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スカート丈のような、合う合わない

 シガーを吸い始めて少し経った頃、
色々な葉巻を試すうちになんとなく
自分の好みが分かってきた。

 葉巻もワインと同じように、
重めの味と軽めの味がある。

重い葉巻の煙は
肉を焼いたときに出てくるのに似ていて、

軽いものは野菜を蒸したときに出てくる
蒸気のような感じ。

私は基本的に軽めの方が好きで、
葉巻が吸いたいー!ってときは
重めの葉巻を吸うようにしていた。


 今日は何を吸おうかな。

棚から高さ5センチ、
縦横25センチほどのヒュミドールと
呼ばれる木の箱を取り出す。
フタを開けると大小さまざまな葉巻が
20本ほど並んでいた。

 1時間くらいで吸えて、吸った感の
あるちょっと重めのがいいかな。

葉巻に巻かれたリング―――
ブランドのロゴが描かれた紙を見て、
候補のものを取り出す。


ロメオYジュリエッタは
まだ吸ったことがない。
キューバシガーの3大ブランドの1つ。
今ちょうどいいのはNo.1 1600円と
No.2 1400円かな。使っている葉の種類、
太さは同じで、違うのは長さのみ。
No.1は約14センチでNo.2は約13センチだ。

 ブランドごとに味の系統は似ていて、
大きく外れることはない。
1センチ違うだけで、200円の差か…
と思った私は、No.2を吸うことにした。


 あーーー、失敗した、と
一口吸った瞬間に思った。
あんまり好きじゃない系統の味だ。

炭化したハンバーグみたいな味がする。
ハンバーグというか、肉汁がなくなって
まっくろけになった炭状のなにかを
気体にして吸ってるような感じ。

 葉巻は吸い始めの煙は軽く、
後からだんだん濃い味になっていくので
しょっぱなからこれはキツイ。

 最初の1センチくらいは
口が煙に慣れていなくて、
苦く感じる場合がある。
途中から美味しくなることを期待して
最後まで吸い続けたが、
炭の濃さが増しただけだった。

 No.2を吸って以降、
ロメオは私の好みのブランドじゃない
と思って避けるようになった。


しばらくして、
上司に葉巻を吸おうと言われ、
バーに行くことになった。

「どれでも好きなの吸いなよ」

好きなの、と言われても、
バカ高いものをおごらせるのは
品がないしどうしよう…と思いながら
メニューを見ると、
「ロメオYジュリエッタ」の文字があり
苦々しい思い出が蘇ってきた。

 どうせ吸うなら、
自分じゃお金を出さない葉巻にしよう。

 「ロメオのNo.1にします」


No.2のことを考えると、飲み物は
絶対に美味しいものにした方が良い。
黒糖のようなコクのある甘みと香りが
口にしっかりと残る
グレンドロナック12年をロックで注文し
葉巻に恐る恐る口をつける。


 炭の味は全くなかった。
むしろ、新築の家のような
白っぽい木の香りが口の中に広がる。
アロマオイルでよくある香りに近い。

1センチ違うだけでこんなに味が変わるのか。

ウイスキーを飲んでから吸うと、
果実のような甘みがほんのり引き立つ。


No.2を吸ったときの印象は
何かの間違いだったんじゃないかと
思えるほどだった。


それ以降、味の謎を知りたくて
ロメオYジュリエッタを吸いまくった。
結果、大きさによって
自分の好みが別れることが分かった。

No.2より小さな葉巻は重すぎて好みでなく、
No.1より大きな葉巻は軽すぎず、
重すぎず、楽しんで吸える。

 スカートを買うときに、
膝上丈だとちょっと恥ずかしくて、
膝下丈だとしっくりくるのと
似たような感覚。

1回履いただけで
私はスカートが似合わないと思わず、
色々なものを試すのと同じように、

1種類吸っただけでブランドを判断せず
数種類吸ってみた方がいいと
学んだのだった。

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