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『貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策 (光文社新書)』

(ざっくりサマリー)
・貧血は多くは直接死に至る病でもないため、対策が遅れており、日本政府の施策は極めて不十分。
・特に若い女性にとっては、貧血は社会活動のパフォーマンスや出産・育児に悪影響を及ぼすため行動変容が求められる。

(読んで欲しい人)
保健衛生業務に携わる非技術職の方。平易な文章で書かれていて1日あれば読めます。

(エッセイ)
本書の構成は、血液の機能や貧血のメカニズム、各ライフステージにおける貧血の起こりやすさと影響、貧血対策としての血液検査の読み方と食事の解説、となっています。非常に簡潔かつ体系的な展開がされています。

一言で言えば、貧血は自覚している以上にヤバい、ということで、ではどう対処すれば良いのかを考える必要があります。理想的には評価と行動で、前者は貧血に関する血液検査により貧血かどうか貧血ならどんな貧血かを知ることで、後者は管理栄養士による検査結果に基づく食事改善の遂行です。

とはいえ、それが望ましいとは分かっていても、なかなか行動に移せないのが普通の人です。特に食事や運動といった生活習慣の改善は、影響が及ぶのが極めて先の未来であり一回ごとの効果の実感が得られにくいため、大幅に割り引かれてしまいます。そのため、本書に挙げられたような個別的かつ具体的かつ刺激的な貧血に伴うリスクを情報提供するとともに、「海苔」のような金銭的にも精神的にも低コストな解決策を示すことが必要です。

しかし、このような情報が必要な人、このような情報によって救われるかもしれない人は、数百万人単位でいるであろうことを思えば、その人たちにこの本を薦めるといった軽々しい発言はできません。「読んで欲しい人」の範囲を敢えて絞りましたが、本来このような重要かつマスに対する情報は、政府や産業界のアクターが伝えるべきでしょう。その際には、上記の通りただ伝えても無意味なので、パターナリスティック・リバタリアニズム的な介入が必要となってきます。本書で紹介されていた小麦粉に鉄を添加させるプログラムがその一種で、このプログラムは効果が認められなかったようですが、こうした研究が成功した暁には絶大な効果が期待できます。

本書の目的として根本にあることは、貧血が(特に)女性の社会における活躍を阻害しない環境を整備することにあります。そもそも健康はそれ自体が目的ではなく、健康であるからこそできることができるためにあるものです。そういう点では、この本は、女性の自由を追求する権利をエンパワーメントするために医学ができることを、アダム・スミスやミルトン・フリードマンが自由を実現するための経済学を訴えたように訴えた本であると言えます。なので、上には書きませんでしたが、女性の権利をより多面的に考えたい人にも読まれるべきでしょう。


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