見出し画像

神聖かまってちゃんを聴いて絞りだした勇気で教室のドアを開けていた時の話

昨日の夜 駅前TUTAYAさんで 僕はビートルズを借りた セックスピストルズを借りた ロックンロールというやつだ しかし何がいいんだか全然わかりません
神聖かまってちゃん/「ロックンロールは鳴りやまないっ」

高校一年生の春。
ロックにハマった。

人生15年目にして初めて聞いた本格的なロックサウンドは、RADWIMPSの「おしゃかしゃま」。
RADWIMPSをきっかけに強まる探求心は、まるで仙豆を食べながら走り続けているウサイン・ボルト。
超スピードで飽きることなく音楽の世界を開拓していく。

こと「音楽探求」という面において、青春時代をネット社会の中で過ごせたのは幸いだった。
アーティスト名を検索して出てくる記事に目を通し、好きなアーティストが影響を受けた音楽を漁っては、新しいジャンルやバンドを開拓していく。
当時流行の兆しを見せていたYouTubeも相まって、気になったバンドの楽曲はすぐに視聴することが出来た(今振り返ればそのほとんどが違法アップロードなのだろうが)。

そんなネットで音楽を漁りながら青春時代を過ごしていた私が、「神聖かまってちゃん」と出会うのは時間の問題だった。

奇抜なバンド名に目を引かれ、ニコ生を使って生配信をしていた彼らの珍場面を切り取った動画に興味を抱き、再生ボタンを押す。
交番の前で路上ライブをして警察を挑発している様子、ライブ中に失禁する様子、メンバー同士で殴り合っている様子、当時の私にはショッキングすぎる内容は、恐怖心や嫌悪感といったネガティブな感情よりも先に好奇心を呼び寄せた。

「なんなんだこの人は、なんでこんなことを人前でできるんだ」
微塵も寄り添えない彼らの心理・感情を理解したい一心で、彼らの活動を収めた映像を漁る。

神聖かまってちゃん
ボーカルの「の子」を中心に2008年に結成された4人組ロックバンド。
自作PVをYouTube等に投稿し、ニコ生での過激な生配信が話題を呼びカルト的人気に。
「ロックンロールは鳴り止まないっ」を代表曲に、2010年には同曲をモチーフにメンバーの人間模様を描いた「劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ」が制作されるなど、アンダーグラウンドから大きな人気を得たバンドだ。
2020年のツアーファイナルをもって創生期からバンドを支えたベースのちばぎんが脱退。
バンドとしての転換期を迎えている。

彼らの動画を漁るなかで、どうやらこのバンドの中心人物が「の子」であること、「の子」はどうやら精神的にすぐれない何かを患っていること、いじめられていたこと、上手く社会と適合できないことなどが分かってきた。

思春期真っ只中の15歳の私も、「の子」のパーソナリティに少なからず共感できるタイプの人間だった。
いじめや精神疾患のような大義名分こそなかったが、教室の扉を開けるのにも、クラスメイトとの会話に交じって発言するのにも、相当な気苦労を感じていた。
いわゆる「陽キャ」に怯えながら、ヒエラルキーの下層にいる人ともうまく打ち解けられなかった当時。
人との距離感が分からず気の弱い私はまるで、バラエティ番組のひな壇に座って発言できないで焦っている若手芸人のような心境で毎日を過ごしていたのだ。

そんな中、きっと同類であるはずの「の子」は、自暴自棄ともとれる自己表現、をやってのけている。
暴力的な歌い方・生き様で荒々しくも堂々と世間に自分を表現している。

「すごいな」

自分をさらけ出すことに抵抗がない彼を見て、素直にそう思ったのを覚えている。

冒頭の詩は彼らの代表曲「ロックンロールは鳴りやまないっ」の一節。

私もそんな「の子」と同じように、神聖かまってちゃんのファーストアルバム「友だちを殺してまで。」を駅前のTUTAYAで借り、ウォークマンに落として聴いていた。
素人ながらも分かる演奏の下手さ、歌の下手さ。
ほんとに「何がいいんだか全然分からない」。

だけどなぜだか感じる熱い感情。

夕暮れ時 部活の帰り道でまたもビートルズを聴いたセックスピストルズを聴いた 何かが依然と違うんだ MD取っても イヤホン取ってもなんでだ全然鳴りやまねぇ
神聖かまってちゃん/「ロックンロールは鳴りやまないっ」

「の子」の頭の中でビートルズやセックスピストルズが鳴りやまなかったように、私も神聖かまってちゃんの曲が頭から離れなかった。

通学中、この曲が持つエネルギーを自分の中に取り込んで、苦痛だった学生生活を何とか乗り越えたあの頃。
暗くても堂々と自分らしくしていればいいんだと、「の子」の生き様を自分の心に投影して。

「パンクこそ音楽」
詳しいジャンル区分など分からないが、つまり「魂むき出しの音楽」。
神聖かまってちゃんをはじめ、ブルーハーツやサンボマスター、彼らの曲に介抱されて青春時代を過ごした私は、時々そんな偏向に染まる。
言葉の持つ力、感情の持つ力を信じずにはいられない。

弱気な心には、熱い感情が良く刺さる。

今も遠くで聞こえるあの時のあの曲がさ
遠くで近くですぐそばで叫んでいる
神聖かまってちゃん/「ロックンロールは鳴りやまないっ」

ロックンロールは今日も私のすぐそばで叫んでいる。



この記事が参加している募集

#思い出の曲

11,385件

#私のイチオシ

51,056件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?