見出し画像

脳の機能障害あるある「本が読めなくなる」は漫画でリハビリした

3年前まだうつ病と診断されたばかりの頃、近所に新しく大きな図書館がオープンした。

5階建てのとても広い図書館で、机や椅子が敢えて整えずバラバラに配置されている。それがただぼーっとするだけでも居ても良いんだよと言ってくれてるような、居心地の良い図書館だった。

そんな新しい図書館は私にとって遊園地のようなものだった。

あれもこれも、読みたい本が一生かかっても読みきれないぐらいある!!
初めてそこに訪れた時、私は心を躍らせながらくまなく全フロアを見てまわった。

そしてずっと気になっていた小説家の本を一冊、何気なく手にして開いたその時。

文字が、

読んだ端からまるでシジミチョウのようにぱやぱやと飛んでいくではないか。

同じところを何度も繰り返し読んだ。
蝶はずっと紙面から生まれ続け、しばらく飛んでぱっと消える。
一文字一文字が羽根のように。

画像1

こんなイメージ。
全く頭に入らない。一行も読むことができない。どの蝶も捕まえられない。

子どもの頃から本が好きで、塾にも通わず本ばかり読んでいた。
私にとって本が読めないこの症状は大きなダメージだった。

その日はあまりの衝撃に何も借りずにとぼとぼと帰ったと思う。
正直あまり覚えていない。
文字の蝶のことと読めない喪失感だけをはっきり覚えている。

打ちのめされた私を救ってくれたのは漫画だった。

私は漫画によって読むことのリハビリを始めた。
幸い新しい図書館は漫画の蔵書も豊富だった。

初めは大判コミックで、なるべく文字や絵柄がぎゅっとしてないもの。
コミックエッセイ系はリハビリ入門にとてもよかった。
今まさに悩んでる方は益田ミリさんの本はどれもオススメ。
シンプルな絵柄と厳選された無駄のないセリフでさっと読めるのにグッときます。

だんだん慣れてきたら次は文庫版のコミックを読み漁った。
特に『まんが道』と『うる星やつら』にはお世話になった。買い揃えたい……。

そうやって少しずつステップを進めて、今はなんとかあまり字が小さくなくて難しい単語も少ない本なら、一、二週間に一冊ぐらいは読めるようになってきた。

あと読み終えることができなくても気にしない、というルールを決めた。
読めない時は鬱の状態なので、読めない自分がとんでもなく馬鹿になってしまった気がして自分を責めてしまいがちになる。

それはもちろん大間違いで、たまたま今の自分にその本が合ってなかっただけなのだ。
いつか読めるようになるかもしれないし、今は気持ちよく読めるものだけを読めばいいと思う。読めなきゃ読めないで一旦読むことは忘れる。

リハビリするまでは随分漫画から離れていたと思う。
もちろん昔から好きだったけれど、大人になってからは漫画を読む暇なんてない、なんて思っていた。

でも通っている精神科の先生、私と同じ病気の方、精神疾患ではなくて脳梗塞の後遺症などで高次脳機能障害のある方の体験談なんかを聞いたり読んだりしていると、「本が読めない」現象を体験している人はかなり多いようだ。

私の場合は蝶になって飛んでいくような不安定な感じ方だったが、薄い膜がかかったように見える人、ブラックアウトして見える人、いろんな見え方があるっぽい。
脳の伝達物質の不足で集中力の欠如が起こることが主な原因らしい。

私が通っている精神科のデイケアの本棚にも少しだけど漫画が置いてある。
本を読むのが難しい方のために置いているのだそう。

ならば私も、多少なりとも描けるなら、今まだ文字が読めなくて辛い思いをしている人のために寄り添う方法として描いてみよう、と。
それで今回は大してうまくもない絵を描いた。

もしくは当事者じゃない人にいろんな症例を少しでも知ってもらうためでもある。
一人でも多くの人が症例について知ってくれるだけで我々当事者がどれだけ助かるか。

というか、世界中の人があらゆる「障害」について精通していたら「障害」という言葉自体必要なくなるのに。

しかし私には扱いきれない話は「それはまた、別のお話」と言ってどこかに置いておくというルールも決めている。
躁の時は「私がなんとかしなきゃ」と異常な使命感に駆られやすいから。

今は私のできる範囲だけ、見える範囲だけ、後から通る人のために細いけもの道を作っておきたい。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?