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『スクリーンが待っている』 西川 美和  #君羅文庫

西川美和監督の『永い言い訳』という映画がありまして、大好きな深津絵里さんが出演するということで見たんです。

この映画では、深津さんの表情だけでさまざまなことを語る演技に魅了されたのは言うまでもないのですが、それ以上に主人公の本木雅弘さん演じる衣笠幸夫が見せるいろんな人間性に引き込まれました。

あれっこの人間くささを見る感覚どこかで感じたことあるぞ?と思っていたんですが、この『スクリーンが待っている』を読んでいて思い出しました。是枝監督の『ワンダフルライフ』という映画です。高校生の時付き合っていた彼女のおねいちゃんに勧められて見た映画です。これいいよ、と。本当にすんごくよかった。なんだか映画という感じじゃなくて、”人間”がスクリーンに映し出されているだけのような、あれっ?これ映画だよな?と何回も感じるような不思議な作品。

西川監督は『ワンダフルライフ』にスタッフとして参加していたそうで、是枝監督を"師匠”と呼んでいます。今も同じ分福という会社に所属していて、本の中でも是枝監督が何度も登場します。
師匠の是枝監督の映画を見て感じた「人間くささ」を西川監督の映画からも感じたんですね〜『永い言い訳』良い映画です。映画では惜しくも削られちゃっているけれどもすんごく良い表現がたくさんの原作もぜひ読んでみてください!

さて、『永い言い訳』も含めて、西川監督は自身が書いたオリジナル原作を元に5本の長編映画を作ってきました。『スクリーンが待っている』は、”5人の子供“を育てた末に西川監督が“恋”をした佐木隆三さんの『身分帳』を元にして作った映画『すばらしき世界』が出来上がるまでの5年間を綴ったエッセイです。

原作小説の背景を丹念に取材した様子や長年一緒に映画の仕事をしてきたスタッフを入れ替えたことなどが書かれていて、まさに映画の舞台裏を知ることができます。

役所広司さんと西川監督の"因縁"も良いんですよね〜

実在の連続殺人鬼を演じたテレビドラマでの役所さんの演技を観たことで、人間の複雑さを感じ、涙し、「人間のわからなさ」を何かによって描いていく生き方になる気がしたと西川監督は綴っています。

ずーっとオファーをしたかった憧れの役所さんに、今作で出演してもらえた喜びと、そしてやっぱり役所広司はすごいんだぞってこともたっぷり書かれています。ひとつまみの明るさを変えて、監督が自分で知り得なかった演出の着地点を知らしめる演技って!どんだけすごいんや!まさに「俳優部」というプロの仕事なんでしょう。

西川監督の人生を方向付けたテレビドラマでの役所広司さん演じる連続殺人鬼・西口彰。西口が起こした事件を題材にした小説『復讐するは我にあり』を書いているのは、今回の映画の原作『身分帳』を書いた佐木隆三なんですね。

カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した役所広司さん主演の『うなぎ』を手がけた今村昌平監督は、映画版『復讐するは我にあり』の監督も務めました。ここにも"因縁"を感じますね〜


西川監督に関わる人物たちの描写も魅力的で、特に、前作『永い言い訳』で主演した"別れた女房"本木雅弘さんからの、役所さんが主演決定した際に届いた"ネチネチ"コメントが可愛らしかったし、今作で重要な役柄を務める"妖怪"仲野太賀さんと西川監督の出会いも素敵だなぁと感じました。

まさにスクリーンが待っている!と思わせてくれるエッセイ。『すばらしき世界』を観た人もまだの人も読んでみてはいかがでしょうか?大きなスクリーンを前にして、西川監督の描く"人間たち"を見たくなると思いますよ。


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