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【連載小説】私、悪役令嬢でしたの? 侯爵令嬢、冒険者になる ~何故か婚約破棄されてしまった令嬢は冒険者への道を選んだようです、目指すは世界最強!魔王討伐! スキルは回復と支援しかないけれど……~

126. 令嬢、別離に咽び泣く ④

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 レッドやホワイト、シンシアの三人が消す事の出来ない傷を負っただけでなく、漸くようやく結集した仲間たちを再び離れ離れにする運命の亀裂がもたらされたのはつい先日の事であった。

 イーサンとデビットの二人に王宮から届いた報せは、転領、所謂いわゆる転封てんぽうの決定であった。

 転封てんぽう…… 普通なら滅多に決定されない事である。
 折角手を入れて、はっきり言えばお金と多くの人力を投じて開発した領地を他人に譲るなんて、そんな横暴な決定を飲ませる事はしないのである。
 建国の黎明期れいめいきに行われる粛清しゅくせいでもあるまいし……

 但し、今回の転封にはそれなりに納得できる理由が付随ふずいされていたのであった。

 曰く、

『デビット・アイアンシールド、其方をこの度、新たに調査し、王国の領土に加えた『死の荒野』、その地、辺境を耕し、人々を誘引する存在、辺境伯にじょする物である! これまでの其方の領地は同じくバーミリオン侯爵家のスコット・バーミリオン伯爵、トマス・スカウト伯爵の二人に譲り給え! さすれば、スコット卿は公爵にしょうされ、トマス卿も並び立つ侯爵となるであろう、イーサン伯爵についてもこれと同じく、東方に並び立つ辺境伯、マークグリフの爵をお受け頂きたい』

 この知らせを聞いたイーサンは迷いも見せずにエマに言ったのであった。

「お嬢様、辺境伯をお受けする事はこのイーサンには出来ません、どうか、デニーやクリスに図って王宮に働きかけて頂けませんでしょうか? 私、イーサンは、辺境伯となるデビット、そしてマリアが上手に領地経営を行う為に、この力の限りを尽くしたいと考えているのですが…… 如何ですか? お嬢様? 」

「まあ、貴方がそれを望むと言うのならデニー達に言う事は吝かやぶさかでは無いのだけれど…… 一体どうしてですの、理由を聞いても宜しくって、イーサン? 」

 エマの疑問にイーサンはいつに無く真剣な表情で答えるのであった。

先般せんぱんの復興作業の折に痛感したのですよ、私は人の上に立つ器では無いと言う事を…… ストラス様やデビットは見事に部下を掌握しょうあくして居られました! 二人は常に民を優先していました、多数の利益が少数を悲しませると言った場面でも、冷静に全体の事を考えて貴族らしい対応を取っていたのです…… レッドとホワイトの両師匠に対して命懸けの命令を課した事もそうですね…… 想像しました、自分が同じ決断を下す事が出来るのかと…… 結果は出来はしない! 私には青い血が足りていない、そう結論付けました」

「旦那……」

「でも、それならデビットだって…… お師匠達を魔人退治に向かわせた後で、何日も眠れずに自分を責めて────」

 デビットの呟きに続いたマリアの言葉を手を上げて制したイーサンは言葉を続けた。

「もう少し聞いてくれますか? 何も自分を悲観して配下に付きたいと言っている訳では無いのですよ…… 自分に非情な命令が出来ないと答えを出した後、私は更に考えたのですよ、自分が出来る事、他の者に出来なくても自分なら出来る事はなんだろう、と……」

 そこまで言うとイーサンは姿勢を正した後、エマを真っ直ぐ見つめて更なる言葉を続ける。

「気が付きました、私はエマ様の為ならばどれほど冷酷で残虐な事も躊躇ためらわないだろう事に! 私は人に仕え忠節を誓ってこそ本来以上の力が出せるのだと悟ったのです……」

「イーサン……」

 呟くエマに頭を深々と下げてイーサンは言った。

「お嬢様はデニー、ダニエル王子と結ばれて王太子妃に、いづれは王妃に御成りになります、これからはデニーがお嬢様をお守りする事でしょう…… 生涯お仕えすると誓った身で甚だはなはだ無礼な事とは存じますが、捧げた忠誠をお返し願えませんでしょうか? 私はこれより辺境に赴き、苦難に向き合うデビットとマリアを微力ながらも守っていきたいのです! お許しいただけませんか? 」

「イーサン…… それ程の覚悟なのでしたら、私に否は有りませんわ、デビット、マリア、あなた達は如何かしら? 」

「執事長、イーサン様……」

 言葉を詰まらせるマリア。
 デビットは兜を脱ぎ、真剣な表情でエマに対して聞いた。

「エマお嬢様、王宮からの報せには私が辺境伯になった際に授与する叙爵じょしゃく権について書いてありますでしょうか? 」

 エマはもたらされた書簡を検めあらためてから答えた。

「ええ、伯二、無し、男六、準男十二、士百の叙爵権が付与されると書いてありましてよ」

 デビットはエマに向け一礼をしてからイーサンに向き直って行った。

「ではイーサン、剣を……」

「っ! 」

 イーサンはハッとした後、即座に自らの愛剣ペジオ、スプンタ・マンユを抜いて柄をデビットに向け跪くひざまずくのだった。
 短剣を受け取ったデビットは美しい神聖銀の刀身を一頻りひとしきり眺めた後、剣をイーサンに戻しながら言った。

「イーサン・スカウト、貴方の忠誠を確かに受け取った、これより共に領の発展に力を尽くす貴方を伯にじょす、併せて家令の任とその権限をこれにする! ……これからも頼みますよ、イーサンの旦那? 」

「承知しました、こちらこそよろしくお願いいたします」

「わあ、心強くなりましたわぁ! エマ様ありがとうございますぅ! 」

「「ありがとうございます! 」」

 感謝を述べる三人に対してエマは微笑ましい物を見る様な、柔らかな笑顔と頷きで返すのであった。

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公爵令嬢冒険02


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