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理想的な企画

「理想的な企画とはどんなものだろう?」と考えたとき、真っ先に思い浮かぶ事例がある。

それは、とある企画会社の受付の話。

設立して間もない小さな会社にはひっきりなしに来客があるわけではなく、受付のためだけに人を雇うのではコストがかかりすぎる。かといって電話と内線電話の番号表を置いておく無人の受付では愛想がない。
そう考えたその会社の社長は「受付をパン屋にする」というアイデアを思いつく。来客があったときは受付として機能し、それ以外の時間はパン屋として機能する。社員には値引きをして、社食として活用してもらうこともできる。

アイドルタイムを利用して売り上げを稼ぎ、社食としても機能する受付。実に巧みな企画である。
でも、この企画の本当にうまいところはそこじゃない。

それは、自社を紹介するときに「うちの受付はパン屋です」と言える点にある。
たとえば駅から会社までの道のりを説明する場合、普通は「▲▲駅の◆番出口を出て■■通りを進むと右手にパン屋があって、その隣の建物がうちの会社です」なんて言うところを、「……■■通りを進むと右手にパン屋があって、そのパン屋がうちの受付です」と言えるわけだ。
説明された人は思わず「なぜ?」と聞いてしまうだろう。すると冒頭に挙げたようなアイデアやそのアイデアによるメリットが語られる。
複数の課題を同時に解決する鮮やかなソリューション。なんてクリエイティブな会社だろうと、ものの数分で会社のブランディングが完了してしまう。

また、その会社を訪問した際は、パン屋の店員さんにアポがある旨を告げるとお店の裏に通してもらえる。そこにオフィスがあるからだ。その新鮮で少しVIP感のある体験は、その会社に行ってみたいと思わせる行動促進施策としても機能しうる。

企画を生業にする会社だからこそ威力を発揮する仕掛けだが、この広告的な機能こそ「パン屋の受付」という企画がすぐれているポイントだと思う。


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その会社の社長によると、この企画は「受付をどうにかしたい」という課題から出発したらしい。そして、それを解決すると同時にブランディングや福利厚生などの施策も兼ねてしまったのだが、この企画が生まれる経緯としては、「クリエイティブな会社だと思われたい」というブランディングの課題を出発点としていた可能性もありえたわけだ。

ではもし自分がその会社から「クリエイティブな会社だと思われたい」というオリエンを受けていたとしたら、はたして「受付をパン屋にしましょう」と提案できただろうか?
ひるがえって、いま取り組んでいる案件で、「パン屋の受付」に勝るとも劣らない企画を作れているだろうか?

この「パン屋の受付」は、そんな風にして普段ベンチマークにしている事例のひとつだ。

ちなみにこの社長とは、小山薫堂さんのことである。

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