君に届ける、初夏の風7

シリーズ?完結です。



気持ちのいい新緑の風が葵と勝の髪を揺らす。葵が山守家にきて、一年弱が過ぎた。
「これまで教えたことはとりあえずのお作法やら、教養やらは、私が出ていっても勉強はし続けるのよ。」
「分かってますよ、勝先生。」
「おちょくってるはね…」


 およそ一年前、勝の御結納の儀を中断させたあの日、葵は勝の代わりに自分が次期頭首となる事をばあさまに申し込んだ。葵は女子ばかりの人生を定めてしまうその慣習、という名のもとに隠れた怠慢さ、窮屈すぎる山守の環境、そしてそれらが勝にとっていかに損なことかをばあさまに訴えたのだった。もう少しこの屋敷にいて、母の痕跡を感じたい、という葵の気持ちも嘘ではなかったが。                            ばあさまも鬼ではなかった。葵の主張は、もっともだとして、条件付きで葵の提案を飲み込んだ。その条件とは、山守の頭首たるにふさわしいあらゆる面での試験に合格すること。この試験突破のため、この約一年間、葵は勝に指導をうけ、一週間前のかろうじてすべての試験に無事合格したのであった。
 
プップ、とクラクションが聞こえた。約一年ぶりにみた、葉一のベンツSクラスだった。

「じゃあ、そろそろ。」
勝が風でなびく髪を抑えながら言った。
「葵、ありがとう。一回外を見てくるね。必ず帰ってくるから。」
「うん、こちらこそ。勝が戻るまでにここも風通しのいい家にしとくわ。」

勝はいつか、葵のことを風といった。葵は初夏の風だね、と。

葵になら、絶対できるよ。勝はそう言って車に乗り込んだ。

                                 了

恋愛恋愛したボーイミーツガールではなく、純粋な出会いを書きたかったです。果たして表現しきれていたでしょうか。ばあさまのこと、山守家のこと、その他もろもろ、もっと書きたいことはありますし、同一世界でのお話ができたらいいなと思っています。

最後まで読んでくださりありがとうございました。またお会いできますように…!

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