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2020年に読んで面白かった小説ベスト10

毎年恒例、1年間に読んだ作品のベスト10。2020年の読書量は44冊でした。例年よりも冊数が少ないのは、やはりコロナによるリモートワーク増加で電車での読書時間が大幅に減ってしまった影響ですね。これからは意識して時間を作らないと。

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過去のベスト10・最新のベスト10

第10位 「スタフ」 道尾秀介

移動デリを経営するバツイチでアラサーの夏都。借金を返しながら、海外赴任中の姉の息子・智弥を預かる生活はぎりぎりであった。ある日突然、中学生アイドル・カグヤのファンたちに車ごとさらわれた夏都は、芸能界の闇に巻き込まれていく。カグヤとファンの暴走に思われた事件は、思いもよらぬ結末を迎える。

まず。「移動デリ」とは食品の調理・加工をする自動車のことで「ランチワゴン」とか「キッチンカー」のこと。ここ間違えないように。

ごく普通の人が誘拐されることで展開していくストーリーながら、頭脳戦とも肉弾戦とも違う、緊張感はあるけれどなんと言うか華がないまま進んでいくなと思わせておいての最後のネタバラシが意外すぎて。

そして何より描写が良かった。主人公が行動を起こした後に自らの心理に気づくシーンがすごく良かった。

タイトル「スタフ」の意味は、読み終わってから調べましょう。

第9位 「青くて痛くて脆い」 住野よる

人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学1年の春、僕は秋好寿乃に出会った。周囲から浮いていて、けれど誰よりもまっすぐだった彼女。その理想と情熱にふれて、僕たちは二人で秘密結社「モアイ」をつくった。―それから3年、あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。そして、僕の心には彼女がついた嘘がトゲのように刺さっていた。傷つくことの痛みと青春の残酷さを描ききった住野よるの代表作。

行動力あふれる不思議ちゃんと二人で作ったサークル(?)が、いつの間にか乗っ取られ追い出されていて、相方ももう居ない。諦めかけていたけれど一念発起。どうにかして取り戻そう。

主人公は取り戻すことに必死だけれど、読んでいるこちらは居ない不思議ちゃんのことが気になって気になって。大学を舞台にしたミステリーの雰囲気が漂うけれど、最後の畳みかけを読めば納得。紛れもなく青春小説だった。

青いなぁ。痛いなぁ。脆いなぁ。このタイトルを付けるセンスが好き。

第8位 「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。血の繋がらない親の間をリレーされながらも出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき―。大絶賛の本屋大賞受賞作。

高校生の主人公には父親が3人。母親が2人いる。これはさぞかし不幸な生い立ちだろうと思いきや、書き出しは「困った。全然不幸ではないのだ。」

血の繋がりがあろうがなかろうが、5人の親全員が充分な愛情をもって、それぞれのスタンスで接している。決して押しつけがましくなく、無理をせず。一般家庭のそれと何ら変わらないからこそ感動ポルノにもご都合主義にもならない。作中でもごく普通の家庭として、あぁそんなこともあるよね。いい家族だね。という雰囲気に包まれる。そう、ごく普通。父親と母親1人ずつが普通だとすれば、普通の2.5倍多い、親が5人いる主人公が、その2.5倍の色々なものを普通に醸し出す最後のシーンは、普通の2.5倍暖かかった。

第7位 「時限感染」 岩木一麻

ヘルペスウイルスの研究者が首なし死体となって発見された。現場には引きずり出された内臓のほか、寒天状の謎の物質と、バイオテロを予告する犯行声明が残されていた。猟奇殺人にいきり立つ捜査陣であったが、彼らを嘲笑うように犯人からの声明文はテレビ局にも届けられる。首都圏全域が生物兵器の脅威に晒されるなか、捜査一課のキレ者変人刑事・鎌木らは犯人の手がかりを追いかけるが…。

マトリョーシカと呼ばれる生物兵器を用いたバイオテロ。ウィルス、細菌、DNAなどの単語が飛び交い、その性質をふんだんに利用した兵器であるために専門的な会話も多く、全てをキチンと理解しようとするとちょっと大変だが、充分にわかりやすくなっているし、仮に理解しなくてもこの物語の面白さには何も影響なし。

パニック小説に分類されるのだろうか。だがそれほどパニックは起きないまま進み、最後に潜むとんでもなく大きな爆弾で衝撃を受ける。

これまではどんなに凄惨な事件や巨大災害であっても、スタジオでニュースを伝えるキャスターの身辺は基本的に安全だった。今回はそうではない。

この着想と展開は、現役医師である著者ならでは。主人公の変人っぷりも良い味を出してて良き。

第6位 「リメンバー」 五十嵐貴久

バラバラ死体をビニール袋に詰めて川に捨てていた女が、都内で現行犯逮捕された。フリーの記者で、二十年前の「雨宮リカ事件」を調べていたという。模倣犯か、それともリカの心理が感染した!?精神鑑定を担当した立原教授の周りでは異常かつ凄惨な殺人が続発する。現場付近で目撃された長い黒髪の女は何者なのか?リカの闇が渦巻く、戦慄の第五弾! 

待ちに待った「リカ」シリーズの第五段。一作目「リカ」で、その特異な最恐ストーカー「リカ」の衝撃を受けつつも、ようやく決着を迎えたかに見えた二作目「リターン」。外伝的な「リバース」「リハーサル」を経て、正統な続編が本作「リメンバー」

リカって(リターンで)完結したんだよね。もう全部ちゃんと終わったんだよねと自らに言い聞かせながらも読み進めるほどに出てくるリカの影に再び引き込まれながら、決して焼き直しではなく、その伏線回収っぷりに驚愕。あぁ怖い。

第5位 「許されようとは思いません」 芦沢央

「これでおまえも一人前だな」入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。だが売上伝票を見返して全身が強張る。本来の注文の11倍もの誤受注をしていた―。躍進中の子役とその祖母、凄惨な運命を作品に刻む画家、姉の逮捕に混乱する主婦、祖母の納骨のため寒村を訪れた青年。人の心に潜む闇を巧緻なミステリーに昇華させた5編。

コンスタントに執筆されていて、そのどれもが高水準。読みやすいし心の闇や信念の描き方も好きだしストーリー・展開の捻りも見事で、ハズレ無しの、注目というか信頼している作家さん。長編も短編も多く、この作品は短編集。「目撃者はいなかった」「ありがとう、ばあば」「絵の中の男」「姉のように」「許されようとは思いません」の5編。

読み進めるうちに予想を超えてどんどん闇落ちしてく「姉のように」。「ありがとう、ばあば」「許されようとは思いません」の、最後に畳みかける、ゾワゾワっとした感覚。あまり長編小説に慣れていない人でもこれなら読めそうだし、これをキッカケにミステリー小説にハマってくれそう。

世にも奇妙な物語で映像化されても面白いんじゃなかろうか。

第4位 「少女葬」 櫛木理宇

一人の少女が壮絶なリンチの果てに殺害された。その死体画像を見つめるのは、彼女と共に生活したことのあるかつての家出少女だった。劣悪なシェアハウスでの生活、芽生えたはずの友情、そして別離。なぜ、心優しいあの少女はここまで酷く死ななければならなかったのか?些細なきっかけで醜悪な貧困ビジネスへ巻き込まれ、運命を歪められた少女たちの友情と抗いを描く衝撃作。

これまたレベルの高い作品を連発する作家さん。

「壮絶なリンチの果てに殺害」な冒頭から、どれだけバイオレンスな内容なんだろうと思っていたらとんでもない。貧困に喘ぐ子供達のそれぞれの運命を描いていく。

貧困に至った過程はそれぞれ違っていたとしても、陥った境遇は同じ。そして同じ境遇でもちょっとしたきっかけで運命が変わっていく二人。近くに位置し、時には交わりながら、次第に平行して進む二人の運命に、残酷かもしれないけれどどうか交わりませんようにと祈りながらページをめくる。

本人の努力とか能力とかそういうものではなく、たまたま知り合った大人の及ぼす影響がすごく大きいことを思い知らされる。

第3位 「希望が死んだ夜に」 天祢涼

神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生・冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたが、その動機は一切語らない。何故、のぞみは殺されたのか?二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がって―。現代社会が抱える闇を描いた、社会派青春ミステリー。

奇しくも、4位の少女葬と同様に貧困に関わる作品が並んでしまったが、本作はミステリー要素が強め。最初の数ページから物語に引き込まれどんどんのめり込んでしまった。徐々に明らかになる真実と後半一気に加速する展開に心を抉られる。

同級生殺害容疑で逮捕された、経済的に余裕のない家庭に暮らす14歳の女の子と、三階建ての大きな家に住みフルートをやっている被害者の同級生。挨拶くらいはするだろうが、仲が良いこともなく逆に悪くなるほどの関係もなかった。動機どころか接点もない。

子供にも世界と社会があって、それに寄り添う大人も向かい合う大人も関わらない大人もいるけれど、大人が大人の目線と思い込みと美化した経験則で接している限り、子供には伝わらないし心も開いてくれない。「あんたたちにはわかんない。なにがわかんないのかも、わかんない」

どんな過酷な状況でも努力すれば道は開けるというが、果たして。

第2位 「あの日、君は何をした」 まさきとしか

北関東の前林市で暮らす主婦の水野いづみ。平凡ながら幸せな彼女の生活は、息子の大樹が連続殺人事件の容疑者に間違われて事故死したことによって、一変する。大樹が深夜に家を抜け出し、自転車に乗っていたのはなぜなのか。十五年後、新宿区で若い女性が殺害され、重要参考人である不倫相手の百井辰彦が行方不明に。無関心な妻の野々子に苛立ちながら、母親の智恵は必死で辰彦を捜し出そうとする。捜査に当たる刑事の三ツ矢は、無関係に見える二つの事件をつなぐ鍵を掴み、衝撃の真実が明らかになる。家族が抱える闇と愛の極致を描く、傑作長編ミステリ。

連続殺人の容疑者が警察署から脱走。深夜、家を抜け出した中学三年生の大樹が職務質問されそうになって自転車で逃走し事故死した第一部。第二部はその十五年後の殺人事件。話題には出るものの関連性が全然わからない第一部の事故がどう交わるかと思いきや、とんでもない角度で絡み合ってくる。

不自然なまでに無関心な重要参考人の妻と、肝心の重要参考人が失踪しているがためになかなか進まない捜査がが故にストーリー展開はゆっくりだけれど、暴走する母親が良いアクセントになってどんどん読んでしまう。そして最後に判明する真実が、まさか一部と二部がそんな角度で交わっていたのかと。

ここまででも充分に面白い小説だが真骨頂はここから。最後の7ページの衝撃たるや、もう。

第1位 「ホワイトラビット」 伊坂幸太郎

兎田孝則は焦っていた。新妻が誘拐され、今にも殺されそうで、だから銃を持った。母子は怯えていた。眼前に銃を突き付けられ、自由を奪われ、さらに家族には秘密があった。連鎖は止まらない。ある男は夜空のオリオン座の神秘を語り、警察は特殊部隊SITを突入させる。軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」は加速する。誰も知らない結末に向けて。驚きとスリルに満ちた、伊坂マジックの最先端!

拳銃を持った男、押し入った家の母親と息子、そして父親らしき人。拳銃男が探していた男はこの家には見当たらなかった。取り囲む警察。迫るタイムリミット。

登場人物のキャラが絶妙に濃く、シリアスなのにどことなくコメディ感が溢れるのは、作中でも執拗に触れられているレ・ミゼラブルのように作者が出てきて説明したり場面転換をしているからか。きっと他にもいろんなオマージュが散りばめられているのだろう。(未読のため判別つかず)

さぁこの喜劇はどんな結末を迎えるのだろうとのんびり構えていたところに現れた1枚の紙切れで全てがひっくり返る。理解が追いつかないが、ページをめくる手も止まらない。まさに伊坂マジック。

最後に

思いっきり外出することも憚られるこのご時世、小説は場所を問わずに気分転換・現実逃避ができるコンテンツです。小説、面白いよ!



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