もう、とっくに
春は来ていたのに、やっと実感できた。せわしなく周りが変わっていくなかで、自分だけぽつんと取り残されているような気分になるけど、生温い空気がそれでもいいかと思わせてくれる。そんな感じの春日記です。
月曜日(晴)
朝。職場の新聞を整理する。見出しを見て不安になる。この先この国はどうなっちゃうんだろうね、と同僚が嘆く。そんなやりとりを毎回くりかえしている。もうずっと、明日が今日より少しずつ悪くなっていくような息苦しさがある。しかし
生活の方がよっぽど優先で、日々の仕事と家事に追いかけられている間に、不安は頭の隅に追いやられてしまう。考えなくてはいけない様々なことから目をそらしていても、生活は続く。皮肉なことに、淡々と粛々と生活を送ることが心を落ち着かせて、不安を和らげてくれるのだ。
火曜日(晴)
自由学園明日館へ行った。フランク•ロイド•ライトの建築で、開放日は見学が出来る。
平日だけどそこそこ見学者がいた。人がたくさんいるにも関わらず、静けさがある空間だった。建物はもちろん、光の入り方も良い。蛍光灯がない時代の建築だから、採光に気を配っている。窓から見える景色が全部きれいで、大事にされている場所だと思った。
誰もいない教室が良かった。遠くから人々のざわめきとオカリナの音が聞こえた。
古い学校の匂いがして、小学校を思い出した。そういえばわたしは、あの頃も、学校の中で誰もいない場所を探していた。
この日は喫茶付見学ができて、食堂で休憩した。見学のみは500円、喫茶付見学は800円でコーヒーか紅茶と焼菓子がついてくる。温かい紅茶を飲みながらぼんやりした。プラス300円でこの経験ができるのは、素晴らしいと思う。
水曜日(晴れのち雨)
もう10年くらい好きなバンドの最後のライブへいった。とうとうこの日が来てしまった。ボーカルの彼はずっと泣いてたけど、もう既に今ではなく先を見ている感じがして、終わるべくして終わったんだなと、すとんと腑に落ちた。
普段は数年ごとにしか会えない友人と今年会うのは2回目で、また会えそうだからそんなに話さなくても良いか、とさっぱり別れた帰り際だった。買って来たグッズは片付けられずに、部屋の隅に転がっている。
木曜日(晴れ)
寒い。三寒四温ということばを最近くりかえし使っている。
金曜日(雨のち晴れ)
夕方外に出たらふわっとあたたかくて、冬が完全にいなくなった、と思った。春の真ん中。もうコートはいらない。
今年の桜は遅い。夜、帰宅中に桜を見かけたら、ほんの少しだけ花をつけていた。一緒にいた人と、咲いてるね、夜桜だね、花見できたね、と話しながら帰って、良い夜だった。最近、これは桜に限ったことではないが、どれだけきれいな景色を見たかよりも、誰とどんな気分で見たかの方が大事になりつつある。
土曜日(晴)
いつも会っている人が、他の人と話すときにぜんぜん違う顔をしていることに気づく。これは文章にすると当たり前のことなんだけど、複雑な気持ちになる。つまりは、みんなにきびしい人だと思っていたのに、特定の人には甘いことに気がついてしまい、拗ねて、やさぐれている。
誰にでもきびしい人だと思っていたからこそ受け流せた理不尽な言い分に、反抗したい気持ちと、いや面倒だから流してしまえという気持ちが両方あって、モヤモヤする。一方で、こんな風に心を揺さぶられることこそ、人間関係の醍醐味だね、とも思っている。
日曜日(曇時々晴)
小春日和。朝から3回洗濯して冬物を片付けるぞ、と思っていたが昼過ぎまで動けず、あきらめて全部コインランドリーに放り込んだ。大型洗濯機でガラガラやるのは気持ちいい。乾燥機が終わるのを待っている時間が好きだ。ここのコインランドリーは築50年は経っていそうなレトロな建物で、天井のパネルの柄とか、木製のサッシとか座布団とか、古いものを見ていると、妙に落ちついた。ときどき柔らかい風が入ってくるのも良かった。
洗濯と乾燥で600円。山のようにあった洗濯物はあっという間に片づいて、時間をお金で買ったことを実感した。浮いた時間で買い物へ行く。春の服を2枚買って、散歩して、ラーメンを食べて帰った。色んな花が咲いている。ただ歩いているだけで楽しくて、あんたのことずっと待ってたんだよ、と春に言いたくなった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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