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『ホモ・デウス: テクノロジーとサピエンスの未来』(上)(下)

(ざっくりサマリー) ・人の行動や世界に意味を与えるものが、近代以降は神的存在から人間自身に取って代わられたが、これからはさらに生化学的アルゴリズムに取って代わられる。そうした時に、人間は他の動物と同じくデータの一種として埋もれてしまう。 ・こうした予測に対して、検証したり、気に入らなければ未来を変えたり、そうした未来に適応できるように行動することが求められる。 (読んで欲しい人) 知的好奇心が旺盛な人。前提知識は必要としませんが(前作『サピエンス全史』を読んでいなくても

    • 『悲劇的なデザイン』

      (ざっくりサマリー) ・デザインには、結果として人を死に追いやるほどの影響力を持つ。 ・デザインはブランドの価値を大きく増加させることも減少させることもある。そのため、デザイナーはステークホルダーとデザインについて相互理解できるよう行動する責務を負う。 (マーカーをつけたところ) 作る技術が成熟するまでデザインは存在しない。デザインとはものづくり、あるいはプロセスをもっと高いレベルで考察することだ。デザインとものづくりを一緒にして考えてはいけない。デザインを話題にし、 本

      • 『医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者』

        (ざっくりサマリー) ・医療者も患者も、行動経済学で説明できる意思決定上の落とし穴に陥りがちである。 ・行動経済学のツールを活用することで医療者も患者も意思決定の質を改善することができうる。 (マーカーをつけたところ) 当初は、医療者は自身の説明の至らなさに目を向けて、落胆したり、怒りを感じたりすることが多い。そして、こういった経験を多く積んだ医療者の中には、次第に一定の割合でこういった患者がいることに慣れてきて、その仕組みを理解することをあきらめてしまう者もいる。 医

        • 『けっきょく、よはく。 余白を活かしたデザインレイアウトの本』

          レイアウトデザインの指南書としては久々の佳作といえます。 ビフォアアフターの見開き対比で課題と解決策を解説する最近多いスタイルです。6ページでひとまとまりのセクションの終わりには、シーン別の書体と配色の選び方が3パターンずつ用意されていて、これだけでもその都度見返すレシピとして活用できます。 今どきだな、と思うのは、紹介されているフォントが全てAdobeのTypekitで提供されているだということです(一部の日本語フォントにはそうでないのがあってそれにはフォント名が表記さ

        『ホモ・デウス: テクノロジーとサピエンスの未来』(上)(下)

          『誰にもわかるハイデガー: 文学部唯野教授・最終講義』

          (ざっくりサマリー) ・人は死ぬことによってしか自分の存在を定義することができない。 ・生きているうちに死を了解することで、自分の過去や未来における関わりを同時に受け入れることになる。 (読んで欲しい人) 『存在と時間』で挫折した人。ページ数も少なくすぐ読めます。 (エッセイ) はじめにおことわりしますと、私は『存在と時間』を随分昔に数ページで挫折して現在に至るので、この本がハイデガーの哲学を分かりやすく的確に解説しているかどうかは判断できず、あくまで唯野教授の講義を読ん

          『誰にもわかるハイデガー: 文学部唯野教授・最終講義』

          『貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策 (光文社新書)』

          (ざっくりサマリー) ・貧血は多くは直接死に至る病でもないため、対策が遅れており、日本政府の施策は極めて不十分。 ・特に若い女性にとっては、貧血は社会活動のパフォーマンスや出産・育児に悪影響を及ぼすため行動変容が求められる。 (読んで欲しい人) 保健衛生業務に携わる非技術職の方。平易な文章で書かれていて1日あれば読めます。 (エッセイ) 本書の構成は、血液の機能や貧血のメカニズム、各ライフステージにおける貧血の起こりやすさと影響、貧血対策としての血液検査の読み方と食事の解

          『貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策 (光文社新書)』

          『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』

          (ざっくりサマリー) ・エピソード的な経済事象でも経済学的に分析解明をしうる ・既存企業にはアドバンテージがあるものの、既存事業との共喰いが発生するためイノベーターのジレンマが起こる (読んで欲しい人) 大学生。近代的な学問の理論がどう現実社会に適応しうるのかを丁寧なプロセスを追って実感できるので学ぶモチベーションが上がります。経済学専攻(予定)または興味があるなら1年生でも読めます。それ以外の人は、2〜3年生で既に何かしらの学問の概論に一通り触れている方が良いでしょう。

          『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』

          『誰の健康が優先されるのか――医療資源の倫理学』

          (ざっくりサマリー) ・医療資源の配分を評価するにあたっては費用対効果分析が最も重要なツールである ・費用対効果分析はあくまで評価のためのツールであり、倫理理論ではない。そのため、分析結果を修正する手法により、政策決定者の倫理判断を反映させることができる。 (マーカーをつけたところ) もしあなたがある人口集団内に存在する健康格差に関心があるとすれば、その問題を医療制度内部だけで解決できる可能性は極めて低いということだ。 (読んで欲しい人) 社会政策の立案者・決定者(医療

          『誰の健康が優先されるのか――医療資源の倫理学』

          『知ってるつもり 無知の科学』

          (ざっくりサマリー) ・人は、多くの場合、個人の知識と外部の知識を混同して、実際よりも過剰に知識があると認識してしまう。 ・知性は、個人の頭の中の知識や理解を指すのではなく、それと外部を結びつける力である。また、そのように脳を使うように進化してきた。 ・コミュニティに知の共有の貢献をするということゆえに、公に発表することは価値がある。(時に称賛の対象となる) (マーカーをつけたところ) 世界が正常な状態にあるという認識は、われわれにとって大きな支えとなる。それは情報は世界

          『知ってるつもり 無知の科学』

          『学校選択制のデザイン―ゲーム理論アプローチ (叢書 制度を考える)』

          ゲーム理論によるマーケットデザインの中でも、比較的成功して議論も活発であるマッチングのうち、学校選択制について論じた本です。 この本の特徴的で良い点は、ただの理論分析にとどまらず、制度の背景とその現状、理論分析、実証、適用(実行/提言)といった全方位について言及している点で、いわばマッチング理論の横の広がりではなく、学校選択制の縦の串刺しで本を構成しているということです。このような理論から適用までの全体を捉える姿勢は、いかにも現代的な学問らしさがあり好感が持てます。 中心

          『学校選択制のデザイン―ゲーム理論アプローチ (叢書 制度を考える)』

          『空間の経験―身体から都市へ (ちくま学芸文庫)』

          空間、場所、時間について、人がどう認知して評価しているかについて書かれた本です。分野としては地理学に当たるとのことですが、認知科学的アプローチによる文化人類学と考えるとしっくりきます。 よりトリッキーな表現をすると、空間の経験というアートを鑑賞するための『美の壺』的マニュアル、と言ってもよいでしょう。実際これによって生じるのは、無意識に経験する空間について意識的に空間を経験することに他ならず、著者も「つまり本書は、あらゆる人文科学の試みと同様に、認識の拡大を目指しているので

          『空間の経験―身体から都市へ (ちくま学芸文庫)』

          『我々はどのような生き物なのか――ソフィア・レクチャーズ』

          チョムスキーの言語学と政治社会思想について一冊の本で扱われています。途中まで、読んでいてその内容の価値のみを見出していましたが、最後の編訳者による解説を読むことで、このような本が刊行されて良かったな、と思いました。その内容の意義が見出されました。本の主部分は講義録であり、既に公にされたものですが、こうして本になって、私のようにその場にいなかった人にも時と場所を越えて届けられた、その届けるだけの意義がこの本にはあります。 私は学問的な立場としてはチョムスキーに糾弾される方でし

          『我々はどのような生き物なのか――ソフィア・レクチャーズ』