石垣 碧

三重出身、関西在住の二児の母です。娘が今年大学生になったのをきっかけに、約30年前の大…

石垣 碧

三重出身、関西在住の二児の母です。娘が今年大学生になったのをきっかけに、約30年前の大学寮生活を思い出し、寮で起こったあれやこれやを懐かしく書き留めています。

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  • ちょっと古い秘密の花園日記

    お嬢様大学と呼ばれる女子大の、男子禁制学内寮。そんな秘密の花園で繰り広げられる日常を、懐かしく思い出してます。ちょっと古い、ほんの30年前の日常ですが。

記事一覧

第4話 ホームシック

 ホームシック。  それは住み慣れた家や故郷を離れて、異常な程に寂しくなったり恋しくなったりする気持ち。郷愁の事。  辞書にはそう載っている。  寮生はみんな、住…

石垣 碧
3年前
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第3話 高見沢事件

 約30年前、私の女子大生生活は山の上にひっそりと佇む、古い学内女子寮の3人部屋で始まった。  ルームメイトは、四国から来たマイちゃんと、広島出身のリョウコである…

石垣 碧
3年前
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第2話 賛美歌で朝食を

ミッション系女子大学学内寮の朝は賛美歌で始まる。 もう30年も昔の事なので、正確な時間は忘れてしまったが、朝食の時間は確か7時だった。1年生から4年生まで、全員が食堂…

石垣 碧
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第1話 30年前の不機嫌な大学生

この春、娘が大学生になった。コロナ騒ぎで、一度も大学に通えないままゴールデンウィークも終わった娘を見て、可哀相にと思う。大学一年の春には、濃密でゆったりとした、…

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4年前
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第4話 ホームシック

第4話 ホームシック

 ホームシック。
 それは住み慣れた家や故郷を離れて、異常な程に寂しくなったり恋しくなったりする気持ち。郷愁の事。
 辞書にはそう載っている。
 寮生はみんな、住み慣れた故郷を出てきている。だから郷愁は当然ある。しかし辞書で定義されているホームシックとは若干趣きが異なる。寮生のホームシックは、もっとポジティブなのだ。

 30年前、世の中に携帯電話はなかった。いや、どこかに存在してはいたのだろうが

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第3話 高見沢事件

第3話 高見沢事件

 約30年前、私の女子大生生活は山の上にひっそりと佇む、古い学内女子寮の3人部屋で始まった。
 ルームメイトは、四国から来たマイちゃんと、広島出身のリョウコである。
 マイちゃんは4人兄妹の長女で、しっかり者の物静かな子だった。朝は一番最初に起き、私達が目を覚ます頃には身支度を完璧に終わらせて、朝食の時間が来るのを静かに待っていた。
 こちらがかしこまってしまう程、真面目で几帳面で落ち着いているマ

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第2話  賛美歌で朝食を

第2話 賛美歌で朝食を

ミッション系女子大学学内寮の朝は賛美歌で始まる。
もう30年も昔の事なので、正確な時間は忘れてしまったが、朝食の時間は確か7時だった。1年生から4年生まで、全員が食堂に集まり、7時きっかりに寮母さんがベルをチーンと鳴らす。レストランの受付などに置いてある、店員さんを呼ぶあの卓上ベルだ。そのベルの音を合図に上級生が賛美歌のワンフレーズを歌い、その後に全員が続く。最後にアーメンと歌い終わると朝食が始ま

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第1話  30年前の不機嫌な大学生

第1話 30年前の不機嫌な大学生

この春、娘が大学生になった。コロナ騒ぎで、一度も大学に通えないままゴールデンウィークも終わった娘を見て、可哀相にと思う。大学一年の春には、濃密でゆったりとした、それでいてあらゆる興奮に満ちた賑やかしい時間が流れている。それは、他のどんな年の春とも違う、特別な時間だからだ。

約三十年前の春、私は不機嫌な大学生として三重の田舎から神戸に出てきた。
なぜ不機嫌だったか。それはごくありきたりで詰まらな

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