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米国カマラ・ハリス副大統領のフランス訪問について。

米国カマラ・ハリス副大統領が11月9日〜11月13日の日程でフランス・パリを訪問し、エリゼ宮でのマクロン大統領との会談、パリ・ピース・フォーラム(主に途上国地域を対象とする行政支援を目的とした国際賢人会議、マクロン氏の肝入りで2018年に創設)及び内戦後のリビアの民主化移行に関する会議に参加した。米国とフランスの間には、フランスが受注していた豪州向け原子力潜水艦配備計画が破棄され米国との間で契約が結び直されるという、いわゆる原潜問題が大きな外交問題として存在しているが、この問題に関しては10月末にローマで行われたG20の場で、バイデン大統領とマクロン大統領の間で既に話し合いが持たれている。

今回のハリス副大統領のパリ訪問について、米国メディアとフランスメディアは、その目的が原潜問題でこじれた二国間関係の修復であると盛んに書き立てた。しかし、ハリス副大統領は日程最終日の記者会見で質問に答える形で、原潜問題は議題に上らなかったと語った。この会見の場で明らかになった注目すべき点としては、米国はトランプ政権下で離脱したイラン核合意に復帰する意向を持っているという発言であり、ヨーロッパ関係国との間で米国の同合意への復帰についての話し合いが進んでいるニュアンスが受け取れた。

それ以外に明らかにされた会談内容は、米国がサイバー・セキュリーティー分野で国際協力の場に加わる意向を示しその分野でのフランスのイニシアティブを支持すること、宇宙分野で米仏両国が地球の気候変動観測を目的としたデータ実用化に向けて協力をしていくことだけで、他に何が話し合われたかは表向きには発表されなかった。しかし筆者は、マクロン大統領の間で米仏間の主要な安全保障事案についてのコンセンサス形成が、主要議題として話し合われたのではないかと考えている。すなわち、対ロシア及び対中国に関する歩調合せを行ったのではないかということだ。

特に、タイミング的にはバイデン大統領と習近平国家主席のリモート形式による米中首脳会談が行われる直前であり、EU主要国であるフランスと足並みを揃えておくことは重要だ。また、ロシアとはウクライナおよびベラルーシをめぐりNATO/EUとの緊張が高まっており、突発的な事態が起きた場合に米国とEUが協調してNATOを軸に対処できる準備が急務だ。公式声明としての発表はなかったが、こうした議題が中心的に話し合われたのではないかと筆者は考える。

実は、同時期のタイミングでパリにドイツ・メルケル首相及びイタリア・ドラギ首相も滞在しており、この2人の首脳とも同様のすり合わせが行われたと見るのが妥当であろう。EU内での重要事項に関する決定権は事実上フランスとドイツの2ヶ国が握っており、したがって今回のハリス副大統領のパリ滞在中にメルケル首相とも安全保障に関して歩調合わせを行ったと考えるのが妥当だ。

また、今年2月にイタリア首相に就任したばかりのドラギ氏はそれ以前に8年間在職したヨーロッパ中央銀行総裁時代にEU内での確固たる地位を築いており、ヨーロッパ内での強い影響力を持つ。したがって、今回のパリ滞在中にハリス副大統領がドラギ氏とも会うことができたのは、米国とEUの絆の強化のためにも大変に有益であったと言える。

フランスは来年4月に大統領選挙が控えているため、マクロン大統領としても今回の時期を逃さずにこうした込み入った安全保障の話を詰めるように腐心したはずだ。また、ドイツ・メルケル首相はロシアからの天然ガス供給問題およびベラルーシ問題でプーチン大統領との電話会談を直前に行ったばかりであり、その内容を受けてロシア問題をハリス副大統領と協議したはずだ。

実は、バイデン氏はヨーロッパで高い人気を誇ったオバマ政権の副大統領であったことから、トランプ政権時代の間もヨーロッパとのつながりを独自に維持し続けた。特に、毎年2月に安全保障を議論する主要な国際会議として西側諸国の首脳が集まり行われるミュンヘン安全保障会議には、米国代表者ペンス副大統領に対抗する形でバイデン氏も同時に参加し、ヨーロッパ側関係者からはバイデン氏がペンス副大統領より大きな喝采で迎えられるという状況であった。

ヨーロッパ側から嫌われたトランプ氏のもとで難しい対応を強いられたペンス氏と直接比較するのは乱暴ではあるが、それを差し引いてもバイデン大統領の名代としてのハリス副大統領は今回の外交デビューを無難にこなし、ヨーロッパ側にも好意的に受け入れられることに成功したと言える。

ヨーロッパはEUだけでも27ヶ国が関与しており、その上で安全保障機構としてNATOをまとめていく必要がある。それゆえ米国からは大統領だけではなく副大統領が実務にあたらなければならない事項が多く、副大統領が人物としてヨーロッパ側に受け入れられるかどうかは米政権にとって重要だ。トランプ政権はEUやNATOとの関係を断つことでこうした米国の負担を丸ごとなくそうとし、ヨーロッパ側と深い亀裂を生んだ。そのトラウマがNATOをめぐり残っているのは紛れもない事実であり、それが悪い方に出たのが今年8月の米軍とNATO軍のアフガニスタン撤退時の失敗だ。

バイデン政権は、当面NATOを軸としたヨーロッパとの安全保障体制の立て直しを急務として取り組んでいくであろう。その中でハリス副大統領がどれだけ関与していくのか、注目していく必要がある。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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