見出し画像

名物記者・近藤康太郎さん「名文は駄文の中からしか生まれない」イベントレポ

「三行で撃つ」の著者、近藤康太郎さんに撃たれたくて、オンライン文章講座に参加しました。

全2回あるうちの第1回目。朝日新聞の名物アンド名文記者の文章術は、余韻がすさまじい。明日の第2回目に向け、復習もかねて心に命中した7発のポイントをまとめました。

講師:近藤康太郎さん
朝日新聞編集委員・日田支局長。名物&名文記者。
作家、評論家、百姓、猟師、私塾塾長でもある。
著書に「三行で撃つ<善く、生きる>ための文章塾」「アロハで猟師、はじめました」「おいしい資本主義」など多数。

聞き手:編集Lily(田中里枝)さん
楽しいことを仕事にしたい書籍編集者。

講座は、「三行を撃つ」の内容をベースに、受講者からの質問に答えていく一問一答スタイルで行われました。

室内に白いカウボーイハットとサングラス、スーツ姿で画面に映った近藤さん。見た目だけでもインパクト大でしたが、話す内容も熱々。有名な作家や音楽家の例え話が多く、勉強になりました。
近藤さんと編集Lilyさんとのかけ合いもおもしろかったです。あっという間の1時間半でした。


第1発:名文は駄文の中からしか生まれない

「三行を撃つ」で「常套句を使うな」と言われ、書けなくなった方も多かったようです。

本書にはこう書いてあります。

・常套句をなくす
・擬態語、擬音語をのぞく
・初心者は極端ですが形容詞を辞めていい

わたしは、常套句(美しい海、おもしろい人など)は、使うほどいいとすら思っていたので、「常套句を使うな」の言葉に瞳孔が開きました。おまけに擬態語、擬音語(ワクワクする、ほっこりするなど)で生きていました。

近藤さん曰く、「使うな」と「使え」は表裏一体。とにかく使って書きまくってほしいと。編集Lilyさんも、「書くなと言われてその言葉の通り書かないのは違う」と言っていました。読解力を磨くべし。

「死ぬほど書け。常套句を使いまくりの文章を書け。100本書いて1本コラムが載ればいい。」

常套句、形容詞、オノマトペを使いまくって、あるときがきたら使わない文章を書いてみるとよいと。

これを聞いてほっとし、ワクワクで胸が躍り、空を見上げると太陽がキラキラとまぶしく輝いていました!!!

第2発:常套句に頼らないためには、5感を駆使する

近藤さんが常套句について説明するためのいい教材だと、記者2年生の記事を持参。添削前後の文章を紹介してくれました。これがすごかった。

【Before】
一番はじめに書いた文が、こちら。

男たちは浜に立ち、まだ黒い海を見つめた。午前4時。打ち寄せる波の音で沖に出るかどうかを決める。穏やかだ。「今日は行けっか」。船首につけられた明かりが海面を白く照らす。

こちらの文章への、近藤さんの添削コメント。

「『波の音で沖に出るかどうかを決める聴覚で決める』と言っているのに、『穏やかだ』と視覚で決めている。これは、だめだよ。聴覚で決めるなら、音をもってこないといけない」

上記を何回も書き直し、掲載されたのが、こちら。

【After】

男たちは浜に立ち、まだ黒い海を見つめた。打ち寄せる波の音で沖に出るかどうかを決める。

潮は、静かな寝息を立てている。時折、遠くの岸壁で水しぶきが立つ。「今日は行げっか」。午前4時半、船首に灯(あか)りがともり、海面を白く照らした。

その他。
「ワカメを引き上げる表現のとき、『引き上げると重かった』と書いてはいけない。どのように重かったのか考える。例えば、『カーテンみたいだった』、もっと考えていくと『水洗いをしたカーテン』の表現が出てきた。『これだ!』となる」

ライターさんは、視覚で書く人が多い。触覚、嗅覚、味覚を駆使して情景を描くと常套句から免れることがあるという。

第3発:スピード感のある文章は柱に梁が通っている

原稿には柱がある。だけど、柱を結ぶ梁(はり)がないと文章が締まらないという。梁を作らなければいけない。梁とはキーワードのことだそうです。

上にあげた記事の締めくくり。

にぎやかな地元の店に入り、握ったばかりのワカメむすびもいただいた。歯ごたえのあるワカメの後に、白米のやわらかさ、甘さが引き立つ。

潮の味がした。

「塩」ではなく「潮」と書いている。これも、意味をなして書かれているのです。

「何度も書き直しているうちに、文章が書いている人に「こう言うことをいいたいんじゃないの?」と教えてくるんです。『この文章の本当に言いたいことはこれじゃないの?』って」

上の記事の場合は、「潮」が梁になっている。文章のところどころに「潮」が出てきます。これは、読者がサラッと読みなおすくらい自然に入っている。

梁が入っているのを気付かれるとあざとい文章になると、近藤さんは言う。

長い原稿に必要なのは、柱。それに梁(キーワード)を通す。

この記事には、もうひとつ梁があるようです。研究してみます。

第4発:世界を切り取って文章にする

「形容詞や常套句、よくある空や海などの自然描写を書く場合、それを書く必然性があるかどうかを考えなければいけない

海の香りだとか、色だとか、美しさといった自然描写は、文章と密接に関係しているから書くんです。『俺の文章うまいだろ』でやっているんじゃない」

近藤さんが「形容詞を書くな」と言う理由は、「抜けるような空とか書くとそこで思考が停止するから」だと言います。

五感を全開にオープンし、観察し、観察し、観察しまくることが、いい文章を書くキーになってくるのだ、と。

こんな質問がありました。

文章には以下の個性があると思います。
「ホット、クール、カラっと、ジメっと、色鮮やか、モノクロ、明るい、暗い」このような文章の「温度、湿度、彩度、明度」の書き分けは、記事・作品の質にどのくらい影響するのでしょうか。

近藤さんの答え、「それがすべてです」

第5発:文章には「何も言わない、書かない文章」もある

文章には「何かを書いてある文章」と「何にも書いていない文章」があるという。

詩人の荒川洋治さんが言っていたこと。

文章を書くときに要諦とは何か。
1、~~~
2、~~~
3、~~~
4、~~~
5、何も書かないこと

これを聞いて近藤さんは、はっとし、反省したと言います。近藤さん自身は、気の利いたうまいことを書いてしまうタイプなのだと。起床転結の「結」に派手なバク転をしたがる。

「何も書かない文章をトライしたい。ライターは一生精進だから」

何を書いているか分からないけど読んでしまう、近藤さんがすごいと名前をあげていた方々がこちら。

吉田健一(文芸評論家)
湯浅学(音楽評論家)
山下陽光「途中でやめる」メルマガ(無料)

第6発:常体と敬体の書き分け

「三行を撃つ」は、常体(だ、である調)と敬体(です、ます調)を使い分けて書かれています。超人です。

25発の見だしのうち、20発を常体と敬体で書き分けてある。1発につき起承転結が1個。書き分けた項目は落ちを2回つけているようです。
そのため、長文でも飽きずにスラスラ読めるように作られている。

これが、本当にスーラスラ読めるんです。難しい本が苦手なわたしでもスラスーラ。2日で完読しました。

「近藤さんは基本的に常体で書くスタイルが多い。今回は特性上、文章術の本でもあったので、書きづらいものを書いてみせないと説得力がないなと思った」と、編集Lilyさんは言います。

第7発:良いデスクとは?いい編集者とは?

近藤さんが思ういいデスク、編集者をまとめました。

・感想を言ってくれる人。ライターは感想のために書いている。
・プロデューサーである。道をつけてくれる。
・自分よりも、いい読者である。
・きちがいにさせてくれる人。ライターは気が狂ってないとできない。

近藤さんは、デスクの仕事をするときには、感想は必ず書いていた。

媒体によってのよい編集者とは。
書籍の場合=攻撃的ミッドフィルダー。気の狂ったポイントをもっと狂わせてくれる人。
新聞、雑誌=守備的ミッドフィルダー。炎上しないように穴を探すひと。

その他、仕事術

・書く文章のグルーヴにあった音楽を聞く。
・推敲時は、音楽を消す。文章のリズムが分からなくなるから。
・ジャンル分けできる文章はおもしろくない。
・「~活動を進める」「取り組みを始める」などの人の意識を飛ばせるような文章をライーターが書いてはダメ。
・話は盛っていない(新聞の場合。盛ると小説になる)
・時間軸を前後させることはある。

ーーー

講座で登場した文献を載せてくれています。

今日からはじまった近藤さんのプチ連載(全3回)。常套句や、文章の指摘ポイントを詳しく書かれています。めちゃくちゃ勉強になります。

近藤さんの講座は、文章講座というより「人間講座」に感じます。ライターの前にどういう人間でいるかを問われている気がする。
今日も善く、生きます。

明日の講座も楽しみです。

講座内容のベースになった近藤康太郎さんの著書。

こちらのセミナーは、野本響子さんのサークルでご一緒しているSeinaさんから教えていただきました。ありがとうございました!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?