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音が鳴るクツという大発明。
街中を歩いていると、保育園児と思われる子どもたち10人くらいがいた。
保育士さんが前と真ん中と後ろに3人配置されており、子どもたちはカートの中に入れられて愛嬌を四方八方に振りまいている。
前方にいる保育士さんの両手には、2人の子どもの手がにぎられていて、カートに乗らなくても歩ける、という4才くらいの子どもが保育士さんの両脇をスケさんカクさんのように固めている。
その2人の子どものうち、右側にいた子どものクツが気になった。なぜかというと「音」が鳴っているのだ。
プギャッ♫ プギャッ♫ ピコ♫ プゴッ♫
子どもが歩く歩数に合わせて音が鳴る。プギャプギャとデカい音を鳴り響かせて、子どもは素知らぬ顔ですっとぼけながら歩いている。きゃわたんだ。
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ここで思うのは、
音が鳴るあのクツを発明したのは、
一体誰なのだろう?
ということである。
大発明だ。
あの音が鳴るクツを発明したのは、いったいだれなのだろう。どんな発想をしたら歩くたびにクツから音が鳴ればいい、という結論にたどり着くのだろう。これを作ったら子どもが喜ぶに違いない、という確信があったのだろうか。
そもそも、子どものために音が鳴るクツを開発する、という心意気がニクい。開発者は間違いなく子どもが好きなはずである。子どもは「音が鳴る」というガジェットアイテムに弱い、ということを知っていなければ、あの発想はできない。
「あの〜、子どものクツから音が鳴ったらいいと思うんですけど」
「ほう? どういうことだ?」
こういう上司と部下の会話が確実にあったはずなのだ。歩くたびにクツから音が鳴る、という発想は、歩行をアミューズメント化するという飛び抜けた発想である。常人ではできない。脱帽だ。
しかもだ。
あのプギャプギャ音は、子どもを楽しませるという目的だけではおそらくない。コンサル界の王道である訴求方法「メリットを複数用意する」というプレゼンが確実にあったはずである。
おそらくだが、これは私の想像だが、音が鳴るクツというアイデアを思いついた人は「音が鳴る」という事象に子どもを楽しませること以外のもう1つのメリットを上司に提案したに違いない。
子どもが迷子にならない、である。
親が子どもに対して抱く最大の関心事「自分のもとを離れないでほしい」を見事にとらえた顧客インサイトを、確実に上司にプレゼンしたはずだ。
「部長! クツから音が鳴れば! 子どもが近くにいる限り、親御さんはあのプギャ音で我が子の位置が把握できるではありませんか!」
「た、たしかに! その通りだな! よし! 君がそこまで言うならやってみたまえ!」
という上司の言葉があったのかどうかはわからない。そこからの開発担当との連携の日々を思うと、涙が出そうだ。
音が鳴るクツの「音」がどういう仕組みで鳴るのか、その音量はどの程度が妥当なのか。周囲の人たちへの配慮と親御さんへの配慮の絶妙の間隙をぬって、試行錯誤のうえに開発したに違いない。
音の開発担当
「ハァハァ、開発課長! これで60回目の試作品です。こ、今度こそどうでしょうか?」
「よし、履いてみよう」
とある会社の開発ルームに大人たちが集まる。デシベルみたいなものを測る計測器もあっただろう。
「そ、それではっ! 歩きますっ」
シーーンとする開発ルームにあの音が鳴り響く。
プギャッ♫ プギャッ♫ ピコ♫ プゴッ♫
「おぉ〜〜〜〜〜!!!! よし! これでいこう! すぐに生産ラインに連絡だぁ!」
きっとみんなで涙なみだのハイタッチをしたはずで、なんなら抱き合ったりもしたんじゃなかろうか。
「子どもたちを喜ばせ、親御さんを安心させる」という一大プロジェクトが終わって、その夜に飲んだビールは、死ぬほど美味しかっただろうなぁ。
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<あとがき>
音が鳴るあのクツって、特許は取得済みなんでしょうか。仮にメーカーの専売特許にせず、どこのメーカーもパクれるものだったとしたら。開発者の粋な心遣いまで感じてしまいます。世の中のすべての子どもを楽しませ、悩めるすべてのお母さんに光を差し伸べているわけですから。今日も最後までありがとうございました。
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