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「旅人を見守るDNA」を受け継ぐ紀伊路の人々(小川雅則/和歌山大学客員教授)

和歌山大学・紀伊半島価値共創基幹の小川雅則客員教授は、田辺市役所や田辺市熊野ツーリズムビューローで勤務してきました。熊野古道における観光振興に長年携わってきた視点から、「今、紀伊路を復興させること」の意義などを語っていただきました。

――これまでの観光行政において、紀伊路はどのような立ち位置にあったのでしょうか?

観光行政としては、中辺路へ全てのエネルギーを集約させていたので、なかなか紀伊路と中辺路の接続までは及んでいませんでした。そのため残念ながら、思い切った観光資源としての活かし方やプロモーションもできていなかったんです。
背景として、紀伊路沿いの自治体の熱量が中辺路ほど大きくなかったのかなと。でも、世界遺産登録20周年をきっかけに機運が盛り上がって、京都の城南宮での出立式に始まり、大阪から紀伊路を歩き通すツアーを県が開催するなど、去年からかなり力を入れていると感じています。

中辺路へ誘客している地域にとっては、お客様の旅の起点はこれまでどうしてもJR紀伊田辺駅になっていました。だから、紀伊路のスタート地点である大阪市の八軒家浜から歩いてみようとする動きは画期的ですよね。

――紀伊路SCAPEを進めているユニストと和歌山大学は、紀伊路の文化や歴史を調べる共同研究を2022年から行ってきました

紀伊路に関しては自治体同士の連携も難しく、行政もなかなか踏み込まなかった中で、民間の視点でユニストが切り込んでいったことには心意気を感じましたし、すごく意義のあることでした。
共同研究をきっかけに、大阪の自治体に向けてアンケート調査をしたのですが、皆さんかなり好感を持って協力していただけそうな姿勢で嬉しかったです。

――ありがとうございます。小川先生とは、2023年1月に出立王子~不寝王子を一緒に歩きましたね

丸2日間、25kmの道のりをご一緒しましたね。2日とも朝早くて、朝焼けの中を歩きました。千里浜など海辺を歩くと気持ちも開放的になって、心が穏やかになると感じました。険しい山の中に入っていく前に海を見れるのは、1つのポイントですよね。
砂浜の上を通る熊野古道というのは、道なき道を進んでいるようで、他に代えがたい道だなと思いました。伊勢路にも同様に砂浜を歩く箇所がありますが、紀伊路では千里浜だけです。

木漏れ日や風を主に感じる山中とはまた違って、街中は色々な変化も多いです。人の生活の匂いもしますし。山中も桜や新緑、紅葉など季節ごとの変化を楽しめますが、紀伊路全体で見ると市街地も加わることで、コントラストが豊かだなと感じます。

歩く旅では食も大事な要素となりますが、特においしかったのは「雀鮨」ですね。海老や鯛、鯖を酢で締めた和歌山の郷土料理です。

――紀伊路を歩く中で、印象的だったことはありますか?

中辺路の山中と違って、街中や集落の中を歩くと、人との出会いがありました。私はやっぱり、旅の重要な要素の1つに、地域に暮らす方との出会いがあると思います。
私たちも「どこまで行くんだい?」とか声をかけてもらいましたよね。
1000年もの歴史を持つこの巡礼道沿いでは、旅人を見守り、支え続けてきた地元の方々のDNAが昔から受け継がれている気がします。

――これから本格始動する紀伊路SCAPEに対して、期待することをぜひ教えてください

今後は、紀伊路を歩き通す価値をどういう人々に伝えて、体験してもらうのかを考えていくことが大切になると思います。
大阪から歩き通すのが王道ではありますが、電車を利用して一区間だけ日帰りで歩くというのも1つの手ですよね。電車が通っていない中辺路と違って、そうした工夫もできるのではないでしょうか。

紀伊路をしっかりと歩いた上で中辺路まで行ってもらう流れができれば、中辺路の価値もさらに高まると思います。長距離を歩きたい欧米豪の方のニーズはたくさんありますので、そこにうまく合致すれば、ポテンシャルは大いにあると信じています。
「紀伊路を盛り上げよう」と自治体を巻き込もうとする紀伊路SCAPEの皆さんの姿勢には大いに賛同していますし、改めて敬意を表したいです。

このままでは、紀伊路は忘れ去られた道になりかねないです
だからこそ、次の1000年にも引き継いでいけるように、世界遺産登録20周年を契機に、このプロジェクトが色々なところへ繋がっていくことを願っています。

《プロフィール》小川雅則 
田辺市役所、田辺市熊野ツーリズムビューローでの勤務を経て、和歌山大学紀伊半島価値共創基幹で特任教授/プログラムオフィサーを務める。今年4月より客員教授。

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