2021年に読んで面白かった小説ベスト10
4回目となる個人的な年間ベスト10。2021年は相変わらずのコロナ禍で移動時間が激減。年間の読書量は30冊と一時期に比べると半分近くに減ってしまいましたが、それでも面白い作品とたくさん出会いました。ありがとう、小説。おもしろいよ、小説。
※過去の年間ベスト10はこちら
第10位 「七回死んだ男」 西澤 保彦
1995年の作品。主人公は、同じ1日が9回繰り返されることがたまに発症するという、いわばタイムリープもの。
タイムリープというと、涼宮ハルヒの憂鬱のエンドレスエイトのように、いかにして抜け出すかというパターンが多いけれど、この作品はループ回数が9回と決まっていて当然主人公も理解している。理想の状況を9回目に作り出すために、7回目までは試行錯誤して8回目でリハーサルを行うことが鉄則であるということが前提で進行していくから面白い。
手を替え品を替え、祖父が殺害されないように尽くしてみるものの、他の人たちは自分の意思で勝手に動くからそう簡単に思い通りにはならない。そうこうしているうちに残り回数は少なくなってきて、、
この試行錯誤っぷりがゲーム「ヒットマン」シリーズを彷彿とさせる。
ゲーム好きにもミステリ好きにも楽しめる作品でした。
第9位 「祈りのカルテ」 知念実希人
短編集が故にテンポがよくすいすい読める。研修医である主人公と配属される先々で出会うクセのある患者とのハートフルなミステリ展開が嫌味でなくキャッチーで、もっともっと読みたくなる。それこそ東野圭吾ガリレオシリーズのようにテレビドラマとの相性も良さそう。主人公の諏訪野良太役は高杉真宙とかどうでしょう。
それにしても著者の知念実希人氏の刊行ペースが早すぎてびっくりする。現役医師でありながら2021年だけで3冊も。
第8位 「幸福の一部である不幸を抱いて」 小手鞠るい
言ってしまえば不倫小説であり別に珍しくもないのだけれど、交互に構成される二人の話のテンポと、そして何より文章がとてもオシャレ。哀愁はあるが決してそれは諦めではなく、そして迷いも無い。でも脆い。
帯の「私の本当の恋を人は不倫という。」もとても良かった。販促物としての帯ではなく、作品を補完する、すごくいいコピーだと思う。
第7位 「白い衝動」 呉勝浩
誰かを殺したいという殺意ではなく、人を殺したいという殺人願望。
殺意には何かしらの原因があるが、殺人願望にはそれがない。それこそ歌いたいから歌うのとなんら変わらない。もちろん(殺人を犯す前であれば)罪にも問えない。
作中では、殺人願望を持つ人に対して社会は当然のように恐怖を感じるが、できることは、排除か隔離か包摂であるとされている。
罪を犯しているわけではなく、ただそういう願望を持つ人に対して、果たして排除や隔離してしまって良いのか。だが、包摂(受け入れる)ことはできるのか。殺人願望から殺人を犯し、刑期を終えて出所してきた人に対してはどうか。
心理学的な内容も盛り込みつつ、ミステリーとしての展開もあり、骨太な作品でした。
第6位 「スイート・マイホーム」 神津凛子
著者の神津凛子はこれがデビュー作。
本を開く前からホラー作品であることは明白で、それは読み終えた後でも変わらない。ただ、普通のホラーと言えばリングや呪怨のように、最初から最後まで恐怖を抱く対象(貞子や伽椰子)があり続けるが、この作品はそれがグラデーションのようにどんどん移り変わることでミステリーの側面もある。
本屋さんでジャケ買いし、すっかり忘れて2冊目も購入してしまった後悔を忘れさせてくれる作品でした。
第5位 「殺した夫が帰ってきました」 桜井美奈
webコミックにありがちな、漫画アプリの広告バナーに使われがちなタイトルなので正直あまり期待せずに手に取ってみたところ、しっかり練り込まれたストーリーでグイグイ引き込まれてしまった。
この作品の場合、何を言ってもネタバレになってしまうのが心苦しい。
テンポも良く読みやすいので、小説に馴染みがない人にもおすすめ。
第4位 「火のないところに煙は」 芦沢央
ホラーでもありミステリーでもあり、短編集でもあり長編でもある。やはり短編集は、全編を通してひとつの作品になるようなものが洒落てる気がする。
芦沢央作品はどれを読んでも面白く、2020年には「許されようとは思いません」を、2018年には「いつかの人質」を年間ベスト10にピックアップさせてもらいました。長編も短編も、どれもおすすめ。
第3位 「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ
2021年には永野芽郁、田中圭、石原さとみで映画化された、2019年本屋大賞の大賞受賞作品。
父親が3人。母親が2人いる主人公の高校生という設定から、不幸な生い立ちからの感動ポルノだろうと思い込んでページをめくった最初の一行が「困った。全然不幸ではないのだ。」この作品はこれが全て。本当に全然不幸ではない。
不幸から幸せになる高低差で泣かせる作品は多いが、最初から最後まで幸せなのに最後はしっかりと涙する、こんな作品に初めて出会った。本屋大賞も納得。
第2位 「護られなかった者たちへ」 中山七里
2021年に佐藤健主演で映画化された作品。続編となる小説「境界線」も発売中。
連続殺人事件の発生と解決というミステリー王道の展開ではあるがこの作品は生活保護に焦点を当てていて、それがもう切なくて切なすぎて読むのが苦しくなるくらい。もちろん不正受給は良くないし制度そのものには予算があるものだけれど、生活保護は正当な権利。申し訳ないからとか迷惑になるからとかは考えずに胸を張って相談しに行ってほしい。
第1位 「沈黙のパレード」 東野圭吾
人気のガリレオシリーズ。もちろん福山雅治主演で2022年には映画化が決定しています。これだけハードルが上がっているのに、最高に面白かった。
事件の全容が見えてきて、これでこのまま解決かなと思いきや、その割には残りページ数が多い。そして明かされる新たなる真実。それでもまだ残るページの厚み。これを何度繰り返したことだろう。さすが。
さらに、帯の「容疑者Xはひとりじゃない。」が完璧すぎて痺れた。
感想
例年よりも冊数が少ない中でのTOP10となりましたが、面白い作品は本当に面白い。
そして、帯に感動する作品が印象的でもありました。
販促を意識してそれっぽいキャッチーな言葉が並んだだけの帯も多いなか、作品を見事に言い表し帯も含めて1つの作品として成立していた幸福の一部である不幸を抱いての「私の本当の恋を人は不倫という。」、作品を読み終えた後にその言葉の深さを知った沈黙のパレードの「容疑者Xはひとりじゃない。」
読み終えて本を閉じたときにこういう帯を目にして、改めて作品を噛み締める。
こんな体験ができるのも紙の本の醍醐味だなと思った2021年でした。
2022年もいろんな作品に出会えますように。
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