英語&翻訳解説【Natural Mystic】
まず曲を理解する
アルバムExodusがリリースされた際に「自然の神秘」という日本語タイトルがつけられたナンバーです。でも「大自然の神秘」について歌った曲ではありません。
曲のテーマは「世界の終わり」です。
それはまだ目に見える形では起きてはいません。でも研ぎ澄まされた感性を持つ人にはすでにそこにある予兆が感じ取れるはずだ。ボブはそう歌っています。
この曲を書く少し前にボブはキングストンの自宅で銃撃を受けています(詳細は「Rat Raceに関するあれこれhttps://note.com/kind_acacia887/n/ne0e5309a1b8b」に記載)。
この出来事はボブの心境を大きく変えました。
それまでボブを突き動かしてきた社会の現状に対する憤りはここにはありません。
世界を創り直すという神の計画に対して人間に出来ることは何もない、すべてを神にゆだねるしかないんだ。それがずっしりとした余韻を残すこのミステリアスな曲に秘められたメッセージです。
英語表現と訳し方
Natural mystic
Naturalは「人間の手によるものではない」という意味です。
Natureは「自然の産物」ではなく、すべて創造主が創りあげたものであるというのが聖書の神を信じるラスタの考え方です。
名詞として使う場合、mysticは「神秘論者」という意味ですが、ここでは「神秘的なもの」や「神秘性」を指します。
オリジナル表記を尊重してmysticのままにしておきましたが、正しくはmystiqueというスペルの関連名詞です。
Natural (天から与えられた)mystique(神秘的なもの)なので「天からやってきた神秘なもの」と訳しました。
自然というのはただ意味もなくそこに存在しているのではなく、すべて全能の神が創り出したものだというのがこの曲を貫いている聖書に基づいた世界観です。
Blowing through ~
Blowing以下はすぐ前のnatural mysticの説明です。
Blow は「風が吹く」という意味の動詞です。Throughを伴うとそのすぐ後に続くものを「吹き抜ける」という意味になります。
Blowing through the airとよく似た表現にボブ・ディランの曲で有名なblowing in the windというのがあります。
こちらは「風に吹かれて動いていく」、「風になびく」という意味の慣用句です。
First trumpet
新約聖書最後の書ヨハネの黙示録(Book of Revelation)からの引用です。
直訳すると「一番目のトランペット」ですが、現在の形に近いトランペットが考案されたのは14世紀頃と言われています。
ヨハネの黙示録は紀元95年~96年に書かれたという説が有力なので日本語版聖書新共同訳に合わせて「ラッパ」と訳しました。
ちなみにトランペットの語源は「貝殻」を意味するギリシャ語と言われています。
Trumpet shellsと言えば「ホラ貝」のことです。
Might as well be ~
As well はalsoやtooと同じで「また」という意味です。
Might be ~は「~かもしれない」です。
略されている部分を含めて分かりやすく書き直すとThis may be the last trumpet, tooとなります。
One and all
One(ひとり)とall(全員)で「誰も彼も」、「ひとり残らず」という意味です。
Everyone と言い換えることが出来ます。
One and the sameと言えば「まったく同じ」、one and onlyと言えば「唯一の」です。
To go living through the past
Go livingはliveとまったく同じ意味です。
Live through ~は「~を生き抜く」です。
ここではpast(過去)を生き抜く(最初から最後までもう一度生きる)なので「過去に戻ってやり直す」と訳しました。
Keep down
Keep(維持する)+ down(低い)で「低い状態にしておく」です。
言い換えると、「抑える」、「抑制する」ということです。
略された目的語がnatural mysticで、それは「(風のように)吹き抜けるもの」だと言っているので「静める」と訳しました。
同じ意味でよく使われるフレーズにcalm downというのがあります。
命令形でCalm down!と言えば、「落ち着いて!」という意味になります。
韻を踏んでいる箇所
次の2か所で韻を踏んでいます。
翻訳する上で難しかった点
曲のテーマであり、タイトルでもあるnatural mysticの訳し方が難しかったです。一神教を信じていない人が考える「自然」とは違うので「神の創造物」という意味をはっきり映す訳語を採用しました。
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