流れで独立開業をする
日本に帰って、さあどうしよう。
一年遊んで、気分はスッキリしていましたが、お財布の中身はもっとスッキリしてしまいました。
とりあえず働かなくてはなりません。また美容師として働き出します。
次は地元藤沢駅の近く、前の店のような中規模のお店に雇ってもらいました。また雇われ美容師の生活が始まったのです。
これまで書いた通り、僕はサーフィンをやります。
海の前で育っているので、サーフィンをするのは自然な事だったんです。
ある友達が、七里ヶ浜にお店を構えるサーフショップのオーナーを紹介してくれました。
ショージさんというその人は、自分でサーフボードも削り、サーファーとしても結構有名な人。陽気で面倒見のいい気さくな人です。
僕と友達はショージさんの工場によく遊びに行きました。サーフボードの廃材を加工し、小物や装飾品などを作る。そんな遊びもショージさんに教えてもらい、そのころ熱中していました。
ある日藤沢の美容院での仕事を終えた帰り道、ショージさんとばったり会いました。ショージさんに友人と食事に行くが、一緒にどうかと誘われました。
寿司屋のテーブル席に3人で座ります。ショージさんの友達の女性、ユキコさん(仮名)が同席しての食事でした。三人でとりとめもない話をしていると、そのうちショージさんがこんなことを言います。
「俺サァ、店閉めようと思ってんだよね。削る方(サーフボードを)だけにしよう かと思って。タケちゃん、あそこでお店やらない?」
(タケちゃんは僕のことです)
「えっ!?僕が店をやるって、美容室をってことですか?」
「そうそう」
ショージさんの小さなサーフショップは、七里ヶ浜の丘の上にありました。
その店舗兼住宅の店舗部分で、僕に自分の美容室を持たないかというのです。
「そのうち独立したいって言ってたじゃん?」
「そ、そうですけど、でもあそこはちょっとないっすよ・・・。」
独立のことはぼんやりとは考えていました。ヨーロッパで見た個人の美容室も記憶に新しかったですし。
でも独立にいくらかかるのかも、何を準備するのかもわかりません。
何より場所が気になります。駅から遠く、住宅街の中の数件だけの商店区画。さらにその端っこの、坂の上に、ショージさんのサーフショップはあったのでした。
どう見ても人通りが多いとは思えません。
今まで働いたお店はどこも商店街の只中の、人通りの多い場所にありました。だから丘の上の住宅街の一角、なんてところで美容室なんてやっていけるのかとても疑問でした。
逡巡していると、黙って聞いていたショージさんの友人、ユキコさんがこう言います。
「あのね、独立しないかって話をもらえるのは、誰にでもあるわけじゃないと思うのよ」
「は、はあ。。」
「立地の悪さとか悪い条件だと考えるのは、あなたの浅い経験値からでしょ。そんなの合ってるかどうかなんてわからないんだら。」
「せっかくのチャンスだと思って前向きに考えるべきよ。」
「そ、そうですか・・・」
「私なんか、あるビルのオーナーに『空いている場所があるんだけどあそこで君なら何をやる?』って聞かれたから、
『ヴィーガンカフェ!』って即答したの。
そしたら『やってみれば』って事になって、いつの間にやら3件目よ!」
と、いたって朗らかです。
ユキコさんは都内でデザイン事務所と、自身ベジタリアンであることからヴィーガンカフェを3軒持つことになったやり手の経営者で、今でも時々おしゃれな雑誌に取り上げられたりしています。
二人の大先輩の勢いに乗せられてしまったような気もしますが
一晩考えて「やります!」とショージさんに連絡しました。
藤沢のお店にはすぐに独立するため退店したい旨伝えました。
その時は働き始めて半年しか経っておらず、僕の重要度もさほどでなかったためか、円満に退店することができました。
美容室は辞めました。
そこから自分の店を持つ準備を始めるわけですが、初めてのことで何から始めて良いやら何もわかりません。
そのとき僕が思い描いていたのはヨーロッパで見たようなお店です。
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