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2021年ドイツ連邦議会選挙: 加速する政治の世代交代について。

9月26日に投開票された今回の連邦議会選挙は、政治の世代交代の加速化を強く印象付けるものとなった。筆者の仕事場の関係で縁が深いエリアで、ベルリン市中心部のモアビットという地域がある。住人の構成は東欧系やトルコ系の移民比率が高い。連邦議会選挙において、この地域の選挙区は従来多様性重視を掲げてきた社会民主党(SPD)の牙城であったが、今回の選挙では初めて緑の党が制した。

筆者は、この結果に大変に驚いた。なぜならベルリン都市部の移民系の住民層において、政治は伝統的に権利庇護を求める手段として捉えられる傾向が強く、そこに手厚い支援を行うSPD以外の政党に対しては投票インセンティブは低いと認識していたからだ。今回、緑の党の候補者は28歳(女性)で党員歴は6年だが、党内の地区予備選で他のベテラン党員を破り新人の候補者として選出され、30%の得票で本選を制した。

選挙は小選挙区制で行われるので、次点となったSPD候補者、3位の左派党(Linke)候補者、4位のキリスト教民主同盟(CDU)候補者とも落選、その内SPD候補者とCDU候補者だけが比例での復活当選となった。SPD、Linke、CDUの候補者もそれぞれ29歳(女性)、33歳(男性)、37歳(女性)の新人であったが、これは28歳という若手の新人を擁立した緑の党の影響によるものであることは間違いない。

実は、今回の選挙においてドイツ全土で大幅な政治の若返りが進むことは、かなり前から予想はできた。その大きな要因は、気象変動に対する危機感の高まりとそれに呼応した若者を中心としたフライデーズ・フォー・フューチャーの運動だ。アメリカで出現したトランプ政権がパリ協定からの離脱を進めたことも、若者が立ち上がる強い動機付けとなった。

小選挙区の候補者にノミネートされるには、まず選挙区での各党内の予備選を勝ち抜かなければならない。それで初めて党候補者の切符を手にすることができる。したがって、従来は候補者の座を得るにはベテランが有利であった。しかし、今回は各党とも若手が自ら手を挙げ、党内予備選を勝ち抜いて本選に出馬しており、若者の立ち上がるエネルギーが大変に強かったことを表している。

同様に若手新人を擁立したSPDだったが、緑の党の後塵を拝するかたちで従来からの牙城であった選挙区を落とすことになった。SPDもマニュフェストの中では当然気候変動対策をうたっているが、有権者の支持を最も集めたのは、気候変動対策の舵取りを率先して行うことを重点的にコミットした緑の党であった。

SPDも次点に終わったとはいえ22%を得票したので、従来からのコアな支持層はつなぎとめたと言える。しかし、それでも緑の党に8%の差をつけられ牙城を譲り渡したということは、移民系の有権者の中で起きた変動、つまり緑の党が移民系の第2世代以降の若者層からの支持も得たことを示しているといえよう。

今回の選挙で議会第2党に滑り落ちたCDUでは、今後の党運営をめぐり激しい駆け引きが党内で行われている。その中でも最大の軋轢は、世代間の対立であると言われている。青年党員組織から党運営について激しい責任追及を受けていたCDU党幹部は、先日ベテラン議員であるクランプ-カレンバウアー氏とアルトマイアー氏の2人が自身の比例当選議席を辞退し、若手にその2議席を譲ることを発表した。

クランプ-カレンバウアー氏はメルケル首相にCDUを率いる後継候補として引き立てられたが果たせず、今回の選挙では自身の選挙区で落選しその後に比例復活の扱いとなっていた。アルトマイアー氏は、メルケル首相の右腕として長年にわたり主要閣僚を務めていたが、やはり選挙区で落選し比例復活となっていた。この2人が当選を辞退し若手に議席を譲ったこの出来事は、CDUの党内でいかに若手の不満が大きいのかを如実に示すこととなった。

今回の選挙の結果、新政権樹立は、SPD、緑の党、独自民党(FDP)の3党によるアンペル連立の形で成立する見通しだが、緑の党からは党首のベアボック氏(41歳)、FDPからは同じく党首のリンドナー氏(42歳)が主要閣僚として入閣することになるであろう。このように若手が新政権でリーダーシップを発揮することに影響されて、下野することになるCDU内でも、今後の体制再構築の議論の過程において、若手の発言力が確実に高まることになるだろう。

筆者はかねてから、政治の若返りは州議会より連邦議会の方が速く進む可能性を秘めているのではないかと考えていた。地域のしがらみに影響されない連邦レベルの方が、若手が頭角を現す機会が多いと考えるからだ。

 選挙制度の仕組み的には、供託金等のバリアは皆無で長期のマニフェスト選挙が前提であり、したがって、被選挙権行使が十分に担保されており、世襲的な問題も無い。しかしながら、メルケル政権が16年の長期政権を敷く中で、連邦レベルの政治でも人材の流動性が低下していたことは否めない。それが、今回の選挙で一気に若返りを加速させることになった。

議会制民主主義においては政治の新陳代謝が十分におこなわれ、それにより、有権者が投票したいと思う政党と候補者が常に存在していることが肝要であることは論をまたない。万一、有権者にとり投票したい政党や候補者がいない状態が生じたら、その間隙をついて忍び寄るのはポピュリズムであり、歴史がそれを証明している。今回の連邦議会選挙は、世代交代を加速させた選挙として政治史に記録されることになると筆者は想う。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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