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NZ life|ウーパールーパーがメルトしちゃう

ニュージーランド生活41日目。
天気はれ。気温19度。夏らしい爽やかな天気。

昨日の午後はキッズたちと遊んだ。
どこぞのゲームセンターでポイントと引き換えたらしい、ウーパールーパーのおもちゃを持っていた。どれだけ伸ばしてもちぎれない、魔法みたいなウーパールーパー。素材はわからない。

何かしらの素材でできたウーパールーパーを、芝生に投げたり、手のひらで丸めたり、あるいはおでこにくっつけたりするものだから、たちまち汚れてしまった。

粘着性のある表面が妙にリアルで、指でつっつくと、ペトリと張り付く。それだけの粘着力なので、当然ながら汚れも離さない。

キッズたちは「ウーパールーパーをtake careしなきゃ」と張り切って、水の中に入れ出した。

跳ねる水にキャッキャッと声を上げ、もちもちのウーパールーパーを触ってはうふふしている。キッチンから洗剤まで持ってきた。どうやら汚れてしまった粘着生物を綺麗にしたいらしい。


ウーパールーパーって不思議な存在。名前も不思議だし、見た目も不思議。全てが不思議。まるで「不思議」という言葉を可視化するために生まれてきたような存在。


小さなカップに水を張り、ちゃぷちゃぷとウーパールーパーに水浴びをさせるキッズたち。平和な昼下がりの光景をしばし眺めていると、あることを思い出した。


ねえ、ウーパールーパーって水温が高いと、溶けるよね?


さっきまで「キャッキャッうふふ」していたキッズたちが私の方を見て、目を丸くしたまま凍りついている。重大な秘密を握ってしまったかのように、声をひっそりと抑えて尋ねる。


「メルトするの?マジ?」

「たぶん。水の温度が高いと溶けるって聞いたことがあるよ」


束の間の静寂。
遠くで、ニュージーランドの固有鳥であるトゥイの鳴き声が聞こえた。


あっと思うが早いか、キッズたちは慌てて椅子から飛び上がり、一目散に冷蔵庫に向かう。

「早く早く!」と我先に冷凍庫の引き出しを開け、氷に保冷剤、アイス枕、ありとあらゆる冷たいものを引っ張り出す。

押し合いへし合い、手元からは氷がこぼれ落ち、冷凍庫からは白い冷気が流れ出し、まさに阿鼻叫喚の図で彼女たちは叫んだ。


ウーパールーパーがメルトしちゃう!




テーブルの上にはアイス枕。枕の上に置かれたグラスの周りに、保冷剤がたんまりと積み上げられ、グラスは氷でいっぱいに満たされている。

北極の海よりも寒いに違いないグラスの水に、ピンク色のもちもちとしたウーパールーパーが沈められている。


「情報」とは恐ろしいものだ。さっきまでなかった情報が入った途端に、愛らしい粘着生物は拷問さながらの扱いを受けている。

水温が高いとウーパールーパーが溶ける、という真偽を私はまだ確かめていない。「そんな話を聞いたことがある」と口走ってしまったがために、今まさにピンクのもちもちした生き物は氷責めの刑に処されている。

溶けたら大変、take careしなきゃ!という、正しく間違った愛に基づいて。



ちなみにウーパールーパーの英語名は axolotl というらしい。ウーパールーパーという名前は日本語なんだそう。そんな日本語が存在していいのか?


カタカナである以上、外来語だろうと思い込んでいたけれど、どうも違うらしい。

気になったのでウーパールーパーの名前の由来を調べてみたところ、とても興味深い記事を見つけた。

「ウーパールーパーの名前が気になって仕方ない無限テディベアさんが、日清食品に問い合わせたり、図書館司書の力を借りたりして、名前の真相に辿り着く」というお話。文章力も相まってとてもおもしろい。

問い合わせフォームに始まり、図書館のレファレンスサービスなど様々な人物を巻き込んでいく。


私たちは簡単に情報を手に入れられる時代に生きている。
ネットを使えばすぐにウーパールーパーが溶けることも調べられるし、名前の由来にだって辿り着ける。


でもその裏には「正しい知識や背景を持っている人たち」がいるのであって、情報はあくまで人間から発信されているものだ。

何かを検索したり、本を読んだりするたびに、見えないけれど確かに私たちは「情報」というバトンで繋がっていく。そのバトンを渡したり受け取ったりするからこそ、人は人として存在するのかもしれない。

けれど情報の真偽は簡単にはわからないもので、だからこそ時間をかけて調べていく必要があるわけで。

その情報が正しいのか、あるいは間違っているのかを判断する力。そのスキルを身につけるために、私たちはたくさんのことを経験し、学んでいくのだと思う。

経験は怖い。知らないところに飛び込むのはとても勇気が要る。だからこそ、そうまでして手に入れた情報は、何にも変え難い価値を持つ。

お金を払ってでも手に入れた情報、莫大な時間をかけて得た情報は、私たちをどこかで強くしてくれる。


水温が高いと、ウーパールーパーは溶けるのだろうか?本当に?

本物のウーパールーパーが溶けていくところを想像する。実際にこの目で確かめるのは少し気が引けてしまう。知らないところに飛び込むのは、とても勇気が要ることだから。


ウーパールーパーは不思議な生き物だ。不思議な形をして、不思議な顔をして、不思議な名前を持っている。

不思議を可視化するために生まれた存在。
情報のバトンが届かないつめたい水の底から、私たちのことを見つめている。

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