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オールドタイマー(中編)

 講堂に集まった人々が、列を成して移動するのが見えた。先頭を走る麦藁帽を被った少年は、垂れた紐が顔に引っ付くのを嫌ったのか、ついには帽子を投げて遊び出してしまった。
誰もいなくなった講堂は、冷房が切られており、そんな猛暑の密閉された中でも、登り続ける線香の煙。古臭い、埃に塗れた臭いがする。

「都会ほど、暑くはないでしょう」
声がする方を向けば、先日家を訪ねて来た男が、部屋の隅に立っていた。棒立ち、とはこの様な姿を言うのだろう。
「盆はね、あぁやって皆で墓に参るんですよ」
「......皆、ですか?」
「そう、皆」
数秒間の沈黙の後、私の意図を理解した様に、「俺は余所者だから、参る墓がなくてね」と呟く彼である。

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