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NZ life|ソファに座っているソワソワ

ニュージーランド生活36日目。
天気くもり。気温15度。言うまでもなく寒い。

今日はお休み。昨日の夜からソワソワしていた。けれど、ソワソワがうっかり道を間違えてしまったみたいで、シャワーを浴びて帰ってくると、別のソワソワがそこにいて、暗い顔をしてソファに座っていた。

なんだか気持ちが晴れなくて、落ち込んでしまう。心に雨が降っているみたい。土砂降りではないけれど、霧雨のような、肌にまとわりつく雨が。


LINEを開く。溜まっていたメッセージを順に返していく。くだらない会話ばかりする、仲のいい男の子。取るに足らない会話で終わっていたので「なんでかなあ、心が晴れないよ」と付け足す。ちょっと待ってみたけれど、既読はつかない。

友だちリストを上から順に見ていく。今どこで何をしているのかわかる人より、わからない人の方が多い。友だちってなんだろう。


1年半前に連絡を取ったきり、途絶えてしまった懐かしいアイコンを見つける。名前が変わっている。環境が変わったのかもしれない。元気かな、と思って連絡してみる。

久々だねえ!なんて言葉をちらほら交わしているうちに「お話する?」と提案され、電話を繋ぐ。懐かしい声に懐かしい話。懐かしいもので溢れる。


前からずっと彼女に伝えたくて、でも後ろめたくて保留にしていたことを、思い切って伝えてみた。

心に引っかかって絡まっていた不安の糸がするすると解かれたようで、気持ちが晴れやかになる。うまくいくといいね、応援するよ!と背中を押される。


通話を終えると「雨が降っているのなら、晴れ男に任せなさい」とメッセージが届いていた。「きみが元気になるものは何か、ひとつずつ考えてる」の言葉に、思わず笑みがこぼれる。私が元気になるもののひとつに、間違いなく、このひとが入っている。

恵まれているなあ、本当に。安心感を覚えると途端に眠気が襲ってきた。懐かしい人たちの夢を見た。




少し寝不足な気もするけれど、お休みの朝はいつだって気分がいい。晴れやかな気持ちで朝食を済ませる。今日もご飯がおいしい。

洗濯をして、掃除をする。今日は曇り空が続きそうなので、部屋でゆっくり過ごすことに決めた。でもまずは、コーヒーだ。しばらく足を運んでいなかったカフェに行こう。


雨のせいか、朝の空気がしっとりとしている。晴れ間を期待したくなるような曇り空だけれど、湿った朝の匂いはそんなに嫌いじゃない。

通学途中の学生を見かけた。制服は半ズボンで、いかにもニュージーランドって感じがする。こんなにもつめたく朝は潤んでいるのに、現地の人にとったらもう夏なのね、と膝から下で途切れたズボンを見て思う。


カフェはすでにお客さんでいっぱい、というか、おじいちゃんとおばあちゃんたちが集い、テーブルをくっつけては賑やかに談笑している。

フラットホワイトの神様と、ドレッドのお兄ちゃんに「ハーイ」と挨拶する。フラットホワイトください、ラージサイズで。外で待ってるね、と伝える。賑やかなのは嫌いじゃないけれど、飲み込まれそうな程の陽気さに、少し気後れする。


お店の前には犬コロがいた。使い古したクマのぬいぐるみみたいな毛並みをしている。実家の押し入れの奥にしまってある、段ボールに想いを馳せる。

君のご主人はいったい誰なんだい、と話しかけたところで、日本語じゃ伝わんないっかと気づく。全くもって意味不明だよと、犬コロは苦笑いをした。



店内のおじいちゃんおばあちゃんはみんな半袖を着て、サンダルを履き、湿った朝なんて存在しないかのように晴れやかに笑い飛ばしている。

ドレッドのお兄ちゃんも、ダボっとしていてプリントの掠れたTシャツを着ている。いつもは長袖の黒いカットソーを着ているフラットホワイトの神様も、今日着ているのはTシャツだ。

寒いなと思ってきっちり止めていたシャツのボタンを、2つ、開けた。




お待たせ、と神様がフラットホワイトを持ってきてくれる。ハバナイスデイと笑顔で言われたので、ユー トゥー と返す。あなたのいちにちが、素敵なものになりますように、ほんとうに。


空は曇っているし、空気は潤んでいる。昨日の夜、神様も泣いたのかもしれない。みんなが寝静まっている間にちょっとだけ。

分厚く広がる雲の向こうにある太陽を想像して、少しだけ気持ちが軽くなる。

間違って連れてきたソワソワは、目が覚めるともうソファにはいなかった。だいじょうぶ。LINEの友だちリストには晴れ男がいるし、なんて言ったって今日はお休みなのだから。

今日も生きようね。



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