【エッセイ】 朝の時間。

久しぶりに朝早く起きた。朝なのか夜なのか分からない。午前4時。世界は静かで、雪も降っていないのに、しんしんとした空気が流れていた。動物たちも寝ている時間。外から歌声も聞こえてこない。聞こえているのは、安い壁掛け時計の秒針の音。歌詞みたいに、チクタクチクタクと鳴らしている。

みんなが寝ている時間に自分一人動き出すと、なんだかワクワクする。自分が今日という一日を動かしているような気分だ。大人ブリたかった子ども時分の頃を思い出してしまう。意味もなく早起きをして時間を持て余してみたり、わざと大人っぽい言葉を使ってみたりしたなあ。

悲しいことに、今では言葉も行動も違和感なく大人らしく使えてしまうけど、いまだに抵抗のある言葉もある。それが、相槌の「ええ」というヤツ。よく親が電話越しに使っていた言葉だ。相槌と言ったら「うん、うん」とか「はい、はい」だったもん。それが大人になったら「ええ」になるんだから。なんだか恥ずかしかった。

話が逸れた。

朝早くに起き出しても、大人っぽいことはなにもできなかったのが正直のところ。いつもと同じように、お湯を沸かして白湯を飲む。ホッと一息ついたら、今度はガリガリとコーヒー豆を挽く。子どもからしたら大人っぽいのかもしれないけど、ただのルーティンだからねえ。一時期は朝から紫煙をくゆらせて、いかにも大人っぽい朝を送ったこともあったけど、今ではひっそり熱々のお湯を飲んでます。

とにかく世界が静止してるみたいに静かだから、ヤカンがカタカタと蓋を揺らす音や、コーヒー豆が砕けて粉になっていく音が際立った。音の粒が見えるような感覚。マグカップにお湯を注いでいるだけなのに、なにかが燃える時のようなジュジュジュっとした音が聞こえてきたり、豆を挽く音が、やたらと残酷に聞こえた。ギーコギーコ、ゴリゴリ、バリバリ。なにかを解体している音にも聞こえてしまったよ。

ボーッとしてると、あっという間に時間が過ぎてしまって電車の時間に間に合わなくなる。静かな時間はほんの刹那。ザブザブとシャワーを浴びて、ゴトゴトと洋服ダンスをひっくり返して、髪も乾かす余裕もないままバタンと家を飛び出した。

5時を過ぎると寝坊でもしてたみたいに、太陽が突然顔を出す。空は急速に白んでいく。ここ数日、曇天が続いていたせいか、青空がノビノビしていた。

遠くから電車の走行音が聞こえ、いよいよ一日が始まる気配がした。こんな朝早くから、犬の散歩をしてる人、スーツ姿の人影もちらほら。

おはようございます。今日も一日、頑張りましょう!

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