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「定年退職」と「ワクワクの原体験」

父が、定年を迎えた。

「自分の父が60歳になる。」
これは、娘の私にとっては、想像以上にインパクトのあるものだったようで、意外と受け入れるのに時間がかかっている自分がいた。

自分が生まれた時から、「父=働いている人」だった。
その父が、働かなくなるのだ。

そんな父の記念すべき60歳の誕生日に、何をプレゼントするか。
考えた時に思い出したのは、本屋さんで見た一冊の本だった。

その本は、
『いくつになっても、「ずっとやりたかったこと」をやりなさい。』
という本だ。
題名に惹かれてぱらっと立ち読みした時に、定年を迎えた人たちにぴったりの内容だったことを思い出したのだった。

(本で紹介されている内容がとても面白いのだか、そこは今回は割愛させてもらう。ぜひ手にとってみてほしい。)

かなり分厚い本なので、プレゼントとして渡した時にどんな反応をされるのか不安であったが、題名を見た途端、父の表情が明るくなった。

そして、おもむろに父が語り出した。

小さい頃に、お母さんが当時にしてはかなり高級であった、自分で試行錯誤することができる電気のおもちゃを買ってくれて、すごく嬉しかったこと。
高校3年生の時に立ち読みした雑誌に、当時出来立てのパソコンのことが載っていて、「すぐにこれについて勉強したい!」と思い、浪人している場合ではないと思い大学を決めたこと。
会社に入って、試行錯誤の末に作った機械が、思った通りに動いた時の、感動と喜びが今でも忘れられないこと。

語っている時の父の姿は、ちょっと恥ずかしそうだけど、言わずにはいられない、といった感じで、そんな生き生きした表情をした父の姿を、私は久しぶりに見たのだった。

そして、それと同時に、60歳になっても、自分が心惹かれることへの原体験を語れる父が、素直にすごいと感じたのだった。

仕事をする日々がなくなった後、父が日々にやりがいを見出せなくなってしまうことが、私は一番怖かった。
父がどんどん、抜け殻のようになってしまうのではないかと恐れていた。

しかし、自分の原体験を生き生きと語る父の姿を見て、すごく安心した。
自分の原体験を、大事に持てている人は大丈夫だ、と。

そんな父を誇りに思った、記念すべき誕生日であった。

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