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『悲劇的なデザイン』

(ざっくりサマリー)
・デザインには、結果として人を死に追いやるほどの影響力を持つ。
・デザインはブランドの価値を大きく増加させることも減少させることもある。そのため、デザイナーはステークホルダーとデザインについて相互理解できるよう行動する責務を負う。

(マーカーをつけたところ)

作る技術が成熟するまでデザインは存在しない。デザインとはものづくり、あるいはプロセスをもっと高いレベルで考察することだ。デザインとものづくりを一緒にして考えてはいけない。デザインを話題にし、 本当の意味でのデザインをしたいなら、 手がけているデザインの影響を考えなくてはならない。

(読んで欲しい人)
プロのデザイナー。最低限、デザインとはhow to lookではないことを理解している人。デザインを通じて世の中に影響を与えようとしたことがある人でないと内容にピンとこないでしょう。

(エッセイ)
デザインの影響力、特に負の側面について焦点を当てた本ですが、よくある酷いデザイン事例集/分類集のような類のものではなく、デザインの負の面に通底するものを哲学的に考察している点で、デザイナーに大きな問題を突きつける内容となっています。

著者は一貫して誠実です。礼儀正しく、倫理観を重要視しています。アクセシビリティに関する章は、ダイバーシティやインクルーシブといった、ポリティカルコレクトネスの問題としてデザインを扱っています。その姿勢はまことに高潔なのですが、一方で、そうした誠実さの追求は最終的にはリリースの実現可能性とトレードオフの関係になってしまいます。現に、本の構成が、生死に関わる問題、怒り(外向きの感情)に関わる問題、悲しみ(内向きの感情)に関わる問題、アクセシビリティに関する問題と、重要度順に並べられていることがそれを暗示させているように思えます。

もちろんトレードオフの関係にならないようにフレームを変えることもデザイナーとして十分検討するべき課題ではありますが、それを達成できずしかもデザインの誠実さが勝るべきとデザイナーが判断する場合には、上司あるいはステークホルダーに納得してもらうようコミュニケーションを尽くすこともデザイナーの仕事の領域であり、そのための具体的な行動について後半の章を割いていることはこの本の大きな特徴と言えるでしょう。

各章の間にはこうしたデザインの影響力に真摯に向き合ってきたデザイナーへのインタビューが掲載されていますが、特にMule DesignのErika Hallへのそれは、デザインに対する責任感と情熱を傾けることを強く訴えており、これだけでも読む価値があるでしょう(「マーカーをつけたところ」で引用したのもこのインタビューです)。仕事の影響力を認識し、それに真摯に向き合う、これはデザイナーに限ったことではありませんが、ガツンと目を覚まさせてくれるように、時に見失いがちな大事な感覚を取り戻すことができる本です。


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