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『イカゲーム』の大ヒットに見る、エンタメ作品の「世の中ゴト化」過程

こんにちは、モダンエイジで映画マーケを研究している栗原です。

二本目から映画でなく恐縮ですが、SNSを起点に大ヒットしたエンタメ作品ということで、いま世界を席巻している『イカゲーム』が、日本においても社会現象化していった過程をTwitterでのクチコミデータから分析していきたいと思います。

この『イカゲーム』の大ヒットは、「愛の不時着」、「梨泰院クラス」、「トッケビ」など、韓国ドラマのムーブメントに後押しされた側面が大きいのは確かでしょう。

ただそうした市況感だけではなく、映画作品とも共通する、エンタメ作品が「世の中ゴト化」(後ほどご説明します)していくための普遍的な過程があったと考えています。

■『イカゲーム』の口コミ推移

それでは弊社ソーシャルリスニングツールBoom Researchで、Twitter上の『イカゲーム』クチコミ推移を見ていきましょう。Netflixでの配信開始日は、2021/9/17でした。

『イカゲーム』Twitterオーガニッククチコミ数推移 ※Boom Research調べ(サンプリング数)

こちらはリツイートやメンションを抜いた「オーガニック投稿」の推移です。純粋にどれだけの人がTwitter上で『イカゲーム』を自発的につぶやいたかを見るため、オーガニックに絞っています。

意外に思われるかもしれませんが、配信開始前日の9/16には、クチコミ数が合計で約80件と、この時点での『イカゲーム』はあまり注目を浴びていません。しかし配信開始以降、急激にクチコミ数が伸びていき、配信開始翌日9/18には2,200件以上、そこから右肩上がりにクチコミ数が拡大していっています。

そして伸びに伸びたクチコミは10/9には1日に12,000件以上ものオーガニックツイート数を叩きだし、ここで一定のピークを迎えます。

このクチコミの推移を段階に分け、まず配信開始初週あたりから、クチコミが拡散され盛り上がっていく10月前半までを第一フェーズ=「自分ゴト化」⇒「仲間ゴト化」、クチコミが第一のピークを迎え、そこから毎日安定的にクチこまれるようになる10/9~10/10あたりを第二フェーズ=「世の中ゴト化」として、それぞれを見ていきたいと思います(厳密に期間の定義はできませんが、あくまで目安と捉えてください)。

■エンタメ作品がSNS起点に社会現象=「世の中ゴト化」していく過程

具体的に「イカゲーム」の実例を見る前に、簡単にエンタメ作品の「世の中ゴト化」までの過程をご説明したいと思います。

「自分ゴト化」⇒「仲間ゴト化」⇒「世の中ゴト化」の過程

SNSではシェアによってクチコミが拡散していく、というのは当然皆さんご存じのとおりです。ではシェアの原動力になるものは何でしょう。それは「共感」です。

共感し心を動かされたユーザーは、そのコンテンツを「自分ゴト化」し、仲間たちにシェアします。そうして拡散されたコンテンツは、いずれ仲間全体が知っている状態=「仲間ゴト化」へと広がり、そうして熱狂が世間に上手く伝播すると、誰に話してもみんな知っている状態=「世の中ゴト化」へと到達し、社会現象となります。

『イカゲーム』は、こうした「過程」を上手く演出することができていたと考えられます。

■第一フェーズ:『イカゲーム』が「仲間ゴト化」されるまで

前述のとおり、『イカゲーム』の配信前のクチコミ数は、決して多かったとは言えません。ただ配信初日から爆発的にクチコミが伸びています。

これはあくまで仮説なのですが、配信前の注目度を考えると『イカゲーム』の初期鑑賞者は、実はそこまで多くはなかったのではないでしょうか?

ただし鑑賞者のボリュームは多くなかったものの、クチこまれるための「共感」のフックになる要素を数多く持っていた(クチこまれ率が高かった)、これが配信開始から順調にクチコミが伸びていった要因だったのではと考えています。

下記が配信開始から1週間の間で、「イカゲーム」とともにクチこまれていた関連キーワードを一覧化したものです。

『イカゲーム』頻出関連キーワード ※Boom Research調べ

左上から上位となるのですが、やはり最上位に「面白い」が来ているのはさすがですね。 王道デスゲームものを上手くブラッシュアップしたコンテンツ力には感服するしかありません。 当然こうした、いわばエンタメ作品として”本流”のクチコミがあることは大前提ですが、 それ以外にも例えば「カイジ」のクチコミが3番目に来ていたり、順位は少し下がりますが、「神様の言うとおり」「今際の国のアリス」といったフレーズも散見されます。

『イカゲーム』シーズン1を完走した私個人としては、それこそ『カイジ』や『神様の言うとおり』のような王道デスゲームジャンルで、少々既視感があるなあ、なんて思ったのですが、これこそがNetflixの狙いだったのかもしれません。

それがポジティブにせよ、ネガティブな文脈にせよ、『イカゲーム』を観て、「カイジ」っぽいと心が動かされたユーザーは、思わずつぶやきたくなってしまいます。「カイジ」と言えば、原作コミックは2000万部超え、実写映画も20億超えの大ヒットシリーズですから、「カイジっぽい」とのクチコミを目にしたファンは、『イカゲーム』も気にならざるを得ないでしょう。

「可愛い」「かわいい」といったクチコミも目立ちます。主要キャストに向けられたものから、下記のように劇中のセットに対して向けられたものも一定数見られます。

ピンクのモチーフだったり、緑のジャージだったり、ヨンヒ人形だったり…、デスゲームという物騒な題材とはギャップのあるキャッチーな世界観も、クチこまれやすいフックになる要素だったと言えるでしょう。

こうした語られやすい要素を多く兼ねそろえており、「自分ゴト化」されやすかった、そして仲間内に広がって「仲間ゴト化」されやすかった点が、事前の注目度の低さから『イカゲーム』逆転し、配信開始後すぐに大幅にクチコミを伸ばすことができた要因と言えるのではないでしょうか。

■マスメディアが導く「仲間ゴト化」⇒「世の中ゴト化」

そうして伸びていったクチコミがピークに近づく10/10前後のタイミングに何があったのか。それがマスメディアへの露出でした。

『イカゲーム』を紹介するNetflix公式CMが流れ始めたのが10/8、ニュースで『イカゲーム』の大ヒットが取り上げられるようになったのが10/10前後です。(Boom Research、クロスメディアプランナーより)。

実は「世の中ゴト化」はソーシャルメディア単体の力では難易度が高く、マスメディアやPR(パブリシティ)を駆使して行うことが一般的です。

SNS上の仲間内で熱狂を生み出してきた『イカゲーム』が、マスメディアに「お墨付きをもらった」ことによって、世間にその熱狂が周知され、「世の中ゴト化」したコンテンツとなりえた。こうしたSNSでの熱狂からマスメディアの力を借り、「世の中ゴト化」していった例としては、数年前の「カメラを止めるな」や、まだまだ記憶に新しい楽曲「香水」の大ヒットが挙げられます。

最後のダメ押しが、10/31のハロウィンにおける盛り上がりで、JO1を筆頭に『イカゲーム』をテーマにした仮装が数多くバズりました。こうした国民的イベントにおける注目度の高さからも、『イカゲーム』は「世の中ゴト化」した大ヒットコンテンツとして、世の中に不動のポジションを築くことができたと言えるでしょう。


■クチこまれやすさとマスメディアの効果的活用

以上『イカゲーム』の大ヒットをTwitterにおけるクチコミ推移を切り口に分析してみました。『イカゲーム』の「世の中ゴト化」までの過程から、エンタメコンテンツをヒットさせるために学べる大きなトピックスとしては下記です。

①その作品がクチこまれやすい要素を意図的に作り出すこと
(前回記事にした『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』は、とにかくこれを愚直なまでにやっていました)。

②戦略的にマスメディアに取り上げられること。マスのお墨付きを得ること。

②は正直運の要素も絡みますので、まずフォーカスすべきは、SNSでクチコミが広がる特性を理解しつつ、①によって「自分ゴト化」⇒「仲間ゴト化」までさせることでしょう。大前提マスメディアのお墨付きをもらうためには、「仲間ゴト化」まで盛り上がっているコンテンツでなければ難しいからです。

SNSを起点にしているということで、特に販促費の少ない作品こそ上手くいけば爆発力のある方法だと思います。ぜひご参考に!

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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