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しばらく走ると僕は硬いシートに居心地が悪くなって女の話に相槌打つのも嫌になって眠ったふりをした

つい最近気が付いたのだが、どうやらいま住んでいるところの最寄駅付近に世界的に有名な大手メーカーのオフィス兼研修所があるようで

出勤時間に駅にいくとその方向へと向かう初々しいリクルートスーツを着た社会人達とすれ違う。


あんな大企業に勤められるなんてすごいなあなどと最初は考えていた。


しかしここ数日に至っては、この大企業に入るために勉強しかしてこなかったような顔と体格の男の子数人が、朝から駅で大騒ぎしながら道に広がり

通行の邪魔となってきているのでストレスが溜まる。


なんて邪魔でうるさいのだろうか。


こんな連中が世界の未来の担い手なのか、と。


やれ同期の中で誰がかわいいだ俺は彼女はいるだなど、その見た目からは到底女の子との付き合いなど皆無のような連中だが、やはり大企業勤めともなると気持ちが解放されてしまうのだとうか。



思春期で報われず、女性との付き合いが遅くなればなるほど、その後の人生で考えることは女の子のことばかりになっていく。


例に漏れず、大学デビューの私も基本的には頭の中は趣味か女性のことでいっぱいである。


高校時代にカースト上位にいれば・・・と後悔することが多いが、仮に過去へタイムスリップできたとしてもそれは変わらないだろう。







『このあいだマッチングアプリでマッチした人と電話したんだけどノリノリでね。今度会うことになったんだ』


「そうなんですか。僕とも遊んでくださいよ」


『でもその人と会うのちょっと面倒なんだよね。ノリノリなわりにはすごく自分の容姿とか気にするし』


「男なんてそんなもんですよー」


『そうかな。面倒だなあ会うの』



まるで“なら会わないでくださいよ”と言ってほしいかのように、シロは私にそう投げかけた。


「相手の人おいくつなんですか?」


『47歳』



おっさんじゃねえか。


『なんかね、自分で自分のこと“祖チンですけど頑張ります”って言ってるの。これってきっと祖チンは嘘で絶倫とかなのかなって』


「えー。僕も祖チンだからわかりますけど祖チンは自分で祖チンって言いますよ。祖チンは盛りませんよ」


『いやそんなことないと思う。その人関西に転勤してたんだけど最近関東に帰ってきたんだって。既婚者で小学生の子供2人。関西時代はセフレがいたって言ってるし、多分ヤリまくってるよ』


「47歳で子供小学生ってことは結構遅めのお子さんなんですね」


『そう。奥さんともヤリまくってるって』


「奥さんはいくつなんですか?」


『46歳』


「へー」


『どうしよう。会うのやめようかなあ。私友達募集カテゴリーで相手探してたのになんでそういう性方向になるんだろう』



知らないよ・・・俺が知るわけないでしょう・・・


「そんなもう最初からSEX前提で会うんですか?」


『多分。ノーパンノーブラで来てくださいって言われてるし』




なんとおぞましいのだろうか。


シロはたしかにめちゃくちゃに美人だ。芸能人で言うと稲森いずみに近い。


だが45歳だ。


47歳の性欲おじさんが46歳のカミさんとヤリながらマッチングアプリで知り合った45歳とSEXしようとしている。


そして確実にこのシロは私を嫉妬させようとしている。


「47歳の男性はさすがに無料のおちんちんチャンスなんか無いでしょうからやっぱ必死なんですね」


『そんなことないよ。でもどうしよう。してきていい?』



知らないよ。


この45歳は私と恋愛の駆け引きをしようとしている。


だが私も35歳だ。


46歳の妻を愛する47歳のオッサンに口説かれている45歳が35歳の私を嫉妬させて承認欲求を満たそうとしている。


もはやホラーだ。私も含めてこの登場人物達は皆自分のことを過大評価している。


だがしかし私のような人間にチャンスを与えてくれる女性は、たとえひとまわり以上年上でも希少だ。



「そいつと会うくらいなら僕と会ってくださいよー」


『さすがにドタキャンはできないけど・・・でもそう言ってもらえるの嬉しい。来週会おう』



・・・俺は来週忙しいんだよ。もう。



なんて情けない人生なのだろうか。







富田からのラインがあまりにもうるさい。


以前も書いたが富田は公務員であり、40歳の男性で、他に地方に住む42歳の男性二人を加えて4人のグループラインを形成している。


全て富田の知り合いで富田が勝手に組んだグループだが、その内容はひたすら富田の自分語りだ。これが日に20通以上届く。


挙句なんのリアクションもせずにスルーすると「なんか僕、スベッてるよね。みんなに迷惑かけてごめんね」と不貞腐れてしまうので

たまに「すごいですねー」「羨ましいなー」を入れないといけないから大変である。



40を過ぎると皆そうなってしまうのだろうか。



最近は何かのきっかけでめぞん一刻を読み直したか何かで、私に対し「キミは若いからめぞん一刻なんか知らないだろうね。名作なんだよ」と送ってきた。


これはマウントして語りたいんだろうなと思い、「漫画アプリで全部読みましたよー」と返すと「あのシーンがあれで」とか「あの人がそれで」などとやはり大語りを仕掛けてくる。


「これだけめぞん一刻が好きで、なんなら年上の管理人よりも年下の後輩や教え子からぐいぐいアプローチされることに憧れてきたんだけどね。現実はそうはいかないよ」


そう言って次に送ってきたラインは富田(42歳)と富田のセフレ(52歳)のやりとりのスクリーンショットだった。


「管理人さんと呼びたい」


『いいですよ(絵文字)』


「ごだいさんと呼んでほしい」


『五代さん(ハート)』


「管理人さん、、俺、、、俺、、、、」


『どうしたんですか?五代さん』



エグイ。おぞまし過ぎる。ネタだとしても見るに耐えきれない。



「わあ。羨ましいなあ」



富田は中学時代「女が敵だと思っていて、担任から“その考えは社会不適合だ”と言われたよ。敵意がすごすぎて女の子から怖がられてたんだってさ」と語っていた。


それのなれの果てがこのエセ五代プレイである。なんてことだ。


「キミも同類だよね?キミも女性に対する敵意が剥き出しな感じがするんだ。きっと学生時代もそんな感じだったでしょう?」


「よくわかりますね。そんな感じです」


「自分の経験からなんとなくわかるんだよね」



俺男子校だから敵意も何も女子いねえよ・・・




ここ数年、老後のことを考えてたまに鬱になることがある。


自分はいったいどのような環境で死ぬのだろうか。


そもそも高齢者になるまで生きていられるのだろうかと。



しかしながらこうしてみると、心配しなくてはいけないのは直近の40過ぎの人生だ。


おそらく私もこうなってしまう、となぜか確信している。

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