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ひと息入れる

夏と秋の間に休日をつくって小旅行に行った。半分ひとり旅。ひとりで出かけることがさみしい人間のように思えて、あまり人に話してこなかったけど、自分の居心地良い場所を知っていて、こんなふうにふらっと旅に出て自分をケアできる大人になれたことは良かったと思っている。そんな感じの秋日記です。


木曜日(晴)

例えば砂漠とか、草原とか、何もない広い場所へ行きたいとここ数年ずっと思っていたのが、急に叶った。

静岡に住む友人、ミナミさんに会いに行ったら、日本平ホテルのラウンジに連れて行ってくれた。ホテルは山のてっぺんにあって、ラウンジの外に芝生が広がっていた。

ティーセットを食べてから散歩。延々と続く芝生の向こうに森林。みどり、みどり、みどり。ちょうど日が暮れる時間で、空はピンク。もう少しで丸くなる白い月。何もないを求めているのに、結局何かを探してしまうものだな、と思った。なにもない場所に来てただぼんやりする、ということがしたかったのだけど、それって案外むずかしい。ヨガの瞑想をたまにやってみるけどぜんぜん上手くできない、その感覚と似ている。

ミナミさんと別れて、沼津へ。今夜の宿。ごく一般的なビジネスホテル。
ときどきここに泊まる。これがものすごいリフレッシュできる気がしている。なんというかビジネスホテルの単調なつくりって情報量が少ないのが良い。やることがないのも良い。近所でたこ焼きを買い、ビールを飲んで寝る。

金曜日(晴れのちくもり)

朝。ゆっくり起きて、海へ向かう。沼津駅から1時間くらいバスに揺られるが、ずっと海沿いを走るから、景色が楽しい。区画ごとにちょっとずつ、景色の表情が変わる(ような気がする)田舎の海辺の町。海と山しかないところにバス停があって、そのぽつんとした感じがすごく良かった。柿の木に実がついていて、農協にみかんが積まれていて、秋だ、と思う。

目的地は透明度だけなら日本屈指のビーチらしい。本当にめちゃくちゃきれい。そしてきれいさを上回る地味さ。シーズンを過ぎたら閑散としている。気温は30度。ひざまで水に浸かる。水温は温かくて日差しは強くて、海には夏が残っている気がした。夏と秋の間。

去年の今頃もひとりでここへ来た。そのときはなんだか疲れていて、数時間いた。もっとずっとそこに居たかったけど、バスの時間があるので、仕方なく帰った。来年の今頃には絶対に今とはちがう生活をしていようと思った。

あれから一年経って、思っていた以上に大きく環境が変わった。相変わらず海はきれい。またここに来れたことに満足して、予定より早く帰ることにした。今の自分は海を見るより、バスからの景色のほうが楽しいみたい。あと、バスを待っている時の風がすごい気持ち良かった。

「こないだ営業サボって海見てたんですよ」ずっと前に働いていた会社で、新人のトヨタくんという子が、そう言ってきたことがあった。へーいいじゃん、そういう日もあるよね。理解ある先輩みたいな顔しててきとうに返事をしてたら、仲良くなった。その時すでに退職が決まっていたが公表していなくて、わたしが辞めたらこの子びっくりするかなとか思っていたら、彼はわたしの退職日の1週間前に辞めた。びっくりさせられた。
海がトリガーになって、昔のことをふいに思い出したりした。

駅まで戻ったら、急に空腹。せっかくなので駅ビルの寿司屋に入る。ひとりでカウンターに座り手持ち無沙汰なのでメールを見るふりしていたら、ちょっと前に、写真家さんに撮ってもらった写真が届いていた。
その日は8月の終わりで、外は猛暑で、わたしはらしくもない白いワンピースを着て、かべも白くて飾ってある花束だけが色鮮やかに咲いていた。緊張と暑さでふわふわして、なんだか夢の中みたいだと思った。
そういう空気全部がちゃんと写っていた。写っているような気がして、この夏が記録に残せた、と思った。いい夏でした。

寿司屋のメニューにさんまがあって、秋だ、と思った。秋になった、と思えばまだ夏が残っている、と思ったりする、この時期がすきだ。



最後まで読んでくれてありがとうございます。

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