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クリエイティビティの高い企画|カンヌライオンズ・チタニウムグランプリの歴史(0)

前回に続いて、理想的な企画というものを考えてみる

理想といっても色々なベクトルがあるが、もしもクリエイティビティの高い企画を生み出したいと思うなら「カンヌのチタニウム」を参照することをおすすめしたい。


カンヌのチタニウム

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ここで言うカンヌとは、世界最大級の広告の祭典である「カンヌライオンズ(Cannes Lions International Festival of Creativity)」のことだ。

以前は「カンヌ国際広告祭(Cannes Lions International Advertising Festival)」という名称だったが、2011年に「Advertising」という言葉がなくなり、いまの名称になった。
これは、広告という概念の境界がここ10数年で急速に曖昧になっていることの表れである。

従来カンヌは、テレビCMや新聞広告といったわかりやすい広告(広告と聞いて誰もが思い浮かべるようなもの)のクリエイティビティを表彰する場だった。
しかし2000年代以降、広告という概念自体を拡張するような企画が増えてきた。
「チタニウムライオン」とは、そんなメタクリエイティブな企画を表彰する部門である。


「BMW FILMS」——最初のチタニウム

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チタニウムライオンという賞が初めてカンヌに登場したのは、2003年のこと。事の発端は2001年から2002年にかけてBMWが実施した「BMW FILMS」というキャンペーンである。
これは、世界的に活躍する映画監督や俳優を多数起用してWEB限定のショートムービーを複数制作するという企画で、各ムービーの中ではBMWのクルマがかっこよくカーチェイスを繰り広げる。といってもクルマの性能や新たな機能などBMWが伝えたいことを押し付けるようなものではなく、エンターテイメント作品として成立しており、多くの人が積極的に見たくなるようなムービーになっていた。

広告費には、制作費と媒体費がある。
制作費とは、テレビCMとして流す動画やグラフィック広告として掲載する原稿、あるいはWEBサイトなどの広告コンテンツを制作するためにかかる費用のことだ。そして媒体費とは、それらの広告コンテンツをテレビや新聞といったメディアに掲載するためにかかる費用のことである。

「BMW FILMS」では、本来媒体費にかける費用を大幅に減らし、予算の大部分を制作費に配分することで、人々が積極的に見たくなるようなクオリティの高い映像作品を作った。その結果、キャンペーンは話題になり、多くの人がみずからムービーを見て、BMWのファンになり、クルマが売れたのだ。


具体的には、2001年に2500万ドル(当時のレート換算で30億円程度)という全体予算のうち、1本あたり250万ドル(約3億円)の制作費で、7本のムービーを制作したらしい。
ムービーは4月から12月の8か月間で1400万回視聴され、特設サイトに設置された「友達にメールで知らせるボタン(いまでいうSNSのシェアボタン)」から300万通のメールが送信されたという(※1)。

出典元※1には「7本のムービー」とあるが、実際に制作されたのは5本だった。また別の情報では、1500万ドルで5本制作したとある(※2)。総合すると、1本あたり250万~300万ドル(約3億~3億6000万円)で、1500万ドル(約18億円)前後を制作費に投下したのだろう。

このキャンペーンは翌2002年にも継続され、今度は総予算1200万ドルのうち約660万ドルを投じて3本のショートムービーを制作した(※3)。(前述の※2によると、制作費は3本で1000万ドルという情報もある)
プロモーションの規模としては前年の半分だったにも関わらず、視聴回数は3倍以上となる4800万回を記録し、PR露出も含めるとのべ3億人が「BMW FILMS」の情報に触れたそうだ(※3)。

1stシーズンの全体予算が2500万ドルで、制作費が1500万ドルだとすると、制作費率は60%となる。
電通が発表している『2017年 日本の広告費』によると、2017年のテレビ広告費は1兆9,478億円。そのうち制作費は2,173億円なので、その構成比は約11.2%となる(※4)。
これが現在の日本の平均だと考えると「BMW FILMS」がいかに思いきったことをやったかがわかる。


感覚的には「ブランデッド・エンターテイメント」という概念が広まったのは、この企画がきっかけだったのではなかったかと思う。これは「エンターテイメント作品として通用する広告」というような概念だ。

この革新的な事例を評価するのにふさわしい部門が存在しないということで、2003年、特別に「チタニウムライオン」という賞が授与されることとなった。

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