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絶対トラブった人。

先日、札幌の大通近辺の居酒屋で、歳上のお友だちと2人でご飯を食べていた。宴もたけなわ、お会計が終わって、もう一軒行くのかな? と思ったら「それじゃ私はこちらで」と頭を下げてこられたので「えぇ、それでは」と別れることになった。

その帰り道の話である。

家に向かって1人で夜の札幌を歩いていた。繁華街にいたので、雑踏の中をくぐって家路を急ぐ。妻にも「もう帰るよ!」とLINEして「気をつけて!」と返信がきた。早く帰りたい。


いやぁ、それにしてもいい夜だったなぁ。
歳上のお友だちもいいもので、たくさんの建設的なお話や馬鹿話で盛り上がった後の帰り道。


私はある男の人を歩いて追い越した。


時間は21時42分。

このスマホにしっかりメモってある。

カーキ色の洋服を着た男の人。年齢は40代前後だろうか。彼を歩いて追い越す。その人は1人でいて、どこかに電話をかけているようだった。なんら特別な光景ではない。


その人が話す声が聴こえた。



「確認なんですけど、
 “ひーちゃん”はいないですよね?」



私がカーキ色の彼を追い抜いたと同時、電話の向こうの誰かに彼がそう質問する声が聞こえてきたもんだから、


(むむむっ!!!)



…何かしらインビなトラブルの香りがする。


「もし、ひーちゃんって誰です?」
と私は彼に質問をすることも当然なく、夜の札幌の街をズンズン歩いて家に向かっていたのだが、彼の電話の話し声が頭にベトッとこびりついて離れない。



「確認なんですけど、
 “ひーちゃん”はいないですよね?」



なんだろうこれ。


家に着くまで考えてみた。


どこに電話をかけていたんだろう?


多分、馴染みの居酒屋か、スナック的なお店だろう。ここは美しくしたいので「馴染みの居酒屋に電話していた」としようじゃないか。あの時間に電話だから、きっと

「これから1人でいこうと思ってるんですけど、お席は空いてますか?」


まずはここからスタートでしょ。


「あぁ〇〇さん!空いてますよ!」


こうでしょ。


「そうですか!分かりました!多分10分後くらいなんですけど、1人で行きますね!」


まぁ、こうですよ。


「分かりました!今日は先に〇〇さんも来てて、何人かで飲んでますよ!」


こうきた、と。

だからカーキ色のおじさん嗅ぎつける。
そこはかとないトラブルの香りを。
で、こう続く。


「そ、そうですか!」


「か、確認なんですけど、
 “ひーちゃん”はいないですよね?」



こうだ。絶対こうだ。


これ以外考えられない。


きっと、ひーちゃんは女の子で、少し前にモメたんだろうなぁ。カーキ色の40代のおじさんだもん、何かあるんだろうなぁ。

電話の向こうの居酒屋さんはなんて返事したのかなぁ。


「〇〇さん!ひーちゃんはいないですよぉ」

「そ、そうですか! 
 そしたらすぐ行きます!(よかったぁ)」


こうであってほしいなぁ。



そんなことを考えながら、私はスマホを手に取り「カーキ色 21:42 ひーちゃん」とメモをしながら家に帰った。



〈あとがき〉
どんなものでもトラブルは起こしたくないですね。ひーちゃんって誰だったんだろう、いったいどんなトラブルがあったんだろうなぁ、いや、そもそもトラブってないかもしれないなぁ、とかなんとか、そんなことを考えながら家のドアを開けた夜の出来事でした。今日も最後までありがとうございました。

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