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「空間/場所」をめぐって——読書会のお知らせ【近代体操】

前置き

私ども批評のための運動体「近代体操」では、現在、「空間/場所」というテーマをめぐって日々議論を交わしています。

哲学者のハイデガーは、かつて、「人間があって、空間がある」という考えは誤謬だとしました。私たちの認識は、しばしば、人間と空間が別個に存在していると考えてしまいます。しかしハイデガーはその先入見を誤謬だと言いました。なぜなら私たちは、常にどこかの空間/場所に「住む」という仕方でのみ存在しているからです。「住みつくこと」なしに、私たちの存在はありえません。存在するとは、住むということ、(ときに棲み家を失いつつも)どこかの場所を占めるということなのです。

現代において求められているのは「住むことを学び直すこと」(アガンベン)である。それが私たちの出発点でした。「住むこと」を批判的=批評的に「学び直す」ためには、「住む場所」を捉え返す必要があるでしょう。というのも、私たちの生は、無条件にどこかに住まうのではなく、この「場所」の強制力によって大きく規定されているからです。実際、モノの配置や装飾の有無と言った具体的な「空間設計」によって、私たちの考え方、思考のリズム、他者との交わり方は大きく変化してしまいます。この(もちろん政治性を伴う)アーキテクチャー(建築/設計)の問題を無視する場合には、どのような「正しい」議論も空転してしまうでしょう。

もちろん問題は、実際にあるどこかの住所に住んでいるというだけに限りません。私たちはある共同体に住んでおり、ある国家に住んでおり、ある世界に住んでいます。居住空間や友人・恋人と過ごす「親密な場所」=プライヴェートな空間から、「職場」、「サードプレイス」、都市空間、言論空間などの公共空間まで。私たちはつねに空間とともに(空間のなかに)生きています。もちろん、より抽象的には、テキストの空間や演劇の空間、映画の空間も存在するでしょう。さらに近年では、仮想空間の登場も見逃せません。私たちの「空間/場所」は刻一刻と変わっているのです。

このように、「空間/場所」の問いは、自明のようでいて、というかあまりに自明すぎて非常に不定形であり、正体の掴みづらいものです。したがって、この問題を解きほぐすためには、横断的な思考を必要とされるのです。

そういうわけで、私たちは様々なジャンル(哲学/批評/文学/建築/社会学/人類学etc.)のテキストをみなさんとともに検討し、時には実際に体験していきたいと思います(二、三ヶ月に一回、東京ないし関西圏で、読書会中に言及された様々な場所や建築物を実際に訪れる散歩企画を構想しています)。

肝心の読書会そのものでは、月一度に二冊のペースで、以下のような本が読まれる予定です。予定は変更される可能性がありますし、参加者の皆さんの希望を反映する可能性もあります。

読む予定の本(変更可能性あり、今後も追加予定)

カント『純粋理性批判』、ハイデガー「建てること、住むこと、考えること」、アレント『人間の条件』、ハーバーマス『公共性の構造転換』、バトラー『アセンブリ』、ロドルフ・ガシェ『地理哲学: ドゥルーズ&ガタリ『哲学とは何か』について』、ソジャ『第三空間』、ドリーン・マッシー『空間のために』、マルク・オジェ『非‐場所―スーパーモダニティの人類学に向けて』、宮台真司『まぼろしの郊外』、東浩紀・大山顕『ショッピングモールから考える』、石川義正『錯乱の日本文学』中上健次作品(未定)、フォークナー作品(未定)、饗庭伸『平成都市計画史』、平田周・仙波希望編『惑星都市理論』、多木浩二『都市の政治学』、ル・コルビュジエ 『建築をめざして』、赤瀬川原平・藤森照信・南伸坊『路上観察学入門』、中沢新一『アースダイバー』、井上章一 『愛の空間』、ティム・インゴルド『メイキング——人類学・考古学・芸術・建築』、忽那裕樹 ・平賀達也・熊谷玄・長濱伸貴・篠沢健太編著『図解 パブリックスペースのつくり方: 設計プロセス・ディテール・使いこなし』

読書会の運営方法・初回

読書会は、毎回二冊を対象に行います。「近代体操」メンバー5人(草乃羊/左藤青/古木獠/松田樹/安永光希)のうちの2人がレジュメ発表を担当し、発表を通じてメンバー並びに他の参加者の皆さまとのディスカッションを行います。

初回は6月5日(土)20時からで、対象は石川義正『錯乱の日本文学』(松田樹担当)、ル・コルビュジエ 『建築をめざして』(左藤青担当)です。読書会自体はZOOMで行います。

読書会参加希望の方は、「近代体操」の読書会用のサークルにご参加いただければと思います(月額300円)。↑リンク先サークルページから参加していただくと、参加者用のディスコードへ招待、月一の読書会のZoomリンクが送信され、また散歩企画(予定)に参加していただけます。ディスコードでは雑談や情報共有の機会もあるかと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。

(文責 - 左藤青

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