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図書館の未来像

はじめてのnote投稿です。

ここでは、中の人が図書館の設計や企画に携わる中で感じたこと、思ったことをコラムにしていきたいなと思います。

読書に馴染みがなくても一度はお世話になる図書館ですが、ネット社会の中、その役割はどこへ向かっていくのでしょうか? 以下の目次に沿ってまとめていきます。

■図書館の役割(現状)

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図書館とは単なる書庫ではありません。

図書館とは「知識・体験が集約される場」であり、同時に「学ぶ意思のある民衆に知識・体験を公開する場」でもあります。

少しだけ歴史にも触れておきます。図書館は紀元前の文明にすでに存在していました。古代文明の政治家や学者は、より古い文明の知識を蓄え利用することに熱心だったのです。日本においては、諸外国を視察した福沢諭吉の「西洋事情」(1866)によって、近代的な図書館像が持ち込まれました。

現在の図書館には「開架式」と「閉架式」があります。皆さんが利用しているのは、ほとんどの場合が開架エリアです。

ただし開架といっても、無制限にオープンなわけではありません。滞在時間を短くするため、腰掛けるベンチはあってもゆったりとしたソファや広々とした机は限られて来ました。

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一方で、近年ではツタヤ図書館に代表されるような、集客力に特化した図書館も散見されます。ラウンジのような快適な閲覧スペース、書店のようなオススメが目に付く配架あたりが特徴でしょうか。

明らかに現代の図書館は「集客」「地域再生」「滞在」「共感」「観光」へと舵を切っています。

ここで注意しておきたいのは、図書館自体がそれを望んだというより、社会的なニーズにより図書館がそう変貌せざるを得なかったのではないか、という点です。

上述の「観光」「滞在」「共感」といったキーワードは、技術・生産のコモディティ化が進んだ21世紀における現代人の「所有」より「体験」を重視する価値観と一致しています。

また、デジタル化が進む現代においては、紙の本だけにこだわらない、総合的な知的体験を支援する方向に動くのも自然な流れだと思います。

もう一つの側面として、人口流出が避けられない地域においては、将来の地元経済を担う人材に知識を提供する姿勢を忘れるわけにはいきません。

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ここまで現状について分析しました。では、図書館はこの先どのような姿になっていくのでしょうか?

一歩引いて、海外の図書館との比較と、現代社会の情報の在り方から考えてみたいと思います。

 

■司書という職能 (欧米との比較)

前章で、日本の図書館の仕組みは海外より持ち込まれたものだと述べました。当然、全てが持ち込まれたわけではありません。今でも、欧米諸国と日本における図書館の扱いには差があります。

映画「ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス」などに描写されるように、図書館そのものに対する人々の思い入れは計り知れないものがありますね。

アメリカやカナダでは、図書館の地位がそもそも高く、水道や電気、病院、警察といった社会インフラと同じように重視されていると言われています。

当然、司書の資格を取るのも容易ではありません。認定されている専門職大学院の課程を修了しなければ、司書となる資格を得ることはできないのです。

対する日本の司書の問題としては、以下があげられます。

・司書が館長に昇進する機会が少ない
・司書を派遣社員や非常勤職員で賄うケースが多い
・そもそも司書や学芸員が高度な職として認識されていない

これらは根深い問題です。そもそも司書の資格を弁理士や建築士のように業務独占資格(資格保有者でないと業務の責任者になれない)にするべきだったのでは、など、様々な議論はされています。

今回このブログで取り上げたいのは、3行目の「認識」の部分です。

3行目の「司書や学芸員」は、「アーキビスト」に置き換えても良いのでは、と考えています。

 

■アーカイブ、プラットフォーム、そして未来

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日本には歴史的財産がたくさん存在します。また、戦後の経済成長に伴い、多くの素晴らしい技術を開発して来た実績もあります。

しかし、これらの保存・共有は進んでいるでしょうか?

これから日本の生産人口は減少していきます。また、これまで最前線で活躍した世代もいずれは引退していきます。

一方で、技術がすでに成熟した現代社会を見るに、我々はもっと過去の蓄積をアーカイブして共有できる社会を実現していく必要があります。

デジタル・アーカイブという概念は、アカデミーではだいぶ浸透していますが、日本はアーキビストという職能の確立が遅れているように思います。結果的に一部の司書・学芸員が担い始めている現状があり、この流れは今後加速していくでしょう。

未来の図書館は、貸出重視か閲覧重視かという議論を超えて、「あらゆる知識がアーカイブされ、様々な人・団体が出入りするプラットフォーム」という高度な情報インフラへと昇華されるのではないでしょうか。

そのときには、アーキビストの、そして司書の地位もより高いものとして認識されるのではないか、と考えています。

 

以上、ここまでお読みいただきありがとうございました。もし感想、ご意見ありましたら、下記よりご連絡いただけると幸いです。

https://www.kibundo.co.jp/index.html

規文堂 企画部 東郷拓真 @Twitterアカウント

 

参考文献:

新藤透 ,”図書館の日本史”,勉誠出版,2019

山口浩,”「TSUTAYA図書館」と「図書館論争」のゆくえ”,知のネットワーク – S Y N O D O S –,2015

菅谷 明子,”未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告”,岩波新書,2003

文部科学省 ,”諸外国の公共図書館に関する調査報告書” ,2005

アンドリュー・マカフィー、エリック・ブリニョルフソン,”プラットフォームの経済学”,日経BP社,2018

日本アーカイブズ学会,"「日本におけるアーキビストの職務基準」に関する質疑・意見等の提出について",2016

※掲載内容の無断転載はご遠慮ください。
※この記事は規文堂のウェブサイトにて投稿した記事を読みやすく再編したものです。


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