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食べて、掃いて、養って
親しき仲にも礼儀あり。そんな故事が浮かぶたび、僕は数少ない旧友たちに対して、礼儀を欠く行いをしたことはなかっだろうか……そう考えてしまうのだ。知らぬところで誰かを深く傷付けてしまうような行いが、本当になかったと言えるのだろうか、と。
その答えは、脳裏に住まう、少年期の僕の口から語られることとなった。
「大丈夫だよ。心配することなんてないんだ。僕は誰にでも優しくて、気がつかえて、礼儀をわきまえた子供であろうと努力したじゃない。知らずのうちに幸福を与えたことはあっても、傷付けてしまうことなんてなかったよ」
──その通りだった。なんだ、心配までして損した気分だ。この清廉な、潔白である精神が他人を不快にさせるなどあるわけない。むしろ僕を悩ませる友人たちこそ、こちらへの礼儀、配慮が足りないのではないだろうか。
そんなこんなで見事に思考回廊を脱した僕だが、彼もまた、様々な悩みを胸中に浮かべてるらしい。彼というのは、僕のルームメイトだ。昨日に書かれた記事を読めば、新生活に孕んだ不安をひしひしと感じることが出来る。
なるほど、たしかに君は遠く関西の地から、わざわざ僕を訪ねてくれた。二人で新たな生活を始めるにあたり、感傷的になるときもあるのだろう。しかし、我々は故郷にて固い友情を結び、互いに互いを讃えあったではないか。将来の夢を恥ずかしげなく語り合ったではないか。君の悩みは、それすなわち我々の解決すべき、二人の問題なのだ。二人の悩みなのだ。
というわけで、親しき仲にも礼儀ある僕からの提案を聞いて欲しい。普段、照れ臭くて口には出せないようなことだ。安易な考えかと思われた交換日記が、意外にも機能している事実に喜びを感じつつ、君の心に安寧が訪れる日を待ち遠しく思っている。
提案①:家賃について
君を苦しめている不安、それを取り除くにははたしてどうしたら良いのか。今月の帳簿を前にして、僕はまた素晴らしいアイデアを思い付いてしまったわけだ。
人は自らの未熟さ、そしてその至らない現状から延びる先行きに対して、不安感を覚える。いま我々が折半している家賃は、僕らが同等の権利をもっているという証でもあるが、僕はそれを放棄しようと思う。泣く泣く、である。
従って、君はもう僕と同列などではない。決して未熟などではない。以降、友人を養ってゆく成熟した男の一人として、堂々と、未来に臆することなく、家賃を払っていただきたい。
提案②:食事について
日々、コンビニ弁当にまみれる我々。口では「美味い!」と言いながらも、先々の身体に良い影響を与えているかは疑問である。そんな、明瞭としない健康への気づかいが、まさか君に大いなる不安を与えていようとは……。
明日の朝より、君に料理長の役職に就いてもらいたい。好きな材料を買い、好きな料理をつくり、楽しく食事をとる。料理は君の心、僕の胃袋を必ずや満たすことだろう。
ちなみに、僕は野菜と魚全般が嫌いだ。
提案③:掃除について
自らの家を清潔に保つのは、まさに心の安定に繋がることではないだろうか?
というわけで、明日の朝より君に清潔本部長の役職に就いてもらいたい。好きな場所を掃除し、嫌いな場所も掃除し、マンションの庭でも箒で掃けば、我々の評判も上がるというもの。
掃除は君の心、僕の部屋を必ずや美しいものにするだろう。
ちなみに、僕はトイレを汚すタイプだ。
我々は、たしかに「親しき仲」であった。君が明日より、料理長、清掃本部長、そして僕を養っていく庇護者になったとしても、変わらず愛すべき友人として、接していきたいと思う。
君はもう一人ではない。決して一人では……
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