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JW49 烏が来る

【神武東征編】EP49 烏が来る


八十梟帥(やそたける)の残党を討ち滅ぼすことに成功し、奈良盆地の入り口まで到達した狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

忍坂の本陣

残るは、平地の磐余(いわれ:今の桜井市中部、橿原市東南部)に陣する兄磯城(えしき)の軍勢のみとなった。

まだ戦いは終わっていないが、とりあえず、戦勝祝いの宴を催すこととなった。

サノは大いに喜び、天を振り仰いで大笑いすると、次の歌を謡(うた)った。


今はよ 今はよ ああしやを 今だにも 吾子(あご)よ 今だにも 吾子よ


ここで目の周りに入れ墨をした大久米命(おおくめ・のみこと)が解説を始めた。

大久米(おおくめ)「今はもう 今はもう ああしやを 敵を全滅させたよ 今だけでも 我が軍よ 今だけでも 我が軍よ 敵を全滅できて嬉しい・・・って意味っす。『ああしやを』というのは、笑い声っすね。ワッハッハみたいな・・・。」

そのとき、五十手美(いそてみ)(以下、イソ)も解説に加わってきた。

イソ「久米部の方々が、歌ったあとに、大笑いするようになったのは、このときを起源とするようですぞっ。」

サノ「これも一種の呪術なのじゃ。」

大久米(おおくめ)「こちらもニューアルバムに収録予定の新曲っす。聞いてください。」


夷(えみし)を 一人(ひだり) 百(もも)な人 人は言へども 抵抗(たむかひ)もせず


大久米(おおくめ)「夷敵は一人で百人に当たるほど強いと人は言うが、来目の軍に対しては、抵抗さえしないではないか・・・という意味っす。」

サノ「解説、大儀であった。ちなみに、久米部(くめべ)が勝手に歌っているわけではない。我を中心に、皆で作詞作曲をしておる。」

そこへ、サノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)がやって来た。

タギシ「父上、次は兄磯城(えしき)と戦うわけですが、何か策略を用いられるのですか?」

サノ「汝(いまし)も、久米部らも、戦いに勝って驕(おご)っておらぬようじゃな。これこそ良将の振る舞いじゃ。」

タギシ「もったいなき、お言葉・・・。して、如何なされまするか?」

サノ「うむ。八十梟帥の首領格は、ほとんど滅びたが、まだ残党軍が残っておるし、兄磯城の動きも分からぬ。よって、ここにいるべきではないと思うておる。まずは、陣営の場所を変えるべきであろう。」

タギシ「忍坂から、どこに移動なされまするか?」

サノ「それが『記紀』には、何も書かれておらぬのじゃ。」

タギシ「そ・・・そのような曖昧な情報で、移動すると仰られたのですか?!」

すると、弟猾(おとうかし)がやって来て、台本にはないことをしゃべり始めた。

弟猾(おとうかし)「とりあえず、忍坂には別動隊を残して、本隊は墨坂(すみさか)に近いところまで移動した方がいいんじゃないですかね。」

墨坂へ移動

サノ「なにゆえじゃ?」

弟猾(おとうかし)「まあ、なんと言うか・・・。台本的な?」

サノ「また、台本か!」

タギシ「ところで、父上・・・。当然、戦(いくさ)で決着を付けるわけではありますまい? ほかの策もあるのでは?」

サノ「当たり前じゃ。まずは降伏を勧めるつもりぞ。」

タギシ「じゃっどん、降伏するでしょうか?」

弟猾(おとうかし)「タギシ様、兄磯城は分かりませんが、弟磯城(おとしき)は降伏する可能性が高いですよ。」

タギシ「弟磯城?」

弟猾(おとうかし)「そうです。私たち、菟田(うだ)の人間と同じように、磯城の地も、天孫一行に従おうとする勢力と抗(あらが)おうとする勢力に別れていたみたいで、それを兄と弟で表現したんだと思います。」

タギシ「なるほど。では、弟猾殿も、菟田(うだ)地方の従おうとした勢力の代表者的な人格ということですな?」

弟猾(おとうかし)「そういうことですね。」

イソ「それで、我が君、降伏勧告の使者は誰が?」

サノ「うむ。まずは久米部の者を派遣し、出頭を命じてみよう。それで駄目なら、八咫烏(やたがらす)を派遣して、説得してもらうつもりじゃ。」

それを聞いて、八咫烏(やたがらす。)(以下、三本足)が悲鳴を上げた。

三本足「ええぇぇ!! オラが?!」

サノ「汝(いまし)ならできる!」

三本足「ど・・・どういう根拠で言ってんだ?」

こうして紀元前663年11月7日、まずは兄磯城を召(め)してみたが、命に従う気配がなかったので、予定通り、八咫烏が兄磯城の陣に向かった。

八咫烏が来る

三本足「天神の御子が、おめえを召してっぞ! 率過(いざわ)、率過!」

兄磯城(えしき)「わしが兄磯城だけど・・・。その率過(いざわ)って何だ?」

三本足「さあ、さあ・・・って意味だけんど、昔は、そう言ってたみてえだな。」

兄磯城(えしき)「天圧神(あめおすのかみ)が来たって聞いて、うるさく思ってたところに、烏が嫌な声で鳴くとはな・・・。わしの矢で、死ぬが良いっ。」

そう言うと、兄磯城は矢を放ってきた。

間一髪でよけた三本足は、すぐに飛び去り、次に弟磯城の屋敷へ向かったのであった。

つづく

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