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JW41 久米部の歌
【神武東征編】EP41 久米部の歌
狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)たち天孫一行と菟田(うだ)の人々の友好を深めるための饗宴(きょうえん)が開かれた。
弟猾ら、菟田の人々が用意した肉と酒で、大宴会をおこなったのである。
このとき、皇軍の兵士たち、すなわち久米部(くめべ)の連中が歌を謡(うた)い始めた。
菟田の 高城(たかぎ)に 鴫羂(しぎわな)張る 我(わ)が待つや 鴫は障(さや)らず いすくはし 鯨(くじら)障り・・・
ここで、菟田の首長、弟猾(おとうかし)が歌の説明を挟んできた。
弟猾(おとうかし)「これは、鴫という鳥を獲ろうとしたら、鯨が獲れてしまった・・・という歌です。鯨となってますが、鷹(たか)のことではないか・・・という説もあるみたいですね。」
サノ「意外性を持たせることで、笑いを誘う宴会歌じゃが、他にも、お祓(はら)いの意味もあるのじゃ。」
弟猾(おとうかし)「さすがは我が君! 不可能なことを口にすれば呪力(じゅりょく)が生まれると考えられていたので、戦(いくさ)の禍々(まがまが)しさを祓う働きがあるんですよ。」
そのとき、歌を謡っている久米部の中央に立つ男が吼えた。
目の周りに入れ墨をした大久米命(おおくめ・のみこと)である。
大久米(おおくめ)「永遠のセンター、大久米様の歌を聞けぇ! 野郎どもっ。行くぜっ!ここで大胆な転調だぁ!」
前妻(こなみ)が 肴(な)乞(こ)はさば 立稜麦(たちそば)の 実の無(な)けくを 幾多(こきし)聶(ひ)ゑね 後妻(うわなり)が 肴乞はさば 斎賢木(いちさかき) 実の多けくを 幾多(こきだ)聶ゑね・・・
ここで、五十手美(いそてみ)(以下、イソ)が歌の解説を始めた。
イソ「久しぶりの登場ゆえ、忘れている読者のために、まず自己紹介から・・・。剣根(つるぎね)の弟の五十手美にござる。」
サノ「古女房がおかずをくれと言ってきたら・・・。若女房がおかずをくれと言ってきたら・・・が、韻(いん)を踏んでいるのじゃな。」
イソ「我が君っ。それは我の台詞にござりまするぞ。」
サノ「す・・・すまぬ。」
イソ「では、改めて続きをば・・・。そして、古女房には、痩せた蕎麦(そば)の木のような中身のないところを、うんと削ってやれ・・・。若女房には、榊(さかき)の実の多いように中身の多いところを、たくさん削ってやれ・・・という意味にござりまする。」
ここで、剣根(つるぎね)が解説者のひな壇に乱入してきた。
剣根(つるぎね)「これはどういう意味じゃ? 嫁いじめ? 自分の奥さんをいじめておるのか? 古い女房と若い女房? 正室と側室? 吾平津媛(あひらつひめ)と興世姫(おきよひめ)?」
サノ「うちの家は関係ないであろう!」
イソ「兄上・・・これは、生命力を得ようとする魂の叫びでして・・・。」
サノ「そうじゃ。年老いた女房は冬の象徴で、若い女房は春を現しておるのじゃ。」
イソ「その通りです。冬と春の対立構造を示し、春が勝利するという普遍性を表現しておるのですな。これによって、我々にも強い生命力が与えられるというわけにござる。」
剣根(つるぎね)「なるほど・・・。では、もう一つ質問して良いか?」
イソ「なんでござる?」
剣根(つるぎね)「歌の途中で『ゑ』という文字が出てきたが、これはどう読むのじゃ?」
イソ「兄上・・・読者のために知らぬフリを・・・。分かりもうした。説明致しましょう。この『ゑ』は『え』と読みまする。こう見えて、ひらがなですぞ。」
剣根(つるぎね)「な・・・なんと、『え』には、『え』だけでなく、『ゑ』もあったということか?」
イソ「昔は厳密に発音が違っていたらしいのですが、徐々に一緒になり、消えて無くなった可哀そうな奴なのです。異国(とつくに)の英語でも、RightとLight、ThinkとSinkなどありまするが、そんな感じですな。」
すると、永遠のセンター、大久米命が再び雄叫びを上げた。
大久米(おおくめ)「さあ、ラストは一気に盛り上がる構成だっ。心して聞きやがれっ!」
ええ しやごしや 此(こ)は いのごふぞ ああ しやごしや 此は 嘲笑(あざわら)ふぞ
イソ「直訳すると・・・ええ、しやごしや! これは、ざまあみろの意味だ。ああ、しやごしや! これは、嘲笑うの意味だ・・・ですぞ。」
弟猾(おとうかし)「ちょっと待ってください! しやごしや・・・の意味は、何なんですか?」
イソ「まあ、悪口・・・的な・・・汚い言葉という感じであろうな。」
サノ「要するに、よく分からんのじゃな?」
イソ「ま・・・まあ、かけ声的な?」
そのとき、永遠のセンター、大久米命がまたしても叫んだ。
大久米(おおくめ)「これが、俺たちのデビューシングル『ラヴ ミー ドゥー』だっ!」
サノ「勝手に題名をつけるなっ!」
イソ「それは、異国のイギリスという国から生まれた、超有名バンドのデビューシングルでは?」
大久米(おおくめ)「固いこと言うなっ。」
サノ「汝(いまし)は、ゆるすぎなのじゃ。」
ここで、プロデューサーの道臣命(みちのおみ・のみこと)が乱入してきた。
道臣(みちのおみ)「この勢いで、デビューアルバムも作るんやじっ。」
サノ「勝手に決めるなっ!」
大久米(おおくめ)「私のことは嫌いになっても、久米部のことは嫌いにならないでっ!」
こうして、宴は盛り上がり、一行は、菟田の人々と友好を深めたのであった。
つづく
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