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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
68.出撃! オールスターズ ②

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 ボールを投げ切ってしまった時、善悪は両手にマチェットナイフを握り閉め、檀家オールスターズに指示を飛ばした。

「ここからは、肉弾戦でござる! 強襲パターンアルファでござる! ベータ、ガンマは待機でござる!」

「「「「おうっ!」」」」

 その声に答えて、左右のメンバーから二人づつ、四人の若者が前に進み出て返事を返した。

 揃って両手に収穫用だろうか、鎌を持っていた、所謂いわゆるシックルというやつだ。

 四人の準備が完了している事を確認した善悪は、躊躇ちゅうちょ無くロープの下、蝋燭の雨の中に身を躍らせると四人を鼓舞するかのように声を上げた。

「怖じるな! ゆっくりと焦らず追い込んで来れば良い! 狩りを始めるので、ござるっ!」

 合図を受けたアルファチームは、ロープの左右から歩を進めながら、慎重に隙間無く鎌を振って行った。

 蝋燭対策に確りと手拭でのほっかむりや、被り慣れた麦藁帽子を装備している。

 比してリーダーっぽく振舞っている善悪は馬鹿にしているのだろうか、剃り上げた頭頂を守る物は、ぺラっとしたラップだけであった。

 その状態でロープの中央に陣取り、マチェットをメチャクチャに振り回す密教の厳しい修行の日々を続ける坊主。

 追い詰められる獲物コユキの運命は正に風前の灯、かに思われた。

 スススと響く声が、善悪の近くから離れたように感じた、感じたのは、感じられたのは善悪只一人、オールスターズの面々は一切気付く事無く、慎重に鎌を振ることのみに集中していたのだ。

「逃げたでござる! 右翼に集中してガンマっ! 一斉照射でござるっ!」

 善悪の声に、慌てて右に回り込んだガンマ、二人の若者が農薬のたっぷり詰まった噴霧器を背負い、そのノズルを何者も存在し得無いであろう、虚空こくうに向かって射出し始める。

 善悪の狙いは彼奴の呼吸を乱す事、この一点であったのだ。 

 生きている炭素ベースの生き物が動き回る為には、酸素の補給を要する事は必然、故にここに取り扱い要注意の農薬部隊、ガンマを配置する事で、獲物の起動力を奪い去る事は、軍師、善悪にとっては当然の帰結きけつと言えた。

 だが…… しかし、常識を覆す存在は、あんまりいないが、確かにいたのだ。

 右翼の成果を心待ちにして注視していた善悪の後方、左翼側からあの忌々いまいましい声音が響いてきたのである、スススス、っと。

 瞬間、善悪は首から提げていたゴーグルと吸収缶を左右に備えた防毒マスクを素早く装備しながら待機を続けていた四人に叫んだ。

「逆でござる! 敵は左翼にありっ! ベータチームは、敵を無力化せよ、フレンドリファイアを気にすることなく、只々、あの、影を捉える事だけに邁進まいしんせよ!」

 的確な戦場把握はあく能力に一切の疑問を挟む事もせず、虎の子と言っても良い、オールスターズの精鋭、名付けて無音瞬殺部隊ともいうべき無情の四人が左翼側へと移動していく。

 非情なその手からもたらされたのは、滅敵の悪意、唐辛子、胡椒、ハバネロパウダー、タバスコ、スコーピオンなんちゃら、リパーなんたら、ドラゴンブレスとやらが、手に入るだけ加えられた噴霧器、及びウォーターブラスター水鉄砲からの一斉射撃であった。

 充満する致死性を伴った『辛味』の前に、バタバタとその身を臥しふし、ピクピクと痙攣を始めるアルファとガンマの若者達。

 終わる事無く噴霧される大容量のタンクを背負ったベータと共に、周囲を油断無く見回す善悪の耳に、あの聞き慣れた幼馴染の声が真後ろから響く。

「先生。 自分だけずるいんじゃないんですかぁ?」

 何の気配も感じさせずに響いたその声に振り向いたとき、善悪のマスクとゴーグルはシュルリとキャストオフさせられていたのであった。

「くっ! MMMMMMんんんん――――――がはっ……」

 中央(一番左右からの農薬&刺激物の多い所)に陣取っていた善悪が意識を失い、うつ伏せに倒れ込む迄に長い時間は必要ではなかった。

 善悪の最後の一言は、

「死んだ気で戦え…… お前らの先祖はわしの手の中である…… 供養して欲しければ…… た戦え…… ガクッ……」

であった。

 とんだ破戒僧もいたものである。

 やれやれ……

 それにしても、コユキの両足が動いていなかったのには驚かされた。

 贅肉の重量を使ってスライドするなど、そんな奇抜なアイディアを思い付くとは、考えたのはやはり策士善悪なのであろうか?

 興味が湧いて来たので、時間を遡って改めて確り観察して見る事としよう。

 …………

 ……

 ……


 結論から言おう。

 あのスライド式移動方法は誰かが意図した物では無かった。

 善悪とコユキ、それぞれの願いや思惑、感情の変化や未来への不安、それらが招いた偶然の数々が、複雑に絡み付いた結果としての必然であった。

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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