小説【クリック】
コメント欄の罵詈雑言。キリキリと胃腸が壁面を削ってるみたい。
画面が暗転。
優はハッとなってそこにうつった自分を見る。暗い、口角の下がった顔。
「ぶさいく…」
はは、苦笑いしてみる。よくそうやってネット上で流れてくる動画の中の人が言うから。
今、発した言葉は一体自分の言葉だろうか?
それとも誰かの受け売り。コピー。感情の欄が空っぽなもの?
そんなこんなを考えてるのに指は止まらない。縦に滑って、横に引っ張って、少し空中をさまよって、次のオアシスに入り込む。なんだかリフレッシュした感じ。と思いきや、開始5秒で登ってくる気だるさ。
自分は、一体この命果てるまでに何度クリックを押すのだろう?
実際数えてみた人とかいるのかな。
窓の外には、もうぬるい夜が来ていた。部屋の明かりはまだつけていなくて、携帯の光がただ1つ、優を照らしている。
思うに、人間はもはや、クリックをすることが生きる上で欠かせなくなってきている。
カチッとなるクリックはもちろんのこと、ここでは広い意味でのクリックだ。
優は思う。
もし、この平面な世界に、入り込めたらどんな世界なのだろう。
多分、めちゃくちゃ明るいネオンの町と、その裏側に底のない谷がある。
多分、ろうの、ぷろぱがんだホルマリン漬け人間の戦争があちこちで起こってるんだ。
多分、優は、砂の、あの小さな粒子くらいにしか目立たない存在だ。
優は情報を集めるのが苦手だ。
上質で信頼性のあるそれは一体どこにあるのだろう?分からない。
だけどつまらない、安い情報にだっていいから常に接していたい。
まるで世界から切り離されて、独りぼっちのようだから…
優の嗅覚はいつの間にか現実世界に戻っていて、階下の夕食を察知する。
そろそろ夕飯時。
スリッパを履いて、優はベッドから立ち上がる。握りしめて、違和のない長方形に手汗をかいた。
あ、
優はベッドの上にそれを置いて、食卓に向かう。
途切れぬ情報の嵐から意識をそらし、
ぺしゃんこ、馬鹿になった脳を、3次元世界で取り戻す。
脳が再生する感覚がするのは嘘じゃない。
好き勝手言って思うままに書いてます。
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