見出し画像

2分間

元彼に偶然会った。相変わらず目をなくして笑う可愛い人だった。

その彼とは所謂ナンパで付き合った。      スーツを着て私のお店に来た仕事帰りだった彼。接客していた私に連絡先を聞いてきた彼。ナンパなんてしなさそうな見た目の彼。普段こういう事を言われてもやんわり断る私。その時だけは何故か交換してもいいかななんて思ってしまった私。     私の目をしっかり見つめている名前も年齢も職業も知らない彼を何故かいいなって思った。

好きというか気になってしまって、、お友達からでいいのでよければ、、、、本当突然ごめんなさい、、

そんな目線とは裏腹にしどろもどろで言葉を紡ぐ彼を思い出すとやっぱり可愛くて頬が上がってしまう。マスクをつけててよかったなんて電車で思う。IDを教えたものの本当に追加されるのか?薬を勧められるのかも?もしかしたら宗教勧誘かもしれない。あぁ忘れていた、マルチ商法の誘いの可能性もあるなぁなんて思考を永遠としていた。彼に連絡先を教えた後のバイトは何故かドキドキして仕事が手につかなくて上の空だったのを今でも覚えている。バイトが終わって携帯を開くと堅苦しいくらいのメッセージが送られていた。仕事かよなんて笑う私。気づけばその週の土日にご飯を食べに行くことになった。名前とうろ覚えな顔しか知らない彼とご飯に行くなんて今も今までの自分でも考えられない。 お昼集合夕方解散の予定なんて健全すぎて、少し早く着いた集合場所で笑っていた私。改めて見た彼は思っていたよりも背が高くてしっかり目を見つめてくる人だった。ご飯の場所、その後のカフェもしっかり下調べしててくれた彼。話しているうちに緊張も解けたのかよく笑ってボケてくるようになった。私より年が少し上の社会人で、出身大学も近くて趣味が合うよく笑う人。身元がわからないと不安だろうからも身分証や社員証を見せてくるような人。帰り際、

よかったらまた会って欲しい。会いたいと思ってくれたら連絡して下さい。自分からは連絡しないから、会いたくなかったらこのまま連絡してくれなくていいよ。

と突き放してきた彼。別れて1分程で会いたいなんて送った私。今思うとなかなかに可愛い私。

その後も何回か2人で遊んだ。早く会いたくて、連絡が来ると嬉しくて、写真を何度も見返しながら遊びの予定を待つようになった。そんなある日の夜、告白をされた。今でもその時流れていた曲、光景、雰囲気、匂いを覚えている。           会話が途切れて周りの人の音で落ち着かない公園で付き合おうよ、と彼が一言呟いた。ガヤガヤして煩かったはずの公園が彼の声以外ミュートされた様に静まり返った。繋いでいた手を強く握ってきた彼の手は少しだけ汗ばんでいた。嬉しくて顔を背けながら何も言えない私に何か言ってよと早口で言う彼の顔は今も分からないまま。隣に私の彼氏がいる〜なんて言いながら手を握り返した私を見る愛おしそうな目が今も忘れられない。それから2人で沢山時間を過ごした。仕事が忙しいはずなのにバイト終わりの私を迎えにきてくれたり、飲み明かしたり、ベットでゴロゴロしたり、2人で料理をしたり、本当に楽しくて仕方がない毎日だった。私を抱きしめながら寝る彼、腕枕をしてくれる彼、優しい言葉もスキンシップも多くて不安にさせない彼。全部が好きだった。彼の前に別れた人を忘れられなかった私はようやく前に進めた気がした。

けどそんな時間に少しずつヒビが入っていった。彼の愛情と私の愛情のバランスが崩れて天秤が壊れた。彼の真剣な私への想いに対して私の気持ちはあまりにも軽かった。結婚を真剣に考えていた彼とその事に対して自信がなかった私。私が大学を卒業するまで付き合ったとして、その時までに自信がつかなかったら??彼の時間を年単位で消費してしまうだけになってしまう。なんて考えるようになった。私との時間を早く終わって次に進んだ方がいいのじゃないか、こんなにいい人なんだから他にもお似合いの相手は沢山いるなんて考えているうちに私は別れようと言っていた。理由を聞いて受け入れてくれた彼。俺じゃダメでごめんなんて最後まで優しい彼。もっと私の好きに自信があったらなんて今思う。立場を置き換えたら私のした事はあまりに酷くて何も言えなくなる。振っておいて、我儘なことをしておいて何を言っているんだって感じだけど。



そんな彼に偶然電車で会った。サークルの対外試合に遅れて泣きそうになりながら知らない電車を乗り継いでいたら偶然出会った。使う路線も違う、生活時間も違う、住んでる県も違う彼にはもう2度と会えないと思っていた。写真もインスタもLINEも消してからもう数ヶ月顔を見ていないのに一目でわかった。少しだけ短くなった髪に相変わらずクシャクシャにして笑う笑顔で久しぶりと言った彼。少し話をして一駅だけ、2分間だけ同じだと分かった。多分もう2度と会わない最後の2分。今日の朝食べたカップラーメンよりも短い時間。なんでこの電車に乗っているのかという話の途中で到着のアナウンスが流れた。あんなに永く感じたカップ麺を待つ時間との差は大きい。元気そうでよかった、ばいばいと言って電車を降りていく彼の後ろ姿に思わずついて行きそうになった。いつも彼の後ろをついて歩いて家ではその背中に顔を埋めていた。懐かしいけどもう2度と触れない背中は相変わらず大きかった。

公園で手を繋いでいたあの時のままいたかったなんて別れた今でも思う。私達の結末は別れだったけれど、もし時間が戻っても私は同じ選択をする。間違いだと言われても、自己中心的だ、自分だけ楽しい時間じゃないかなんて言われるだろう。それでも私はあの時に戻ってもあの時と同じ選択をして同じ時間を過ごしたい。そう思う時間だった。あわよくば今度はもっと長く一緒にいたい、自信を持ちたい。なんで振った側の私がこんなに未練がましいのかは分からないけど、もし今度があるなら.なんて考えてしまう。きっと彼にはもう新しい人がいるんだろう。多分もう2度と会わないけどどこかで誰かと幸せに笑いあう人生を送っていますように。このセリフは1番言われたくない言葉だから言わなかったけど、幸せになって下さい、あの時は自信がなかったけど確かに大好きでした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?