【ごはんのはなし。第3話】結局たまごサンドに落ち着く
レシピを書くようになってから、どれほどのメニューを考えたろうか。おそらく数千はくだらないと思うが、その中にはもちろん、パンをつかったメニューも数多くある。
料理家と呼ばれる方や、レシピ制作に従事されている方たちが必ず思うであろう「あまりスタンダード過ぎず、ちょっと風変わりなレシピにしよう」という思いに囚われた時期もあり、手間暇をかけて色々なメニューを考えていた。
ざっと見返してみたところ「和風ローストビーフサンド」だの「メイプルナッツチーズのモーニングバゲット」だの「納豆たまごウインナートースト」だの、いかにも「おれのレシピは一筋縄じゃいかないぜ!」とでも言わんばかりのラインナップ。これでもまだほんの一部というところがなかなか恐ろしい。
しかしコンビニのパンやサンドウィッチのコーナーを見ると、それほど奇抜なものはない。だいたいは定番のもので、「納豆たまごウインナートースト」なんてものは、あと1世紀待ってもきっと棚には並ばないと思う。
そんな中、数年、数十年と変わらずにそこに居続けるメニューがある。
たまごサンドだ。
それはもう、レシピを書くのもおこがましいくらいにスタンダードで、そして誰もが認める「王道」だ。
ゆで卵にマヨネーズと塩少々をぶちこんでかき混ぜただけ、と書くと、なんとも大雑把な感じになってしまうが、これ以上書きようがない。分量? そんなものは適当にやってもだいたいおいしくなる。なぜなら、これこそが「キング・オブ・サンド」だから。
しかしこうなってくると、私はなんのためにパンのメニューを考えるのか、というジレンマに陥る。だってたまごサンドがあればいいのだから。少しアレンジしたくなったら、トマトやハムをはさんでおけばいいだけの話じゃないか。
そんな時、とあるレシピ依頼が来た。
「テレワークになって余裕のある朝にぴったりのパンのメニューをお願いします」とのこと。
私は「たまごサンドでいいじゃないですか」と言おうと思った。ただ、それでは普通過ぎる、という、例の「あの衝動」が私を襲った。レシピ作成者としての矜持が試される、その瀬戸際がいまなのではないか。そんな気持ちになった。
そう、創作料理を作らねば。こういう時に私がよくやるのは「ごはんのおかずをパンにのせても意外といける」戦法である。例えば生姜焼きやから揚げはご飯のおかずとしておなじみだが、パンにのせても間違いない。
そういったことを踏まえて色々考案し、そして私はひとつのメニューにたどり着き、早速先方へメールを返した。
「納豆たまごウインナートーストなんかはいかがでしょうか?」
それから三日経過したが、返事はまだ来ていない。
(終)
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