というかたちで時代を画しつつも、その万世一系において「聖性」を引き継ぎ日本の統一性を再更新するという、興味深い特徴を有しています。「聖なるもの」としての天皇に自らの自己を仮託するとき、ひとは「日本人」となり、日本という共同体に帰依するのです(したがってここには宗教の問題のみならず、ナショナリズムの問題とも絡み合っています)。

あるいは、日本の政治構造が宗教団体や宗教組織を抜きにして語ることができないのは、昨今のさまざまな事件に見られる通りでしょう。さらには、国家や政治の水準で「聖性」を担うものに対して、もっと身近な次元、消費レベルにおける「聖なるもの」の存在も指摘することができます。すなわち、「推し」文化です。ひとがある「推し」を「尊い」と言うとき、そこには何が起きているのでしょうか。現代においてはアイドル、声優、アニメキャラ、Vtuberとさまざまな対象が代わる代わる現れ、人々は「推し」を探し、取っ替え引っ替えしながら快適な「推し活」ライフを送っています。しかしそれは決して単なる個人の消費現象に閉じるものではありません。アイドルを「推す」ファンが自己を彼ら彼女らに仮託し、小さな形の「聖性」を与えているからです。

このような「聖なるもの」の現象は、現代文化の至る所に見出されます。たとえば平坦な日常を「エモ」に昇華する短歌や詩といった芸術におけるポエジーのことについても、私たちは向き合うことになるでしょう——もちろん、『古今集』などの和歌集が天皇の勅撰によって編まれた以上それは天皇とも結びつくものです。人々は自らの日常を言語表現そのものにも仮託し、「聖化」するのではないでしょうか。

以上のように、我々の現代社会において、政治や国家といった水準から日常生活に至るまで偏在する「聖なるもの」の存在は、「世俗化」、「政教分離」といったリベラリズム(戦後民主主義)の前提に大小の風穴を開けています。「ポスト世俗化」の時代に、失われた神性を絶えず埋め合わせる「聖なるもの」に、私たちはいかに向き合うべきでしょうか。

このように『近代体操』第2号では、天皇をめぐる宗教性および信仰の問題推しをめぐる現代消費文化の問題言語におけるポエジーの問題、これらを横断的に「聖なるもの」という概念で取り扱います。そのために、私たちは皆さんと一緒に月に1回2冊ずつ、さまざまなジャンルのテキストを読み解きながら「聖なるもの」について多角的に考えていきたいのです。 

扱う予定のテキスト(変更の可能性あり)

宇佐見りん『推し、燃ゆ』、フロイト『モーセと一神教』、大岡信『蕩児の家系』、大塚英志『少女たちの「かわいい」天皇』、ボードリヤール『消費社会の神話と構造』、絓秀実『革命的な、あまりに革命的な』、タラル・アサド『世俗の形成』、ティリッヒ『信仰の本質と動態』、ノーバート・ウィーナー『人間機械論』、松浦寿輝『明治の表象空間』、吉本隆明『共同幻想論』、デリダ『信と知』、ルドルフ・オットー『聖なるもの』、リオタール『非人間的なもの──時間についての講話』、星野太『崇高のリミナリティ』、ハーバーマスほか『公共圏に挑戦する宗教—ポスト世俗化時代における共棲のために—』、安丸良夫『神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈』、パストゥロー『悪魔の布—縞模様の歴史』桐生眞輔『文身:デザインされた聖のかたち』折口信夫最果タヒ中沢新一マックス・ウェーバーベンヤミンらの諸作品

初回のご案内

読書会は、毎回2冊を対象に行います。「近代体操」メンバー6人(草乃羊/左藤青/武久真士/古木獠/松田樹/安永光希)のうちの2人がレジュメ発表を担当し、発表を通じてメンバー並びに他の参加者の皆さまとティスカッションをします。

初回は2月18日(土)の20時からZOOMにて行います。対象は宇佐見りん『推し、燃ゆ』(松田担当)、大塚英志『少女たちの「かわいい」天皇』(武久担当)です。

読書会参加希望の方は、「近代体操」の読書会用のサークルにご参加ください(月額300円)。

リンク先のページからメンバーシップに参加していただければ、読書会参加者用のdiscordへ招待いたします。discordでは読書会のZoomリンクが送信されるだけでなく、公開読書会(予定)や各種イベントなどにも参加していただけます。また、「近代体操」同人を含む読書会参加者の方々との雑談や、読書会テーマなどに関する情報共有の機会もございます。

私たちといっしょに『近代体操』の第2号を作り上げていきませんか?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?