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元乃木坂46高山一実、“作家”としての今後に期待する

芋子「今回は、悪い意味で話題となったアニメ映画『トラペジウム』の原作者・高山一実さんをフィーチャーします」

小野「元アイドル、それも乃木坂の1期生で八福神に何度も選ばれていた主力メンバーだった。近年は『オールスター後夜祭』や『Qさま!!』でMCを務めているからご存じの方も多いと思う」

芋子「そんな彼女が執筆した長編小説『トラペジウム』と、その劇場版の酷評が多い中、私たちは褒めまくります

小野「そして、実はその後も創作を続けており、今年2月に出版した“2冊目”にかけた想いとは……」


1.人生初の創作小説『キャリーオーバー』

芋子「時系列順に振り返りましょうか。高山さんの処女作は『トラペジウム』ではなく、ショートショートの『キャリーオーバー』(2015)になります。ダ・ヴィンチWebで全編無料で読めます」

小野「元々読書好きな彼女が部長として所属する『乃木坂活字部!』のイベント企画で執筆した作品だ。ルール上は原稿用紙1枚の長さで良かったのに、僅か3日間で3,000字弱もの作品を仕上げて来た」

芋子「幼少期に貧乏故にいじめられていた主人公が大人になり、金の力で当時の加害者への復讐を図るべく、人格・感情を持った“しゃべる宝くじ”を購入する話です。興味のある方は是非読んでみて下さい」

小野「人生初の創作小説がこれなら、かなり凄いのではないか? 本をたくさん読んできたからこそ、最低限の文章力・構成力は既に備わっていたのかもしれないね」

2.そして『トラペジウム』連載へ

芋子「『キャリーオーバー』が好評だったことにより、雑誌『ダ・ヴィンチ』編集者が高山さんに長編小説の執筆を打診します。こうして2016年5月号より連載をスタートさせたのが『トラペジウム』なわけです」

メルカリで購入。『おそ松さん』が社会現象になっていた頃

小野「第1話だけでも8,000字はあると思う。これ、かなり長いからね。その後も隔月ペースで連載を続け、途中で休載期間があったとはいえ2年以上もかけて無事に完結させた」

芋子「2018年に書籍化したところ、なんと現時点での累計発行部数は30万部にも及ぶそうです。プロでもなかなか出せない数字ですよ」

小野「肝心の内容については、感想記事を書いたには書いた(↓)。大絶賛したのは事実だが、文章が下手すぎてあまり魅力を伝えられなかったのが悔しい」

芋子「高山さんのファンや坂道グループの(元)メンバーなど、身内には特に大好評でした。エッセイ本も出している元欅坂46・長濱ねるさんの感想文が上手すぎるので、一部を以下に引用します」

トラペジウム、水のようだった。清く澄んだ混じりけのない水だ。誤解を恐れずに言うと、気取らず美しく“飲みやすい”。作者の人となり、記憶、出会ったもの見てきたものをたっぷりと含みながら山を下ってきた雪解け水のようだった。純度の高い水はとてもとても美味しい。読み終えたときに思わず、おかわり!と手を上げてしまう私がいた。

トラペジウム、星のようでもあった。冬の夜空に瞬く透き通った星だ。深く暗い夜を含んだ星。綺麗なものを見ているのにどこか悲しく物憂くなる。その中で光を放つ星に我に戻されはっとする。儚さに勇気をもらう。読み終えたときにまだずっと星空を眺めていたいと思った。

ふふっと思わず声を出してしまうコミカルな場面やひとつひとつの凝った表現、映像が鮮明に目に浮かぶ煌めく疾走感。見透かされているようでどきっとしたり、ふと、ぽつんとした孤独を感じたり、最後にはどばどばと温かいものが流れ込んでくる丁寧で優しい物語だった。読んでいて、すごくすごくすごくわかる、と思った。これは高山さんだからこその言葉だ、と思った。

ダ・ヴィンチwebより引用

小野「長濱さんの言う通り、本編の文章表現力の高さや、あと語彙力にも驚かされたけど(『僻見びゃっけん』なんて単語どこで覚えた)、個人的には巻末の『あとがき』も好きなんだよね。だって書き出しが↓だぞ。高山さんはエッセイも向いているんじゃないかな」

 カシャリ。みかんの入った袋が音を立てる。

 冬を迎えると実家には大きな段ボールが届いた。取っ手穴から鮮やかな橙色が顔を出すと、早速私を誘惑し始める。今年も生きのいいみかんがやってきた。かじかんだ手を気にせず好きな数だけ摑み、ほかほかのリビングへと運ぶ。熱さが密閉されたコタツに勢いよく足を突っ込めば、準備完了だった。皮に親指を食い込ませる。香りが舞った。舌の上にみかんがダイブすると、いつだって幸せになれた。

あとがきより冒頭部分を引用

芋子「しかし、Amazonのレビューを読むと、好評意見も多いのですが、中には『いかにも物書きっぽい表現を多用するあまり、ややもすると文学的表現をただ羅列したかっただけ? とも思えてしまう』という厳しい意見もあります」

小野「それさあ、創作初心者は皆やることだし、文学的表現の羅列すら上手く出来ない人だってたくさん居るわけよ。小説を書くことの大変さが分かる人なら素直に上手いと思えるんじゃないかな」

芋子「ここからがポイントですよ。世の中の人間は以下の3つに分類されます。

(1)小説を書く人
(2)書かないけど読む人
(3)書かないし読まない人

 で、(1)よりも(2)のほうが圧倒的に多いです。後者を便宜上『読書家』と表現します。創作小説は大多数である『読書家』を相手にしないといけないから難しいのです」

小野「読書家はマジで侮れない。書く人よりも読む人のほうが的確な評価を下す時だってある」

芋子「これは映画に例えると分かりやすくて、映画鑑賞が趣味の人は多ければ年に50本以上も観たりします。でも映画監督や脚本家、俳優などプロの制作陣は作品をそこまで観る時間的余裕の無い人が多い。そう考えると映画鑑賞が趣味なだけの市井の人々のほうが目が肥えており、決して侮れないわけです」

小野「話を読書家に戻すけど、彼らの何が恐ろしいって、小説を書けないのではなく『書かない』だけで、いざ書かせればとんでもない作品を仕上げてくるポテンシャルを持っていることだよ」

芋子「大量の読書によって語彙力や文章力、構成力などを潜在的に身につけていますからね。プロットさえ投げれば物凄く上手い文章を書いてくるかもしれない」

小野「なんか話が逸れたけど、要するに『トラペジウム』は(1)や(3)の方には好評でも、(2)の読書家の目は誤魔化せず、賛否両論になってしまったのかもしれない、と言いたかった」

3.アニメ化で内容にも賛否が

芋子「そして『トラペジウム』はアニメ化され、5月10日に劇場公開されたわけですが、公開初日にして本末転倒太郎さんの酷評がバズってしまうのでした。

 このポストを皮切りに、SNSでは主人公・あずまゆうのサイコパスっぷりがクローズアップされがちで、その最たるシーンはYouTubeでも公開されています」

小野「俺は6月8日にようやく観に行ったけど、正直泣いたよ。

 確かに東は間違えたさ。でも間違えることが青春だと俺は思うのよ。だから間違いや過ち、挫折も含めて4人の青春物語としてすんなり受け入れられたし、挫折後の東の一連のシーンは泣いたよ。何もかも上手くいかなくて壊れたことがある人なら心に響くんじゃないかな」

芋子「私たちは原作も劇場版も絶賛していますけど、この話を書けたのは高山さんがアイドルだったから(執筆時は現役)というのも大きいと思います。自身の経験を作品に活かせば誰でも1作は書けるとさえ言われています」

小野「だからこそ、高山さんは次回作が勝負になってくると思うんだ。元アイドルという持ち味を捨て、馴染みのないジャンルに挑戦した時に真価が問われるだろう」

芋子「その次回作なんですけど、実は今年の2月にもう出ていました

小野「マジかよ今すぐ読みたい。ちなみにタイトルは?」

芋子「『がっぴちゃん』です」

小野「………」

芋子「………」

小野「え?」

芋子「え?」

4.2冊目はまさかの……

そりゃ買いましたよ

小野「絵本!?」

芋子「ハイ。作画はイラストレーターの方に委託していますが、ストーリーは高山さんのオリジナルです。恐竜をモチーフにした5歳の主人公が“ちきゅうさん”を探し回る中で“貝”と出会い仲良くなる物語です」

小野「今読んだけど、これは感想を書くのが難しいね……大人でも深く考えさせられる内容になっている」

(※以下、結果的にネタバレになってしまっているので注意)

芋子「“ちきゅうさん”の正体は、我々読者には分かっているわけですよ。でも、今いる場所そのものが地球だと気付いていないがっぴちゃんは、いくら探しても見つけることは無いでしょう。ただ、その過程で貝と出会って仲良くなったことが重要で、だからこそ“あのラスト”は切なくなります」

小野「生きるために誰かの命を奪う食物連鎖の理不尽を、がっぴちゃん自身ですらやってしまっている。それを貝に言われた時はピンと来なかったけど、“あのラスト”で実感するわけだ。5歳にして気付いただけでもちょっとした成長物語だよね」

芋子「本の帯にはこんな紹介文が記されています」

きみは アイドルを しっているかい?
これは としをとって アイドルを やめたひとが あたらしい ゆめをみつけて つくったえほんだよ。

小野「新しい夢!?」

「小説を出版してから2作目を書きたいと思いましたが、書いては消してが続いていました。文章を考えるのは好きで、何かまた出版物を出したいと思っていましたが、その中で『がっぴちゃん』を作っていく過程が楽しかったですね」

高山一実、絵本を発表「収まりきらないストーリーが浮かんで」と続編にも意欲』より引用

「絵本だけではなく、作詞とかにも興味があります。エッセイもこの間お仕事で初めて書かせていただいて。小説以外の活字に対する意欲はすごく高まっています」

高山一実、30歳を迎えて感じた変化告白「豆大福がすごくおいしく感じて」』より引用

芋子「と言うわけです。2冊目が小説じゃなかったのは残念ですが、小説も完成しなかっただけで書いてはいた、その事実だけでも安堵しました」

小野「つまり新しい夢は“作家”か。まだ30歳、これからの人だ。次回作も絵本になるのか、はたまたエッセイになるのかは分からないけど、この先も読書家の意地を見せ続けて欲しいね」

芋子「読書家に書かせたらとんでもないものを仕上げてきますからね」

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