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2022年 君羅文庫 50選

今年も君羅文庫ではたくさんの本を紹介してきました。先日は【2022年 #君羅文庫 10選】と題して印象に残った10冊を選んで発表しました。

このツイートでは紹介しきれなかった本たちも含めて「2022年 君羅文庫 50選」として、twitterの君羅文庫に載せた感想文や君羅文庫note記事とともに紹介していきます!

50選と言いつつ、50冊を少しはみ出してます!ご愛嬌!

1.『献灯使』 多和田 葉子 / 講談社

鎖国状態の日本で虚弱な子どもと彼らをケアする屈強で死ねなくなった老人の物語。ディストピア小説だが、108歳の曽祖父義郎と曾孫の無名の生き方は、今の時代に生きにくさを感じる人をエンパワーする力も持っていて「ケアとしての文学」の前向きさと明るさも感じた。多和田葉子さんの言葉もとても魅力的。小川公代さんも『ケアの倫理とエンパワメント』で書かれていたが、「言葉の物質性」を存分に生かして、従来の規範から自由になった言葉たちが、まるで魔法をかけられたように駆け巡る世界観。それに加えて今の私たちの生活の中の意識していない矛盾にハッと気付かせてくれるような登場人物たちの問いかけの数々。この小説からディストピアとしての絶望感をあまり感じなかったのは、今まで出会ったことのない言葉たちの支えがあったからかもしれない。
少子化と老化メカニズムの研究が進む現代において考えるべきことが書かれた、読むべき一冊だと思います!


2.『ナナメの夕暮れ』 若林 正恭 / 文藝春秋

とても良かった。 他者の否定による自己肯定という負のループからから抜け出すために肯定ノートをつけ始め、自分を、他者を肯定してゆく。自分に目を向けて見つけた没頭でネガティブを乗り越える。ナナメを殺して世界を肯定していく若林さんの姿がとても愛おしい!


3.『火花』 又吉 直樹 / 文藝春秋

又吉さんのエッセイが好きでよく読みますが、小説はこちらが初めて。 よかった。 スパークスの漫才を見て客席の一番後ろで泣く神谷さんの涙に泣いた。 そしてこの感動で終わらせないところがまたいいなと。 また読もう。


4.『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』 ブレイディ みかこ / 文藝春秋

エンパシーは他者に共感しろとは迫らない。他者を他者として捉え、その人の立場だったらどうだろうかと考える想像力。「今とは違う状況」を考え出すためのスキル。エンパシーが導くオルタナティヴを知ることで目の前の世界に閉じることなく生きることができる。


5.『他者と生きる リスク・病い・死をめぐる人類学』 磯野 真穂 / 集英社

統計学的人間観に従ってリスク管理をするのではなく、未来に向かって飛び、他者と共に在る中で時間を作り出し生きていると実感できたなら、統計学的時間で測られた"長い"時間でなくとも、その人生は厚く、深く、長い。 とても良い。とても考えさせられた。
自身の生活を振り返ると、客観的な正しさに身を委ねて、日常を予測可能な範囲に留めてしまっているな。まだ来ぬ未来へ依拠する愛と信頼に基づく選択は、今ある関係性からは想像できなかった自他の生成が待っているかもしれないのだから、他者との関係性を持とう!頭を上げよう!手を挙げよう!
「私」の境界はどこか?もすごく考えさせられた。 身体の概念を持たず、「人」が関係性の中で存在すると捉えられているネラメシア社会。 皮膚を境に自己が途切れるのではなく、むしろ自己は共有されているアフリカのバカ・ピグミー。
自分だけで生きているとは思っていなかったが、所与としての人があることは無意識に考えていたと思う。他者との関係性の中で生成される自分という存在について考えた。


6.『ぼくはイエローで、ホワイトでちょっとブルー』 ブレイディ みかこ / 新潮社

「エンパシー」に焦点を当てた『他者の靴を履く』読了後に読んだ本。息子くんのエンパシーに大いに着目し、そして関心、感動しながら読み進めた。 困難にぶち当たり悩みながらも意外と軽やかに乗り越えていく子どもたちから勇気をもらう。
自分の解釈を押し付けずに他者を他者として知ろうとする。その人のことを想像し、自分にできることを実行してみる。息子くんのエンパシーの在り方から多くを学ぶ。 心の揺らぎや迷い、怒りを家族の対話の中で言語化していく過程も素敵で大切だなと強く感じた。 家族ともっと話そうと思う。


7.『アレクシエーヴィチとの対話』 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ, 鎌倉 英也, 徐 京植, 沼野 恭子 / 岩波書店

「私にとっては、数字や規模などで表される事件事故よりも、人の心がたどる道筋の方がはるかに重要なのです。」

偉大な出来事や英雄的行為だけが語られる「大きな歴史」ではなく、「小さき人々」の声を聞き続けた「耳の作家」アレクシエーヴィチの言葉に今こそ耳を傾ける時だ。
アフガニスタン戦争にて、数百の亜鉛の棺を前にした将校がこらえきれずにアレクシエーヴィチに向かって言った「私の棺桶だってあそこに並ぶかもしれない。あそこに入れられて…私はここでいったい何のために戦っているんだ」はまさに英雄ではない「小さな人」としての言葉だろう。
これを抱えながら戦地で戦う人々が少なくない人数いるだろうと思うと心が痛い。そして、本当に思っていることは口には出せないと思うと余計に…
徴兵された軍隊で暴力を受ける彼の脱走手引きをして助けた恋人が個人として語る言葉 「チェチェンに行って戦うことに何の意味があるんでしょうか?政府にとっては必要なのかもしれませんが、ロシア人にとってはまったく無意味です。私はそう思います。」
ロシア政府が行うことに意味を見出していない「小さい人々の声があるだろうことを教えてくれる。


8.『ケアの倫理とエンパワメント』 小川 公代 / 講談社

ケアの視点で文学を読むと、弱者の物語から横臥者や精神的苦痛を強いられる人々の視点が得られる。 この視点からの思考が社会の現状を変える原動力となる。 知らない用語が多かったので勉強しつつ、登場する作品をこれから読んでいきたい。 とても面白かった。


9.『コンビニ人間』 村田 沙耶香 / 文藝春秋

"異物"を排除しようとする"正常"な世界で「普通圧力」に晒される生き難さ。 マニュアルの外で普通になるためのもがきを捨てて、透明なガラスの箱の中に意味のある生き物としての自分の存在を主人公が見つけたことに感動した。


10.『小僧の神様・城の崎にて』 志賀直哉 / 新潮社

生きている事と死んで了っている事と、それは両極ではなかった。

悪戯をされ、死ぬに極った運命に抗いながら一生懸命に逃げる鼠。玄関の屋根で死んで了った蜂とその傍を忙しく立働く蜂。自分の投げた石で偶然に死んでしまったイモリと、偶然死ななかった自分。生きていることに感謝しなければならないが、生きている喜びはさほど感じられない。普段意識しないことに意識を向けてみる瞬間に感じ得ること。わずか8ページちょっとの文章だが、美しく、深い透察へと誘う文章に引き込まれる。大好き。



11.『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』 國分 功一郎 / 講談社

自由とは自発性のことではない。 我々は何かを理解するプロセスにおいて自身の認識する「力」を認識する。自らの行為において自分の力を表現できているとき能動的であり、自由であると言える。
自分が受け取れる刺激の幅を広げてくれるものは何か?自分が何をしているときに楽しいと感じるのか?自分のコナトゥスをうまく働かせ、活動能力を増大させる組み合わせを実験によって見つけながら生きているとき自由である。
僕にとっては、やはり学びがこれまでの世界を違ったものに見せてくれる、まさに刺激の幅を広げてくれるもの。強制されることなく学び、他者に証明することはできない自身の変容を経て真理に到達する。近代科学OSでは走らせることのできなスピノザ哲学を知ることでもっと自由になれる。


12.『責任の生成 中動態と当事者研究』 國分 功一郎, 熊谷 晋一郎 / 新曜社

無意識のうちに「中動態」をポジティブなものとして捉えていたが、これは能動/受動の対立だけで思考してしまうことを対照化するためのカテゴリーであって、中動態が救いではない。現にアフォーダンスの洪水の中に身を置くことは「辛いこと」でもある。
ランボーのようなあるいはOECDのキーコンピテンシーを達成した人間のような過去の傷をどんどんと切り離す切断が得意な人には「責任」は生じないのではないか。過去と丁寧に向き合い、中動態的な世界へと移行する中で「責任」があらわれる。中動態と当事者研究から立ち上がる数々の議論は、自分自身や日々の生活についてたくさん考えさせてくれる。そして『中動態の世界』『暇と退屈の倫理学』『はじめてのスピノザ』と読み進めてきた國分さんの著書の解釈が本書にてぐんぐん進む。


13.『薬の現象学 存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点』 青島 周一(著), 野家 啓一(監修) / 丸善出版

薬理作用だけでない、その人の生活の中にある薬を飲んだ先の多様なアウトカムに影響を与えるものを考えることで「薬の効果」という現象を救おうとする哲学的思索
薬と人の関わりを丁寧に考える青島さんの思考に触れて人の生活にとっての薬や医療の持つ意味を考える
國分さんの言葉が数々登場するのも良かった!
「薬を飲む」を能動/受動の対立のみで語ることで過去を切断させ患者に意志を持たせようとする。
中動態のフレームワークで臨床にまつわる言葉を捉え直すことで患者の想いや生活の豊かさを考えられるようになるのではないか。
この中動態について語られる7章が学校給食の目的から考え始めているところも興味深いです。
本書の中では、「薬」や「医療」を「食品」「食事」「栄養」と置き換えたり、対比させたりして考えている箇所がいくつもり登場します。ここからもたくさん考えさせられました。科学理論とクオリアのギャップに注意を向け、そこで言葉にされていない現象を救うことは管理栄養士にも求められることだとも思いますし、我々食品学・食品機能学に関する研究者にとってももちろん必要なことだなと思います。


14.『これからの仕事になぜ哲学が必要なのか』 岡本 裕一郎 / 株式会社アルク

「ちゃぶ台返し」としての哲学の必要性。従来からの考え方や発想を前にして現れる問いに対して、一貫性のない揺らぐスタイルで多面的に物事を捉えられるようにすることで、前提を問い直し、常識を解体することにつながる。


15.『シーシュポスの神話』 カミュ / 新潮社

反抗が世を価値あるものたらしめる

世界は理性的と捉えるから「不条理」を嘆く
「現実の非人間性」が日々に意識的になり、挑戦することを可能にさせるのだと捉えてみる。世界の「不条理」を受け入れ人生に意味を見い出そうと今日も反抗するとしますか!


16.『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』 斎藤 環 / 医学書院

「他者の他者性」の尊重。 客観的な事実、正しさを求めず行う対話。 水平方向のポリフォニーがもたらす当事者が自発的にふるまえる空間。 沈黙で活性化する垂直方向の内なる対話。あぁオープンダイアローグ良いなぁ!


17.『発達障害当事者研究 : ゆっくりていねいにつながりたい』 熊谷 晋一郎(著), 綾屋 紗月(著) / 医学書院

〈したい性〉が立ち上がらない、迫り来るアフォーダンス、「行動のまとめ上げ」の困難など、当事者としての体験が的確に言語化され、外部からは見ることのできない個別的世界を知る。
脳の多様性を知り、人々が多様なままつながれるように想像力を働かせたい。


18.『みんな水の中』 横道 誠 / 医学書院

多数派のためにデザインされた環境のお陰で僕は生きにくさをあまり感じずに能力を発揮できるのだなと痛感する。
「脳の多様性」を考えることで、健常者VS障害者のような二項対立ではない、環境との摩擦に苦しむ多くの人が楽に呼吸することができるようになる社会へ!


19.『誤作動する脳』 樋口 直美 / 医学書院

「「私は、人が見えます」と他人に言えば、「私は、人を殺しました」と同じ反応を引き起こすだろう」 幻視を知られることで人生が終わると感じ誰にも病気のことを言えなかった樋口さんの苦しみを知る 脳の多様性を多くの人が受け入れる社会の必要性。
「教えを請う人」としてのディレクターKさんの態度が樋口さんを“怪物”から人間に戻すきっかけとなったところ良かった。自身の病気の体験を語り、人の役に立つと分かった時に自分で作り上げていた孤独から解放される。 必死で隠してきた病気の体験は、人の役に立つ樋口さんの利点に生まれ変わった。
レビー小体型認知症の症状から料理することが難しくなってしまった樋口さんを救った土井善晴さんの言葉も良かったなぁ。 「味噌汁は、濃くてもおいしい。薄くてもおいしい」 料理はもっと自由でいいかげんでいい。台所に笑顔を


20.『変身』 フランツ・カフカ(著), 川島 隆(翻訳) / KADOKAWA

体中のいたるところが痛み、左肩などは自分の思うようには動かせない自分と"虫けら"になったグレゴールとを重ねて読む。
グレゴールを包囲する家族全員がピリピリとした空気に包まれている状況は、認知症の祖母に対峙していた当時の我が家の状況とピタリ一致する。

『変身』を読むきっかけは『文學界』での頭木弘樹さんたちの鼎談を読んで。身体的な痛みに照準して「当事者批評」的に文学を読む楽しさを味わってみたいなと思い立ってのことです。あぁ自分の体なのに動かせなくなることあるなぁと共感しながら、大変おもしろく読むことできました。


21.『認知症世界の歩き方』 筧 裕介 / ライツ社

認知症だったうちのばあちゃんが生きていた世界を知ることできたなぁ。
原因があるのだから理解して対応しろと迫るのではなく、当事者の視点を知って対応を工夫できるように導いてくれるデザインも素晴らしい。
想像力を段違いにパワーアップさせてくれる本!



22.『急に具合が悪くなる』 宮野真生子, 磯野真穂 / 晶文社

偶然を受け止め、選ぶことで自分を見つける。 宮野さんと磯野さんが出会い、「共に踏み跡を刻んで生きる覚悟」を持って向き合い、今を言葉にしていくことで新しい始まりに満ちた世界が開かれていく。 人生を賭けた往復書簡を読むことで世界が違って見えてくる。
本書を読み進めていくということが、宮野さんの死が近づいていることも意味していると考えると、死の手ざわりを感じながら、生き方を考えさせられる緊張感のある読書であった。



23.『かもめ・ワーニャ伯父さん』 チェーホフ(著), 神西 清(翻訳) / KADOKAWA

「でも仕方がないわ、生きていかねば!」
ソーニャのこの言葉に尽きる。
若さも失い、恋も実らず、死ぬこともできない。それでも生きていく。耐え忍びながら生きることの肯定、生活すること自体が悲劇とも捉えることのできる両義性。


24.『女のいない男たち』 村上 春樹 / 文藝春秋

『女のいない男たち』 映画原作の『ドライブ・マイ・カー』 亡くなった妻と不倫をしていた男をこらしめてやろうと考えるも結局は何もせず 「そして僕らはみんな演技する」 自己のケアを不完全にする"演技"をしながら生きていく。 家福はワーニャ伯父だし、みさきはソーニャだ。


25.『私は男でフェミニストです』 チェ・スンボム(著), 金 みんじょん(翻訳) / 世界思想社

「男だからよくわからないんです、学ばないと」

自分とは無関係だと思って学ばないでいることは、苦しい立場の人々の声から耳を遠ざけることになる。
「その人の事情も知らず適当なことを言う人」にならないために


26.『そして、バトンは渡された』 瀬尾 まいこ / 文藝春秋

梨花さんと2人で食べたハンバーグ、励ましのおびただしい量の餃子、優子ちゃんの人生には美味しい料理がたくさんだ!
35歳で突然、でも覚悟を持って父親になった森宮さんの言葉にも心動かされたなぁ
「親になるって未来が二倍以上になることだよって」


27.『劇場』 又吉 直樹 / 新潮社

沙希は徹底して甘かった。僕はおびえることなく奔放になり、気ままに振る舞った。自分の存在を受け入れられていることによりかかっていた

自分を変えない覚悟で生きる永田と、それを優しく受け入れ、壊れていく沙希
まぶたを閉じていても相手のことが見えていると思ってた。
高校時代を過ごした渋谷・下北沢が舞台の物語に心揺さぶられる。 『東京百景』と『第2図書係補佐』で書かれている又吉さんの人生の一部でもありますね。


28.『草枕』 夏目 漱石 / 新潮社

余の羊羹愛が溢出するとこ好きです。

余は凡ての菓子のうちで尤も羊羹が好だ…あの肌合いが滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の芸術品だ。ことに青味を帯びた煉上げ方は、玉と蠟石の雑種の様で、甚だ見て心持ちがいい"


29.『あなたは、誰かの大切な人』 原田 マハ / 講談社

自分のことを大切に思ってくれている人は絶対にいる。それは家族か、友人か、または自分自身かもしれない。"大切な人"と繋がる時間を大事にしたいと思う。
ミフリマースルタンジャーミィやルイスバラガン邸など美しい建築物が話の要所で登場するのも素敵だ。


30.『リーチ先生』 原田 マハ / 集英社

陶芸家バーナード・リーチの助手亀之助の視点を通してリーチ先生の人柄とその人生を知る。架空の人物である"カメちゃん"だが、その存在があってこそリーチ先生も柳宗悦も濱田庄司も身近な存在として感じられ、民藝の100年を知ることもできる。

「好いものは、好い」


31.『旅屋おかえり』 原田 マハ / 集英社

朝の東上線で溢れる涙を表面張力で目にへばりつけていたのは僕です。
旅人“おかえり“の誰かのために行く、でも自分が楽しもうとする旅が、人と人の関係を温めて溶かし柔らかくくっつけてくれる。涙あふれる旅屋物語。めちゃくちゃ良い。


32.『つまらない住宅地のすべての家』 津村記久子 / 双葉社

とある住宅地で暮らす人々が、ある脱獄事件をきっかけにそれぞれの生活の重なり合いを深くしていく。接点の少なかった住民同士が交わることで、住民たちが抱える悩みや世間に対する感情に変化がもたらされる。

ちょっとめんどくさいなと思うことでも、そこに他者との関係性が新たに開かれることでいつもとは違う日常があらわれる。
おもしろかった!



33.『言語学バーリ・トゥード』 川添 愛 / 東京大学出版会

現象としておもしろい言動(ラッシャー木村の「こんばんは」、上島竜兵の「絶対に押すなよ」など)を捉えて、そのおかしさの仕組みを探っていく様子がとにかくおもしろい。
人の頭の中にある「無意識の知識」にアクセスし、その仕組みを検証する言語学のおもしろさに感動しているところに、プロレスや芸能人ネタで笑いを取りに来る文章でぐほっと笑わされてしまい、気づけば最後まで一気に読んでしまっていた。


34.『限りある時間の使い方』 オリバー・バークマン(著), 高橋 璃子(翻訳) / かんき出版

タイトルから「タイパを追求して人生の成功者に!」のような印象だが、内容は真逆。効率や便利さでは忙しさは解決できない。全てを効率的にこなして人生を"何かの準備"に使うのではなく、人生の有限性を認識し、全てをこなそうとする誘惑に打ち勝つことが大切。
Do the next right thing (次にすべきことをしよう)が、自分に与えられた限られた
時間をしっかりと生きるためのスローガンになる。


35.『早期退職時代のサバイバル術』 小林祐児 / 幻冬舎

大人が学んでないよなと常々感じる中で手に取った本。なるほどなと思ったのは、大学も含めて職場内の経験学習が社会人の学びのメインストリームなので、大人(日本人)は学んでいないのではなく、「学びが職場に偏っている」のだということ。
職場環境を通じての学びだけでは自立的にキャリアを作っていくことはできない。
リスキリングや会社の外での学び、キャリア自立ができないことは個人の問題よりも構造の問題。既存の「勝負のルール」に目を向けることで、大人の学びやキャリアの歩み方は変わっていくのかなと思う。

会社は中高年の働き方や仕事ぶりを変えることは難しいと考えているので「変わってほしい」とメッセージを出すだけ出しておいて、いよいよ差し迫ったタイミングで退職勧告などの「最後の手段」が行使されるので、これに対し、〈変化適応力〉という心理的資本を持つことが鍵と説かれている点も良き。


36.『最高のコーチは、教えない。』 吉井理人 / ディスカヴァー・トゥエンティワン

学び続けることは、コーチのもっとも重要な資質の一つだ。言い方を変えれば、学び続けられないコーチは、すぐに指導をやめるべきだ。自説と経験だけに頼るコーチングでは、変化し続ける人間を導くことはできない

教員の資質も同じ。学び多き良き本


37.『自分の頭で考える読書』 荒木 博行 / 日本実業出版社

最短距離で役立てようとするのでない"不真面目な"読書が結果的に役立つことあります!その例として『人類学とは何か』からアニミズムの話が!
早く分かるでなく、モヤモヤを抱えながら新たな問いを抱えることができた自分を祝福する読書を!


38.『20歳の自分に伝えたい 知的生活のすゝめ』 齋藤 孝 / SBクリエイティブ

知の始まりは驚き。驚きとは「日常が揺り動かされる感覚によって盛り上がる」ことなのだから学びとは実に祝祭的である。素晴らしい!
知性への憧れを持ち、想像力を作動させ学ぶことは自分の知らなかった選択肢に出会うことにつながる。




39.『人類学とは何か』 ティム・インゴルド(著), 奥野 克巳(翻訳), 宮崎 幸子(翻訳) / 亜紀書房

薄い本だがティム・インゴルドの思想を受け取れる重厚さがある。我々は他者との関わりの中で人間となるんだな。
あと自分は世界を測ることのできる研究対象として考えていたんだなと感じる。どのように生きるかを他者とともに学び、人間の生を考えていきたい。


40.『現代社会はどこに向かうか』 見田 宗介 / 岩波書店

富によって手に入る幸福ではなく、身近な人たちとの交歓、自然と身体との交感という〈単純な至福〉を享受できる高原としての社会に向かう。
その時大切なのは「幸福とは何か」に真剣に答えようとすること。


41.『悲しみの秘義』 若松 英輔 / 文藝春秋

人生の意味は、生きてみなくては分からない。素朴なことだが、私たちはしばしば、このことを忘れ、頭だけで考え、ときに絶望してはいないだろうか。

佇む足元に答えはなく、道を進み生きることでしか人生の意味を知ることはできない。若松さんの言葉は心を震わす。


42.『考える教室 大人のための哲学入門』 若松 英輔 / NHK出版

早く分かる情報を授けてくれる他者が自分の立つ場所の土台を作ってくれることはない。実際に生きることで生に関わる問題にアプローチする。どのように生きるかを問うことで我々は人間となることができる。自分の頭で長く考えることの大切さ。


43.『サブカル仏教学序説』 三浦 宏文 / ノンブル

仏教がサブカルに与えた影響を捉え、サブカルの中に現代における仏教思想の経典としての可能性を見出す「サブカル仏教学」素晴らしい思索と実践です。
好きな作品が扱ってある章から読んでいくのがオススメですね。恩田すみれファンの僕は第2章から読んでます。
踊る大捜査線という"乗り物"を通して『ギーター』の義務の遂行という倫理思想に出会えました。


44.『ソクラテスの弁明』 プラトン(著),納富 信留(訳) / 光文社

他者よりも多くのことを知っていると考え、"ねむり続けて"しまう人々を目覚めさせる"虻"としてソクラテスが存在する重要性。
「知らない」と自覚することで知らない対象について「知ろう」とする。
煩わしい"虻"をキッカケに自分の頭で考えるようになる。



45.『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』 深井 龍之介 / ダイヤモンド社

歴史を楽しく深く学べるポッドキャスト「コテンラジオ」を運営する株式会社コテン代表の深井龍之介さんの著書。コテンラジオ面白いんですよね〜
この本もコテンラジオで得られる体験と同じように、古典にあたることで、目の前の価値観は絶対的なものではないと気づかせてくれます。
歴史を知ることによるメタ認知=歴史思考で現代をもっと楽に生きることができる。自分を評価するのは1000年くらい様子を見てからにしようというのも良い!
この本を読んだのが「4月5日」。歴史上の奇跡の日にこの本を読めてよかった!


46.『食べるとはどういうことか 世界の見方が変わる三つの質問』 藤原辰史 / 農山漁村文化協会

大学入学共通テストの国語の問題に使用された藤原辰史さんの本📘
深く考えることが案外ない「食べる」について、藤原さんと中高生たちが考え、対話の渦ができていく様子がとても心地よい。
「いままで食べた中で一番おいしかったもの」を答えるのは本当に難しい。


47.『地上の飯 : 皿めぐり航海記』 中村 和恵 / 平凡社

世界に存在するおいしいごはんのにおいに誘われて国境を越えてゆく!こんな風に世界を味わいたい!
今の世界の状況が好転し、いろんな国のおいしい食べ物に出会えるチャンスが訪れることを願いつつ


48.『菌の声を聴け タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案』 渡邉格・麻里子 / ミシマ社

教科書通りの考えでは辿り着けなかった世の中の常識を覆すタルマーリーのパン作り🍞とビール製造🍺
渡邉さんが菌との対話から変化していく自分を受け入れ、発酵の真理に近づいていく様は、主体の体験のプロセスを大切にしていたスピノザ哲学にも通じるのかなとも思う。

>単純な因果関係で正解を出そうとする「科学」を信奉しがちな現代の私たちは、自然の素材一つひとつの潜在能力を最大限引き出すチャンスを、自ら失っているのかもしれない。

『菌の声を聴け』p.77


49.『僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回』 森田 真生 / 集英社

STILLとは、単なる動きの欠如ではない。それは、生命の躍動をたたえた静かさである。

目の前で起きる急激な変化に対応するために、今いるこの場所を精緻に知ろうとする。生命の発する声に耳を傾ける豊かな営み。そんな祝福を僕も感じたい。




50.『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』 レジー / 集英社

「すぐに役立つ」と喧伝された情報に飛びつくことよりも、「無駄だと思われている」「何に役立つかわからない」ことと自分の欲望が合致することに目を向けて、自分の実感に合った自分なりの目の付け所を育てたいと思う。「今すぐ役立つこと」は「すぐに役立たなくなること」だから。


51.『現代思想入門』 千葉 雅也 / 講談社

ファスト教養が持て囃される現代にあって、複雑なことを単純化数ことが知性なのではないかと考えてしまうところだけれども、単純化することで台無しになるリアリティがあること、複雑なことを複雑なまま理解することの大切さを教えてくれることにとても励まされます!今を生きる我々には、現代思想の示すものを極端に考えすぎず、ダブルシステムで考えてみたら良いのではと千葉さんが何度も言っているのが印象的でした。


52.『失敗の本質 : 日本軍の組織論的研究』 戸部 良一 / 中央公論社

曖昧な指示を出すことや適当な目的を掲げることのリスクを存分に感じることができる良書。自分の経験や現場の雰囲気だけで意思決定をすることっが失敗につながることをこれでもかと思い知らされる。これだから日本はダメなんだと結論づけるのではなく、なぜ失敗が起こったのかを教えてくれる知見として有効。こういった知見と哲学を自分の中にインストールして、意思決定の際に有効活用していかないといけないなぁと強く感じる。


52選でしたね。2022年に読了した本として記録したのは「90冊」でした。これらの本を読んだことで自分の中にすぐに変化が起こったり、劇的な成功を収めたりということはないんです。じゃあ読書って役立たないし意味がないのかっていうとそうでもないなぁと感じます。「本を読む価値」というものがあるとすれば、本の中にある情報を知識として得られるということ以上に、自分にはこんなにも知らない価値観や考え方や事実があるんだなと気づけることなのではないかとおもいます。こうやってnoteで読んだ本のことを振り返ると、毎日、毎月、毎年の読書で得られたものが自分の中に積み上がってきているのかなぁと感じることができました。2023年の読書も楽しみです。

みなさんも良い読書ができますように。

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