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2021年に読んで面白かった小説ベスト10

4回目となる個人的な年間ベスト10。2021年は相変わらずのコロナ禍で移動時間が激減。年間の読書量は30冊と一時期に比べると半分近くに減ってしまいましたが、それでも面白い作品とたくさん出会いました。ありがとう、小説。おもしろいよ、小説。


※過去の年間ベスト10はこちら


第10位 「七回死んだ男」 西澤 保彦

高校生の久太郎は、同じ1日が繰り返し訪れる「反復落とし穴」に嵌まる特異体質を持つ。資産家の祖父は新年会で後継者を決めると言い出し、親族が揉めに揉める中、何者かに殺害されてしまう。祖父を救うため久太郎はあらゆる手を尽くすが―鮮やかな結末で読書界を驚愕させたSF本格ミステリの金字塔!

1995年の作品。主人公は、同じ1日が9回繰り返されることがたまに発症するという、いわばタイムリープもの。
タイムリープというと、涼宮ハルヒの憂鬱エンドレスエイトのように、いかにして抜け出すかというパターンが多いけれど、この作品はループ回数が9回と決まっていて当然主人公も理解している。理想の状況を9回目に作り出すために、7回目までは試行錯誤して8回目でリハーサルを行うことが鉄則であるということが前提で進行していくから面白い。
手を替え品を替え、祖父が殺害されないように尽くしてみるものの、他の人たちは自分の意思で勝手に動くからそう簡単に思い通りにはならない。そうこうしているうちに残り回数は少なくなってきて、、
この試行錯誤っぷりがゲーム「ヒットマン」シリーズを彷彿とさせる。
ゲーム好きにもミステリ好きにも楽しめる作品でした。

第9位 「祈りのカルテ」 知念実希人

諏訪野良太(すわのりょうた)は、純正会医科大学附属病院の研修医。初期臨床研修で、内科、外科、小児科など、様々な科を回っている。
ある夜、睡眠薬を大量にのんだ女性が救急搬送されてきた。その腕には、別れた夫の名前が火傷(やけど)で刻まれていた。
離婚して以来、睡眠薬の過剰摂取を繰り返しているというが、良太は女性の態度と行動に違和感を覚える。
彼女はなぜか、毎月5日に退院できるよう入院していたのだ――(「彼女が瞳を閉じる理由」)。
初期の胃がんの内視鏡手術を拒否する老人や、循環器内科に入院した我が儘な女優など、驚くほど個性に満ちた5人の患者たちの謎を、新米医師、良太はどう解き明かすのか。
「彼」は、人の心を聴ける医師。こころ震える連作医療ミステリ!

短編集が故にテンポがよくすいすい読める。研修医である主人公と配属される先々で出会うクセのある患者とのハートフルなミステリ展開が嫌味でなくキャッチーで、もっともっと読みたくなる。それこそ東野圭吾ガリレオシリーズのようにテレビドラマとの相性も良さそう。主人公の諏訪野良太役は高杉真宙とかどうでしょう。
それにしても著者の知念実希人氏の刊行ペースが早すぎてびっくりする。現役医師でありながら2021年だけで3冊も。

第8位 「幸福の一部である不幸を抱いて」 小手鞠るい

好きになった人に“たまたま奥さんがいた”だけの、二人の女。杏子は「もうひとつの家」に帰る彼を毎夜見送り、みずきは病身の妻を養う彼の訪れを今日も待ちわびる。守られない約束、聞き慣れた嘘、会えない時間が増え続けても二人はとても幸せで…。しかし、たった一通のメール、ほんの一回の情事が、“恋濃き”大人の女たちを狂わせる―。

言ってしまえば不倫小説であり別に珍しくもないのだけれど、交互に構成される二人の話のテンポと、そして何より文章がとてもオシャレ。哀愁はあるが決してそれは諦めではなく、そして迷いも無い。でも脆い。
帯の「私の本当の恋を人は不倫という。」もとても良かった。販促物としての帯ではなく、作品を補完する、すごくいいコピーだと思う。

今の私の生活は、他人の目から見れば不幸に、あるいは異常なものに、映っているかもしれない。けれど、そう、そうなの。『不幸もまた、幸福の一部である』ということなの

作中より

第7位 「白い衝動」 呉勝浩

強い殺人願望を抱く高校生。かつて残虐な連続強姦事件を起こした鬼畜。二人が至近の距離に住むことを知ったスクールカウンセラーの千早は、不吉な胸騒ぎを覚える。その動揺は奇妙な連鎖を生み、千早は混沌の渦中へ。得体の知れない他人と共に生きるとは。緊迫の会話劇と展開に目を見張る。第二十回大藪賞受賞作。

誰かを殺したいという殺意ではなく、人を殺したいという殺人願望
殺意には何かしらの原因があるが、殺人願望にはそれがない。それこそ歌いたいから歌うのとなんら変わらない。もちろん(殺人を犯す前であれば)罪にも問えない。
作中では、殺人願望を持つ人に対して社会は当然のように恐怖を感じるが、できることは、排除隔離包摂であるとされている。
罪を犯しているわけではなく、ただそういう願望を持つ人に対して、果たして排除や隔離してしまって良いのか。だが、包摂(受け入れる)ことはできるのか。殺人願望から殺人を犯し、刑期を終えて出所してきた人に対してはどうか。
心理学的な内容も盛り込みつつ、ミステリーとしての展開もあり、骨太な作品でした。

第6位 「スイート・マイホーム」 神津凛子

隙間風に苛まれる日々を脱すべく、念願の家を購入した賢二。
愛する妻と娘と引っ越したそこは、暖かくて快適な、まさに「まほうの家」――だったはずなのに。
立て続けに起こる異変と、家中に漂う見知らぬ誰かの気配が、一家を恐怖の淵に追い詰める。
そして、とうとう死者が。
この悪夢の先に待ち受けているものとは。

著者の神津凛子はこれがデビュー作。
本を開く前からホラー作品であることは明白で、それは読み終えた後でも変わらない。ただ、普通のホラーと言えばリングや呪怨のように、最初から最後まで恐怖を抱く対象(貞子や伽椰子)があり続けるが、この作品はそれがグラデーションのようにどんどん移り変わることでミステリーの側面もある。
本屋さんでジャケ買いし、すっかり忘れて2冊目も購入してしまった後悔を忘れさせてくれる作品でした。

第5位 「殺した夫が帰ってきました」 桜井美奈

都内のアパレルメーカーに勤務する鈴倉茉菜。茉菜は取引先に勤める穂高にしつこく言い寄られ悩んでいた。ある日、茉菜が帰宅しようとすると家の前で穂高に待ち伏せをされていた。茉菜の静止する声も聞かず、家の中に入ってこようとする穂高。
その時、二人の前にある男が現れる。男は茉菜の夫を名乗り、穂高を追い返す。男は茉菜の夫・和希に間違いなかった。しかし、茉菜が安堵することはなかった。なぜなら、和希はかつて茉菜が崖から突き落とし、殺したはずだったからだ。
戸惑う茉菜をよそに、和希は茉菜の家に上がり込む。改めて話を聞いてみると、和希は過去の記憶を一部なくしており、茉菜と一緒に暮らしたいという。茉菜は渋々それを受け入れる。
かつての和希はとても暴力的な人間だったが、いざ暮らしはじめると、暴力的な影は一切見られず、平穏な日々が過ぎていった。
しかしそんな矢先、茉菜のもとに一通の手紙が届く。手紙には一言だけ「鈴倉茉菜の過去を知っている」と書かれていて……
記憶をなくし帰ってきた、殺したはずの暴力夫。謎めいた正体と過去の愛と罪を追う、著者新境地のサスペンスミステリー。

webコミックにありがちな、漫画アプリの広告バナーに使われがちなタイトルなので正直あまり期待せずに手に取ってみたところ、しっかり練り込まれたストーリーでグイグイ引き込まれてしまった。
この作品の場合、何を言ってもネタバレになってしまうのが心苦しい。
テンポも良く読みやすいので、小説に馴染みがない人にもおすすめ。

第4位 「火のないところに煙は」 芦沢央

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の〈私〉は驚愕する。忘れたいと封印し続けていた痛ましい喪失は、まさにその土地で起こったのだ。私は迷いながらも、真実を知るために過去の体験を執筆するが……。謎と恐怖が絡み合い、驚愕の結末を更新しながら、直視できない真相へと疾走する。読み終えたとき、怪異はもはや、他人事ではない――。

ホラーでもありミステリーでもあり、短編集でもあり長編でもある。やはり短編集は、全編を通してひとつの作品になるようなものが洒落てる気がする。
芦沢央作品はどれを読んでも面白く、2020年には「許されようとは思いません」を、2018年には「いつかの人質」を年間ベスト10にピックアップさせてもらいました。長編も短編も、どれもおすすめ。

第3位 「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。血の繋がらない親の間をリレーされながらも出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき―。大絶賛の本屋大賞受賞作。

2021年には永野芽郁田中圭石原さとみで映画化された、2019年本屋大賞の大賞受賞作品。
父親が3人。母親が2人いる主人公の高校生という設定から、不幸な生い立ちからの感動ポルノだろうと思い込んでページをめくった最初の一行が「困った。全然不幸ではないのだ。」この作品はこれが全て。本当に全然不幸ではない。
不幸から幸せになる高低差で泣かせる作品は多いが、最初から最後まで幸せなのに最後はしっかりと涙する、こんな作品に初めて出会った。本屋大賞も納得。

第2位 「護られなかった者たちへ」 中山七里

誰もが口を揃えて「人格者」だと言う、仙台市の福祉保険事務所課長・三雲忠勝が、身体を拘束された餓死死体で発見された。
怨恨が理由とは考えにくく、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。
しかし事件の数日前に、一人の模範囚が出所しており、男は過去に起きたある出来事の関係者を追っているらしい。そして第二の被害者が発見され――。
社会福祉と人々の正義が交差したときに、あなたの脳裏に浮かぶ人物は誰か。

2021年に佐藤健主演で映画化された作品。続編となる小説「境界線」も発売中。
連続殺人事件の発生と解決というミステリー王道の展開ではあるがこの作品は生活保護に焦点を当てていて、それがもう切なくて切なすぎて読むのが苦しくなるくらい。もちろん不正受給は良くないし制度そのものには予算があるものだけれど、生活保護は正当な権利。申し訳ないからとか迷惑になるからとかは考えずに胸を張って相談しに行ってほしい。

第1位 「沈黙のパレード」 東野圭吾

静岡のゴミ屋敷の焼け跡から、3年前に東京で失踪した若い女性の遺体が見つかった。逮捕されたのは、23年前の少女殺害事件で草薙が逮捕し、無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。町のパレード当日、その男が殺された――
容疑者は女性を愛した普通の人々。彼らの“沈黙”に、天才物理学者・湯川が挑む!

人気のガリレオシリーズ。もちろん福山雅治主演で2022年には映画化が決定しています。これだけハードルが上がっているのに、最高に面白かった。
事件の全容が見えてきて、これでこのまま解決かなと思いきや、その割には残りページ数が多い。そして明かされる新たなる真実。それでもまだ残るページの厚み。これを何度繰り返したことだろう。さすが。
さらに、帯の「容疑者Xはひとりじゃない。」が完璧すぎて痺れた。


感想

例年よりも冊数が少ない中でのTOP10となりましたが、面白い作品は本当に面白い。

そして、帯に感動する作品が印象的でもありました。
販促を意識してそれっぽいキャッチーな言葉が並んだだけの帯も多いなか、作品を見事に言い表し帯も含めて1つの作品として成立していた幸福の一部である不幸を抱いて「私の本当の恋を人は不倫という。」、作品を読み終えた後にその言葉の深さを知った沈黙のパレード「容疑者Xはひとりじゃない。」

読み終えて本を閉じたときにこういう帯を目にして、改めて作品を噛み締める。
こんな体験ができるのも紙の本の醍醐味だなと思った2021年でした。
2022年もいろんな作品に出会えますように。


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