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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
111.砕け散れ!!

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 覚悟が決まった二頭、いや二人の戦士の決断は早く、それを裏付けるように行動は迅速であった。
 今までは必要に迫られなかった為、周りに張り巡らされたコンクリート壁も、その上に取り付けられた保護柵も壊そう等とは思いもしなかった。
 
 しかし、ここに収監されている殆どほとんどの動物が本気で破壊行為を実行した場合、この程度の檻に閉じ込めて置くことなど不可能だと言われている。
 だからこそ、先の大戦中も、まだ空襲の影も無かったにも関わらず、動物の脱走を恐れた帝国軍部の手によって、恐ろしい大量殺戮が実行されたのだ。

 今、己の使命に目覚めた俺にとって、壁や柵を破壊する事に何の躊躇も感じる事は無かった。
 出て行くのなら、正面から堂々と、これは譲れないのだ。

『コイツを粉々にする日が来るとはな…… ユイ、少し下がっているんだ』

 ユイが数歩下がったのを確認した俺は後ろ足だけで立ちあがり、勢いを付けて前足から壁に突っ込んだ。

『砕け散れ!! 』

ゴンッ!!

『……痛い』

 壁は俺の前足の一撃を受けても、なんら変化を見せずにそこに屹立きつりつしたままであった。
 一方俺の上半身はジーンっと痺れてしまい、あちらこちらの関節からは激しい痛みが伝わって来ていた。

『旦那様、全体重を掛けなきゃダメだと思うよ、見てて! ユイ、行きます! 』

 そう言ってユイは数歩の助走を加え頭から壁に、言葉通り全体重を乗せてぶち当たって行った。

ドゴンッ!!

 結果は俺の打ち下ろしと同様、壁には一条の傷も付ける事は叶わなかった。

 ユイはと言えば、頭頂に巨大なこぶを隆起させたまま、左右の瞳を不規則に忙しなく動かし続け、両の鼻の穴から鮮血を止め処なく滴らせながら、反転口元は何やらヘラヘラとだらしなく笑っている様に見えた。
 少し楽しそうに見えたので、俺はユイを放置して現状の分析と解決策の模索を始めた。

────思っていたよりも、人間の建設技術のレベルは高かったようだな……  さて、どうしたものか? こうなったら、バックヤードのスタッフ専用の扉を破って出るしかないか…… まあ、あの金属臭い扉だったら結構薄そうだしな~、うん、そうするか、裏から出よう

 そう決めてから、改めてユイの様子を見れば、まだ多少ダメージは残っていたようだが、大分回復したようである。
 俺は裏口から出る旨を伝えると、ユイを伴って、丁度人気のなかった通路を通り、スタッフ専用の扉の前に立って思った。
 出て行く事が大切なのだ、正面から堂々と、だとか、裏口からこっそりと、だとか、そんな事は瑣末さまつな事なのだ、と。


 結果は残酷だった……
 裏口の扉は正面の壁以上に、大変丈夫に出来ていた。

 俺は自分の頭に出来た大きな瘤から伝わってくる、激痛に耐えながら呟いたのだった。

『行き詰っちまったな……』

『……そうね』

ユイが二つに増えたこぶの下で、顔を歪ませながら答えた。

その時、

『力が欲しいか? 』

 不意に聞き覚えの無い声が頭の中に響くのだった。
 驚いて周りを見渡した俺は、同じ様にキョロキョロしているユイと目が合った。

『ユイにも聞こえたのか? 』

『う、うん、旦那様を助ける力が欲しいでしょって! 』

『俺を? 』

俺が聞いた声とユイが聞いた声では、少し違いが有る様だった。

『お前の望みを叶えられる力が欲しくは無いか? 』

はっ! 再び聞こえた声に、俺はユイの顔を覗きこんだ。

『旦那様を助けたければ、力を受け入れなさい、だって』

やはり、俺とユイが聞いている声は違うようだ、だが、今はそんな事はどうでも良い!
 俺は声に答え、時を置かずユイがそれに続いた。

『頼む! 力をくれ! 』 『お願い、力をちょうだい! 』

 俺とユイは何者かの力を受け入れる事に決めたのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!



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