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7話: 吃音の薬物療法は、どこに向かっているのか?2020年の論文を読んで

おはようございます。ニッチな吃音を専門とする医師の菊池です。

「吃音を治す薬があるのならば、飲みますか?」

という質問が、20年前は究極の質問として扱われていたことを、覚えています。吃音のある小学生に聞いて「僕は飲まない」「僕は飲む」の議論した事例の話も聞いたことがあります。

治せる薬があるならば、飲めばいい

とは思いますが、完全な薬はまだありません。

吃音=言語聴覚士が相談に乗る、というイメージの人はいますが、海外で医師だからこそ、吃音に取り組んでいる人は少ないながらいます。

アメリカのマグワイア医師は、「医師だからこそ吃音者にできることをしよう」と決意し、薬物療法を色々試します。今回読んだ論文は、以下です。

Maguire GA, Nguyen DL, Simonson KC, Kurz TL. The Pharmacologic Treatment of Stuttering and Its Neuropharmacologic Basis. Front Neurosci. 2020 Mar 27;14:158.

無題

1980年代に吃音者には、脳内のドーパミンを減らす薬が効果があることを報告されています。

1990年代後半には、吃音者の脳内にはドーパミンが過剰であることが示されました。

2000年代は、エビデンスの構築に有用なRCT(ランダム化比較試験)を、リスペリドン、オランザピンで行いました。当時、マグワイア医師は自分もオランザピンを服用している、と書いていました。しかし、吃音軽減はする(約30%)が、治せることはなく、副作用で困る人も出てきました。

私の初めての出版「ボクは吃音ドクターです」に、パゴクロンの臨床研究がアメリカで開始されていることを記載していて、その時に結果は知りませんでした。

最近になり、吃音者にパゴクロンを使用したEXPRESS試験の論文を読みました。パゴクロンにより、吃音が平均20%軽減しましたが、8週間後には偽薬のグループと、パゴクロンの薬では差がなかったために、FDAに承認されませんでした。2010年の話です。

それから、ジプラシドン(ドーパミンやセロトニンに作用)、ルラシドン(ドーパミンD2阻害薬)に効果がある発表がありました。

2020年の論文で、エコピパム(ドーパミンD1受容体阻害薬:トゥレット症候群でFDA承認済)が、吃音症の薬物療法として、FDA承認を目指すとしています。

デューテトラベナジン(VMAT2阻害薬:ハンチントン病に効果)にも注目していますが、欠点として、セロトニンも減少させ、うつ病を引き起こすかもしれない、としています。

吃音の薬物療法の研究の論文をたくさん読んで、だいたい20%~40%軽減できる治療法であり、飲めばすぐ根治できる薬はないです。

だからこそ、吃音のあるがまま、受け入れてくれる社会づくりを目指すために、日々吃音の情報を発信していますので、これからもよろしくお願いします。

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